「多重モノがたりへようこそ」あらすじ


■-8

  はじめから
 ▷つづき



  はじめから
  つづき
 ▷



  はじめから
  つづき
 ▷おわる



 一階へ戻された四人は、再び塔へと挑む。塔の外周を上る道中にはアンデッドと化した四天王が立ちはだかった。
 四天王の肉を食い、ビジョンはドラゴン系最上位・ティアマットへ、ミゼレイは悪魔系最上位・アスタロートへと変化する。
 そうして二十三階の大階段の先、扉を開けて最上階へと辿り着いた。



 何処までも続く白い床と星空。遠くには一枚の扉があった。
 固く閉ざされている扉へ触れようとした瞬間、強い力で体ごと弾かれる。
「おめでとう! ゲームクリアです!」
 拍手が聞こえる。いつの間にか扉の前にはシルクハットの人物が立っていた。これまで各所で冒険のヒントを出し続けていた、如何にも怪しげな人物だった。
「煩せえよ……」
 怒りに震える凍霞へ、シルクハットの人物ははしゃいで手を打った。
「おお! その様子だと気付いたようですね、同時進行のゲームデータよ」
「ゲームだと……」
「随分舐めた事言うじゃんよ」
 今にも飛びかかりそうなビジョンとミゼレイへ、シルクハットの人物は嘲笑を向ける。
「これも神だからこそ出来る事です。ゲームへの調整も然り」
 神は緩やかな動作でフレイを指差し、続ける。
「特にこれは弄っておきました。瀕死に留めるのは難しかったですが、あとは記憶を改竄すれば、この通り」
 事故も、記憶喪失も、意志さえも、全てを弄んだ神へフレイは茫然とする。
「……潰す」
 凍霞の怒りでフレイは我に返り、今為すべき事を見た。そして沸々と湧き上がる、初めての怒り。
 神は厳しく四人をねめつける。
「やれやれ。全ては私が作ったモノだというのに……」
 本性を現す神へ、凍霞は強く言い放った。
「俺達はモノじゃない!」



 余裕の表情でいた神は、ある時顔をしかめて右手を払う。発生した強力な波動が四人を薙ぎ倒した。
「野郎、あんなもの隠してやがったか!」
 ビジョンの言葉に凍霞が喉奥で笑う。
「隠してたのを出したって事は、奴も焦ってるって事だ!」
 凍霞が傷付きながらも何処か楽しげなのは、その向こうを掴み取りたいからだろう。
 よく見れば神の姿が揺らいでいる。ビジョンが四つの頭で神に食らい付き、其処をミゼレイが剣で貫こうとするが弾き飛ばされる。だが一瞬の内に距離を詰めた凍霞が、神へエクスカリバーを振り下ろした。神は両手の波動でエクスカリバーを押し返そうとする。
「この私が授けたもので、私を討とうなど……!」
 エクスカリバーは神が作り出した剣だった。凍霞は不敵に笑う。
「じゃあ、そいつはどうかな」
 神の背後に忍び寄っていたフレイのサイコソードが神の脳天に食い込んだ。
「モノがたりは……おしまい」
 真っ二つに斬り裂かれた神は、やがて空間に霧散した。



 楽園へ繋がっているかもしれない最上階の扉へ背を向け、一階へと帰る四人。
「この世にゃもっと痺れるような肉がある! 俺を呼んでるんだよ!」
 そう告げたビジョンは今も各地を旅し続けている。
「兄貴をほっといたら無駄に煩いからなー」
 ビジョンの旅路にはミゼレイも同行していた。楽しげな二人の旅は相変わらず騒がしいのだろう。



 ベーシックタウンの往来を見ながら、凍霞はフレイへ尋ねる。
「お前は、行く宛はあるのか?」
「無い」
「そうか。そうだったな」
 するとフレイは凍霞を見据えて告げる。
「だから、貴方に付いていきたい」
 凍霞は目を白黒とさせるが、拒否する気は欠片も無かった。
「俺は少なくとも冒険はやめるぞ?」
「それでもいい。地獄の果てまで付き合うと決めたから」
 以前に自身が告げた言葉を思い出しながら、凍霞は軽く笑う。
「なら、早いところ果てを探すかな」



「よーっす! また来たぞーっ!」
「そのいきなり来るのはいい加減どうにかならないか?」
「だって連絡手段無いからさあ。それよりさ」
「何だよ二人してにたにたと」
「お前ら一緒に暮らしてんだろ、一つや二つなんかねえのか?」
「なんかって、お前な……」
「お、それ言わせるかあ? 例えば――ぎゃっ」
「ひえっ、麻痺爪持ってた!」
「やっぱりな」
「じ、じゃあ、一つだけ、聞かせろお……」
「何だよ」
「し、幸せか……?」
「――幸せよ」
「え」
「笑った、よ、なあ、今……」
「そうだな」
「えー!? もしかして初めてじゃないのか!?」
「狡いぞ……!」
「……狡いのも偶にはいいもんだな」



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