オトモさんとハンターくん
■-3
いつの間に意識を失ったのだろうか。
薄く目を開けると、自宅の寝台にいる事が解った。朧げな意識で記憶を漁り、何が起こったかを完全に思い出して飛び起きる。まだ月明かりが見えるところ、あれから少ししか経っていないらしい。
ミスレアの姿を探そうと室内を見回すと、寝台の傍らに白い毛と二枚の紙が落ちていると気付いた。毛を手に取ると多少痺れるような感覚がある。
続けて紙を手に取ると、酷く不器用な文字が書かれている。読み進めると誤字脱字もあったが、言わんとする事はよく解った。
『みんなが薬とか目一杯使ってくれたから、きっと旦那さんの傷はすぐ治るニャ』
どうやらミスレアが、不慣れな人間の文字で書いたらしい。相変わらず背中は痛むが、動けない程ではなかった。
『あと、ボクの武器にあいつの毛が挟まってたから置いとくニャ』
手に伝わる痺れは雷でも残っているのだろうか。何にせよ特別なものには違いない。
手紙は二枚目に続いている。
『みんなが言うみたいにボクはやっぱり、ミスばっかりのネコニャ。だから旦那さんは、他のやつを雇ってニャ。今まで本当に楽しかったニャ。最後までごめんなさいニャ』
焦燥感が募り、最後には手の中の物を全て放り、深い夜へ走り出していた。
ユクモ村を出て、暫く歩いたところで疲労感に襲われ、路肩に座り込む。
この侭野で暮らすか。しかし野に住むメラルーやアイルーに受け入れられるのだろうか。だが今は不安より、大きな悲しみが胸中を満たす。凍えてしまいそうだった。
感情に押し潰されるように蹲る。この侭潰れて消えてしまえば、消えられたならば楽なのだろう。
「――さん、ミスレアさん!」
「ニャッ!?」
眠りに入ろうとしていた意識が一気に現へ戻る。
目の前には、いつものようにその場に屈んで目線を同じにしたアシュナがいた。
「なんでニャ、怪我がまだ痛い筈ニャ……」
するとアシュナは困ったように笑いを零す。
「はは……、ミスレアさん、こんな時にまで人の心配しちゃうんですね」
「だって、だって」
喉が苦しくなるが、言葉は次々に出てきた。
「ボクは、旦那さんとしてきた色んな事、全部楽しかったのニャ、だから、旦那さんがこれからも楽しいように、旦那さんを危ない目に遭わせたボクなんか、いちゃいけないのニャ……」
するとアシュナは明らかな怒りに染まった表情を見せる。初めて見る表情に、ミスレアは怯んだ。
「何を馬鹿な事言うんですか!」
怒声が胸中深くに突き刺さり、凍ったものを砕いていく。
「俺だって今までとっても楽しかったんです! 未熟な俺の側にいてくれて、ミスレアさんは楽しいって言ってくれた!」
言葉を切って耐えるように歯を食い縛ったが、耐えられなかったようだ。目元に溜まる涙が見て取れた。
「一緒にいたいって思うのに、それじゃ駄目なんですか!?」
ミスレアの顔から脱力したように表情が失せる。そして弱々しい声で告げた。
「あなたといてもいいのニャ?」
それは自問だった。その答えをくれた、望んでいた誰かは、目の前にいる。
二人して泣いた。悲しみはこれで最後にしようと誓いながら。
帰り道を並んで歩く頃には、空は白んできていた。
他愛も無い話に区切りが付いた頃、アシュナが改まってミスレアを呼ぶ。
「俺は一流のハンターにはなれないかもしれませんけれど、絶対にミスレアさんが悲しむような事はしませんから」
「ニャ……それじゃいけないニャ」
「えっ」
動揺するアシュナへ、ミスレアは指差しながら言い放った。
「両方きちんとこなさないと、ボク悲しいニャ! こういうの何て言うのニャ、文武両道……なんか違うニャ?」
言葉にアシュナは目を見開いて、次には嬉しそうに笑う。
「解りました、頑張ります!」
ミスレアは満足そうに何度も頷いた。
「それでいいのニャ。……で、早速だけどニャ」
「何ですか?」
「痛いの大丈夫だったら、ちょっと肩車してほしいのニャ」
「大丈夫ですよ」
抱き上げられて肩に乗せてもらうと、いつもより遠くがよく見える。
「……ありがとニャ、アシュナさん」
そして近くもよく見えた。
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