「多重モノがたりへようこそ」あらすじ
■-7
十階・空中世界にて白虎、十六階・都市世界にて朱雀を打倒し、悲しい別れも乗り越え、塔を上る四人。
旅路の中で凍霞は少しずつ認識を変えていく。
三人とは時折衝突もしたが、その後にまた手を取り合う。繰り返すそれに、やり直しが出来る、一度の過ちは全ての終わりではないと知る。
「人付き合いなんてそういうもんだろ。利害の一致ってやつだ」
以前フレイへ告げた言葉の意味もまた変わる。
利用し利用される、それを気負わず許し合う事が、信頼の第一歩だった。
二十階にて本棚の並ぶ小部屋を訪れ、本が全て塔に挑んだ者の記録であると知る。
「なんだこれ……一体誰が……」
不気味さに身震いするミゼレイ。ふと奥の本棚を見ると、凍霞がページを開いた侭固まっていた。
「凍霞?」
凍霞の表情はやがて憎々しげな笑みになる。
「そういう事かよ……」
凍霞から本を渡され、開かれたページを三人も読む。
『分割データ
平行世界の作成……Ver.1.3 クリア
魂の移動……………Ver.1.0 記憶の維持に不具合あり
Ver.1.1 クリア
凍霞:データ1……五階
青竜の稲妻により死亡
凍霞:データ2……』
「この世界とは違うところに、この世界と同じ世界があって、俺の魂だけ行ったり来たりさせていたらしいな」
「じゃあ、どっちが本物なんだよ……」
ミゼレイの疑問へ凍霞は吐き捨てるように答える。
「解らん。けどこの調子だと、どっちも作り物だ」
不気味さの中で、凍霞の怒りが静かに赤熱していた。
二十三階、四天王を統べる大悪魔アシュラの間。
世界の支配権をちらつかせるアシュラへ、凍霞は違和感を覚えて尋ねる。
「お前は本当に世界の支配者なのか?」
「寝惚けた事を。そうだと言っておるだろう」
「じゃあ、塔に挑む記録もお前のものか?」
アシュラは不満げに顔をしかめた。
「……何の事だ」
アシュラの反応で凍霞は確信した。
「教えてやるよ。お前も誰かの駒に過ぎないんだ」
アシュラさえ、乗り越えるべき小物に過ぎなかった。
アシュラを打倒し、二十三階の扉の前で落とし穴に落ちる四人。
「もう一度、上ってこられるか?」
遠退く意識で聞いた声こそ、世界の支配者のものだと確信した。
心当たりならば、ある。
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