■-45

かえりみち- 
 この街だって事は解ったんだけど、其処から先がぼんやりしててよく解んない。
 何処かっていうよりは、誰かのところに帰りたいんだけど、名前が思い出せない。
 何か特徴はあったかな…どんなだっけ…ええと…そうだ、アクセサリーをしてた!雪の結晶みたいな!
 でもそんなアクセサリー、何処にでもあるよね。どうしよう…そうだ、装飾屋に訊けば何か解るかも。行ってみようっと。




「おかえり、早かったね」
 何件か回ってから行ったところで、職人さんみんなにこう言われた。おかえり?ぼくは此処にいたのかな、って、ちょっと、装飾作りしろって、ええと、どうしよう…人を探さなきゃいけないのに。
 あ、でも、やってみると楽しいかも…。




 作ってたらすっかり日が沈んで暗くなっちゃった。前にぼくは装飾を作ってたって事は解ったからいっか。
 終わってから、雪のアクセサリーの事を職人さんに訊いてみた。
「ああ、あの兄ちゃんなら宿も変えてないよ」
 だって。名前を訊くのは何だか駄目そうだったから、宿の場所だけ教えて貰った。もう忘れちゃったのって言われたけど、あんまり不思議には思われてないみたい。
 宿に着いて、何処にいるか訊きたかったけれど、やっぱり名前が思い出せなくて、入口をうろうろしてたら宿の人に呼び止められた。
 「おかえり」ってまた言われた。ぼくはやっぱり此処にいたみたい。
「あの人を探してるのね?」
 多分、それで合ってるのかな。




「部屋で待ってたら?」
 宿の人に言われて、ぼくは部屋で待つ事にした。
 ベッドに座って、ぼんやり考えた。ぼくの会いたかった人はどんな人だったんだろう。
 ええと…あっ、一緒にアイスクリームを作ったっけ。
 他には…喧嘩した事もあった。仲直り出来たから良かったけど。
 武術を教えて貰ったり、躓いた時助けて貰ったり、お祭りの日は二人で遊んだり、いつもぼくの事をフォローしてくれて、綺麗な景色を教えてくれて、初めて会った時に手をしっかり握っていてくれて。
 いつだってぼくの側にいてくれて。


「ごめん…」

 あの時の凍えた声が何より優しくて。
 気が付いたら、何もかも思い出してぼくは泣いてた。そうだった。大切な人だったんだ。
 やっと思い出せて、やっと帰る事が出来て、凄く嬉しかったんだけど、大事な事が一個だけ思い出せない。




 外からどたどた足音が聞こえてくる。思い切り近くなってから、ドアが勢い良く開いた。
「な…」
 凄くびっくり、しちゃうよね、でも。
「待って!」
 ぼくが言うと、進みかけてたのをぴたっと止まってくれた。
「なっ、何?」
「あのね、凄く、凄く大事な事、まだ思い出せてないんだ」
「思い出す?何を?」
「殆どの事は思い出したんだけど、一つだけ…きみの名前が、どうしても思い出せなくて、だから、あの、ごめんねっ」
 頭を下げて謝ってみると、急に笑い声がした。
「怒ってる…?」
「いや、そんな事気にして、君らしいなって」
「だって、大好きな人の名前だよ?一番大事なところなのに」
「でも、忘れてるのはそれだけ?」
「うん、他の人は多分全部言えるよ」
「それなら上出来。…ああ、もうちょっと焦らすって手もあるのか」
「ええっ意地悪!」
「知らなかった?」
 そう言って、ぼくの事を優しく抱き締めてくれた。
「有り難う、戻ってきてくれて」
「うん!」
 このあったかさ、やっぱり大好き。



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