もしも貴方を好きだったなら


■-2

 一晩の音の遮断を願った後、イングラートはヴィンコロへ手をかざす。ヴィンコロへの影響を及ぼす合図だ。
「願え、お前の思う侭を」
 イングラートから告げられ、裸身で寝台に沈んだヴィンコロは思い描いた。その体に変化が起きる。骨格が変わり、肉付きも柔らかなものへと変貌を遂げた後には、豊満な女の体を持ってヴィンコロは其処にいた。自身で大きな胸を抱えてみると、弾力と柔らかさが掌へ伝わる。
「痛くなかったかね」
 願いの力が万能とはいえ、無理矢理の変化には多少の不安があった。しかしヴィンコロは軽くかぶりを振ってみせる。
「いや、痒くもなかったよ」
「そうかい。しかし、また派手なもんだな」
 胸は恐らく平均よりもかなり大きく、世の男からすれば理想を超えてくるだろうが、ヴィンコロの好みだとするには意外だった。
「だって、こういうほうが、いいかなって」
 それは両者にとってであり、健気なヴィンコロへイングラートは軽く溜め息をつく。如何なる時も自分の事だけを考えられない性格に足を掬われないかは不安の尽きない部分だが、其処が人に好かれやすくもあるので一概に直せとは言えない。
「それなら、良かったと思わせるようにするしかないな」
 イングラートの瞳に鋭いものが見えて、ヴィンコロが多少怯んだ。その隙にイングラートはヴィンコロの胸を鷲掴み、下から持ち上げるように揉みしだく。不慣れな感覚に襲われたヴィンコロは、徐々に呼吸が荒くなるのを知った。やがてイングラートの掌の中でそそり立った先端は、僅かにこすれる度にヴィンコロを疼かせる。
 イングラートが手を離し、両胸の先端を指先で摘まみ上げると待ち望んだ以上の感覚がヴィンコロの全身を駆け巡った。
「あっあ!」
 刺激に跳ねた体へ構わず、続けて指で転がすように押し潰す。充血した小さな尖りを弄られるだけで理性が体を離れていった。
「あ、んんうっ、はぁあ……」
 ヴィンコロの吐息に熱が宿ったところでイングラートが片方を解放し、胸の根元を掴むと先端へ吸い付く。
「ああぁあ……っ!」
 ざらついた舌で存分に舐め上げられると悪寒に似た小気味良さがヴィンコロの背中を駆け上がり、押し潰して円を描くように弄られるもう片方からも耐え難い感覚が押し寄せる。そうしてヴィンコロがいつの間にか濡れている股を擦り合わせ、次を求め始めているのをイングラートは見逃さなかった。ヴィンコロの胸から離れると腹の下へ手を滑り込ませ、小さく息衝く体へ指先で触れる。
「ひっ!」
 思ってもみなかった強い刺激にヴィンコロの体がまた跳ね、続けざまに押し潰して捏ねてやるとその腰が揺れ始めた。
「うあ、あっあぁ、だ、め、ああぁあ」
「嫌かね」
「ちが、う、あぁ、へんに、なりそ……っ」
 ヴィンコロが必死にかぶりを振る。その遣り取りも互いの欲を掻き立てているのだとイングラートですら思うしかなかった。既に体が形作っている。
「変ついでに、少し遊んでやってくれんかね」
 イングラートが差し出して示した体を見るヴィンコロの瞳は情欲に潤みきっていた。身を起こすと胸で挟み、間から覗く体を躊躇いも無く咥える。
「んふ、んんぅ、んくっ」
 胸を上下に動かしながら喉奥へ咥え込み、舌で裏や段付近を舐め上げ、吸い付いてくるさまに慣れたものすら感じたが、よく考えれば自らで心得た箇所なので不自然ではないのだろう。ともすれば其処らの女よりも加減を解っている。
「もういい」
「むぐ……」
 口を離すと粘度のある唾液が糸を引く。名残惜しそうなヴィンコロの顔はらしからぬもので、今だけでも欲に狂って良いようだ。
 ヴィンコロは寝転がると足を開き、イングラートから足を抱えられても緊張する様子は無かった。硬くなった体を宛がい、ぬめりで性急にならないようゆっくりと突き入れる。
「うっあ、は……あ……」
 肌同士が触れ合い、最奥を押し上げられた後には動かなかった。熱いものがただ内部を押し広げている。
「ど、して……」
「体にとっちゃあ異物だからな。慣らしてやれば体のほうも解ってくれる」
 答えを告げてもヴィンコロは納得を示さない。
「その間、つらく、ないかい……?」
 あくまでも相手への心配が募る言葉に、イングラートは小さく笑った。
「これからに比べたら可愛いもんだ」
 言い終わりに予告無く腰を引いてみる。そろそろ頃合いだった。
「ああぁあっ!?」
 続けざまに動かれ、激しい感覚にヴィンコロの手がシーツを握り締めた。揺さ振られると悦びが止め処なく襲ってくる。
「はあっああっ、うぅん、ああぁぁっ」
 ヴィンコロが感覚に溺れ始めたのを見計らい、イングラートの手が伸びた。大いに揺れるだけだった両胸の尖りを摘まんで引っ張り、捏ね回す。
「あっやっああっ、うう、あぁ、きもちぃ……!」
 零れた言葉が最後の理性を吹き飛ばしたのか、ヴィンコロの腰が律動に合わせて揺れる。イングラートも平静でいるつもりだったが、締め付けて欲する内部の与える感覚と目の前の光景に少なからず高揚感を覚えていた。
「はっ、ああ、ふあぁぁ……とけ、そう……」
「まだ困るってもんだ」
 中間辺りを抉っていた体がいよいよ最奥を押し上げると、ヴィンコロの腰が一段と跳ねる。腹の辺りが押し上がったように見えたのは気の所為なのだろう。
「ひぃあっ!」
 イングラートはヴィンコロの胸から手を離し、足を抱え込んで動きを速める。番った箇所からは粘液が溢れて止まらず、きつく吸い付く様子が引き抜く際の肉で解った。
「あ、あに、さんっ、ふあ、もっと、もっとっ」
 ヴィンコロが抱き付き、足を絡ませて求めてくる。蕩けた吐息で強請る事を何処で覚えたのか、それも今ではどうでも良かった。
「んんっ、いいっそこぉっ、はぁんんっ」
「そろそろ出すが、何処がいい」
「ふあ、なか、なかに……っ」
 イングラートから最奥を突き上げられる度に脳髄まで揺らされるような心地になり、ヴィンコロの思考が全てを手放す。最早それ以上の言葉は出せなかった。
「ああっあぁああ……っ!」
 ヴィンコロの腰が痙攣し、内部が収縮したところでイングラートも限界に達した。欲の侭に内部へと注ぎ込む。
「あふ……ぅぅ……、でてる……」
 全てを注いでイングラートが身を離すと、程無くしてヴィンコロの体が水音と共に白濁を溢れさせた。しかしヴィンコロの表情に満足は見えない。
「うぅん……」
 ヴィンコロが手を伸ばした先は番っていた己の体だった。広がった体を弄る指をイングラートに掴まれる。
「足りんかね」
「ごめん……」
 涙が生理的なものなのか否か判断が付かないが、泣いて求められるような心地になりイングラートは思わずヴィンコロへ覆い被さる。その背をヴィンコロが縋るように抱いた。
「だが、そろそろ時間切れだ」
 言われてヴィンコロは窓の外を確かめるがまだ朝の気配は無い。別の事であると思い当たった頃には、体が変貌を遂げて男に戻っていた。足りないとした体は粘液を滲ませる程に反応を示している。
 イングラートが耳元で囁く。
「とびきりやると言ったよな」
「まだ、いける……?」
 無抵抗がすぎる言葉に頭を揺さ振られるような気分だった。



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