■-19

ネプの日記-

 迷い、迷った末に、甘える事を繰り返していた。
 それを断ち切る為には、きっと壊さなければいけない。
 どうしても怖かったんだ。甘える事も壊す事も怖かったのに、片方へ傾いてしまう事が。
 どちらが逃げなんて、今の俺には解る訳が無い。



グレイの記憶-
 今日もネプは冷たい。目を合わそうともしてくれない。
 ぼくは不安で怖くなって、今日宿に帰ってからとうとうネプに言ってみた。

「ネプ、何かあったの?」
「別に何も」
「具合が悪いの?」
「何とも」
「…どうして?」
 返事を聞く度に辛くなってくる。こんなに辛い気持ちは初めてだった。
「最近ネプは怒ってるみたい…。ぼくが何か悪いんだったら、ちゃんと直すから…だから…」
 ぼくが言った瞬間、ネプから物凄く凍えた感覚がした。何か必死に我慢しているみたいな、一人きりの気持ちが。
 でもそれが何なのか考える時間も無くて、ぼくから顔を背けてたネプが急に振り返った。

「だから何だよ」
 ネプの真っ黒な目が久し振りにぼくを見る。怖いけれど、確かにぼくを見てくれてた。
「其処まで干渉しないでくれないか。…ああ、雇い主だからその権利があるのか?」
「そんなんじゃないよ…只心配で」
「心配?」
 表情も変えずにネプがぼくを突き飛ばす。倒れた先にベッドがあって頭は打たなかったんだけど、其処にネプが被さるように近付いてくる。
 伝わってくる怯えてるような気持ちはどんどん酷くなってくる。それよりも大きく、ぼくの中のネプを恐ろしいと思う気持ちが湧き上がる。

「其処まで入れ込まれてもね。君は本当にお人好しだな、裏切りとか想像は出来なかったのか?」
「そんな…だって…」
 こわい…こわい…、ぼくの中で恐怖が混ざり合って解らない物になる。
 ネプが酷く冷たい目でぼくを見た。

「…叩き込んでやろうか」
 そう言われて首根っこを掴まれた瞬間、頭が真っ白になった。
「いやっ!」
「がっ…!?」
 温度が移動するのが解った。
 重くて、気が付いたら瞑ってた目を開いてみると、ネプがぼくの上に倒れていて。
 体が全然あったかくない。

「あ…」
 まさかと思って、ぼくは何とか起きてネプを見てみる。確かめてみる。
 息、してない。

「や、やだ、ネプ!誰、か、誰かっ!」
 ぼくは熱を奪えても、元に戻す事はあんまり出来ない。ネプから奪った温度を戻そうとしても上手くいかなかった。
 怖くて、怖くて、なのにちぐはぐな侭終わっちゃうなんて。こんな事って無いよ。
 もうこんな事嫌だったのに。




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