もしも貴方を好きだったなら


■-3

 過去数回、男も抱いた経験があった事に良かったとは言わないが、役に立ったとは言える。勝手の解らない行為は時に体を傷付けるものであり、そうしたくないと思うのはヴィンコロを好ましい人物だと思うからなのだろう。それ以上でも以下でも無いが、今はそれで良かった。
 窄みに指を差し入れ、徐々に本数を増やして慣らしてやる。ヴィンコロは苦しげに呼吸を繰り返していたが、多少要領を掴んだのか安定してきていた。
「このくらいだろうな」
 指を抜かれ、ヴィンコロが安堵するような息をつく。どうしようもない無理のある行為に多少の恐怖心があったらしい。
 ふとイングラートが枕を掴み、ヴィンコロの腰に挟む。
「なんで……?」
 枕に触れながらヴィンコロが尋ねてみると、イングラートの指が反応している体の付け根辺りに触れた。
「さっきは此処で」
 指をなぞり、窄みに触れる。かなり下だ。
「今度が此処だ。こうせんとやりづらくて、お前が腰を痛めるからな」
「そっか……」
 何処か安心したような声音は配慮へのものだろうか。イングラートは先程の白濁でぬめる己の体を確かめると、そっとヴィンコロの窄みへ宛がった。
「ゆっくり深呼吸しろよ」
 そうして内部へ徐々に入ってくる。言われるが侭に呼吸して受け入れると、全身が熱くなる感覚に襲われた。やがて全て収まり、今度は留まらずにイングラートが少しずつ動き出す。
「ふ、うぅ、はあ……」
 苦しい感覚が続いていたが、ある時抉られた奥のしこりが疼き始める。
「んん、う……あ、あ……?」
 小さな疼きが全身に広がるのは早かった。感覚もすぐさま強烈なものへ変わり、体の強張りが抑えられなくなる。気付けば律動も速まっており、求めてやまない自身にヴィンコロは翻弄された。
「はあっあっ、あぁっん、も、もっとぉ……っ」
 喉を逸らして悦ぶさまは先程と変わらない。結局はどちらでも良かったのかもしれなかった。
 ヴィンコロの仰ぐ体を掴んで扱いてやると悲鳴のような声が上がり、ますます反応を示す。
「ひあっ、あ、ああぁあっ」
 あまりの感覚にヴィンコロの腰が逃げようとしたが、それをイングラートは片腕で引き寄せ、奥まった部分を強く突き上げた。激しい動きにヴィンコロの体が大いに揺れる。
「だっ、あっああっもうっ、うぁあっああぁっ」
 ヴィンコロが髪を振り乱し、行き場の無い悦びに叫ぶ。口の端に垂らした唾液が理性の無さを物語っていた。
「はああっ、だめっ、だ、あぁ、いいっ、いい……っ!」
 内部の締め付け方はあまり知らないようだが、それでも時折起こる締め付けはイングラートへ幾らかの刺激を寄越す。しかしそれよりは光景に満足しているほうが大きかった。
 激しく内部を抉られ、暴力的な悦びに溺れるヴィンコロが限界を示す。
「やっ、あっ、ああっああぁぁああっ!」
 ヴィンコロの体が痙攣し、反応しきった体からは押し出されるように欲が溢れる。多少遅れてイングラートも内部へ欲を放ち、やがて全てが収まった頃に身を離した。
「はぁ、はぁぁ……」
 広がった窄みから音を立てて白濁を垂れ流し、未だ痙攣しているヴィンコロを窺うと、今度こそ力尽きて満足したような表情だった。それに安堵する理由を考えるのは最早野暮なのかもしれない。
「平気かね」
「うん……」
 強い感覚が過ぎたのか、ヴィンコロの瞼が眠たげに下りてきている。後始末も間に合わないだろう。
「あにさん……」
 あまりに淋しげな声音であり、イングラートはつい手を伸ばす。その侭頭を撫でてやると、ヴィンコロは限界だったのか眠りに就いた。
 穏やかな寝息を聞きながら、イングラートは一つ息をつく。殊更ヴィンコロの事となると甘くなる己に今更ながら気付いた。口付ける事も、名前を呼ぶ事すらも無かったが、いずれもしなかった理由は言い訳にしかならないだろう。
「どうしたもんかね」
 呟いたが、恐らくもう何も出来まい。イングラートは体を拭く布を手に取り、丁寧に後始末を始める自身に呆れるしかなかった。



「んんー……」
 目覚めて大きく伸びをすると、戻ってきた思考が徐々に昨夜の記憶を連れてきた。しかし体を見ると不快な感覚は無く、汚れも寝具のみにある。
「おはよう」
 声をかけられてヴィンコロが振り向くと、隣の寝台に座るイングラートが見えた。今し方起きたのか、まだ身支度をしている。
「おはよう」
「体はどうだね」
「平気だし、よく寝たよ。片付けさせてごめん」
「気にせんでいいさ」
 普段通りの会話にヴィンコロらしさが戻った事を知り、イングラートは密かに安堵する。しかし、昨夜は単に多少調子が狂っただけなのか、本当にそれだけなのかの判断が付かない。答えは爽やかでいるヴィンコロだけが知るのだろう。



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