式、前日。 城は結婚式と披露宴の準備に家来一同借り出されて大騒ぎが繰り広げられていた。 ルルーは全体的な指揮を任され皆の仕事の進み具合を確認しながら見回っている。 のほほ達商人は披露宴の料理の材料や引き出物をそろえに駆け回り、 警備担当のドラコは城の間取り図とにらめっこしながら人数分担に頭を悩ましていた。 「あ、ルルー。一応こんな感じで考えてみたんだけど……」 ドラコはルルーに城の警備の人数が書き込まれた間取り図を見せる。 「ふむふむ、私達は自分で身を守れるからということでこっちは人数減らして、 披露宴会場やロビーのほうへ警備を回したほうがやりやすいんじゃないかしら」 「なるほどねぇ。外にもちょっとは配備しないとだよね」 ルルーの助言にドラコはにやりと笑う。 「いくら私達が協力するとはいえ明日、失敗するんじゃないよ?」 ルルーは背中でその言葉を受け止める。失敗など、絶対にしない。 大広間ではハーピーが色とりどりの大量の花でブーケや花飾りを作っては 桶に浸された水の中に入ったセリリが魔法で少し凍らせていた。 出来上がったものをスキュラやケットシー達が口にくわえては運び、 トリオ・ザ・バンシーがあちこちに飾り付けていく。 「あ、ルルーさん。お花綺麗ですよね〜♪」 「うふふ、軽く凍らせて明日まで綺麗にもつようにしているんです」 「あら、素敵。こっちは進行も問題ないみたいですわね。」 量と進行のスピードを目で測りながらルルーは皆に一言ずつねぎらいの言葉をかけていった。 「こんなに綺麗なのに、後を考えると勿体無いですね」 セリリが少し含みを持たせた言い方で残念そうに笑う。 「そうね、明日までしか使わないのを考えるとちょっと勿体無いわよね 終わったら皆で持ち帰りましょうか」 誰に聞かれても構わないような当り障りのない会話になるよう返すルルー。 その横でキキーモラは念入りに城を掃除して明日の客を迎え入れる準備をしていた。 「お疲れ様。手の開いている男性陣にもお願いしてはどう?」 キキーモラは思い出すのも嫌だというような顔でさらにモップを握る力をこめる。 「頼みましたがかえって汚すわ壊すわで。私が一つ一つやったほうが結局早いんです」 「ゾウにナスに魚人にナンパ男やミイラ、大足に死体にガイコツじゃぁねぇ…… あの男達には外のゴミ拾いでもさせておくわ」 「ええ、外に追い出しておいて下さい。仕事がはかどりません!」 「わかったわ、明日もあるからほどほどにね」 長い廊下を進み、突き当たりの曲がり角を曲がった所が結婚式にも使われる儀式の間だ。 儀式担当のウィッチが明日の式で使うものを儀式の間に運び入れていた。 「ウィッチ、そっちの進み具合はどう?」 「こちらの準備も手回しも殆ど全て完了してますわ。」 他人に聞こえないようにすれ違いざまにウィッチにささやく。 「貴方、まさか本当にあらかじめハーレムを説得どころか 重臣のほぼ全員を納得させていたとは、恐れ入ったわ」 「魔女を舐めないでいただきたいですわね」 にやりと笑ってウィッチは後ろからルルーの肩に手を置いて顔を近づける。 「明日の本番に向けて、予測不能な不安はできる限りつぶしたいのですの。 カーバンクルの手なずけはお任せしてありますけど、首尾はいかが?」 「昨日からお手製カレーフルコース付けにしてますわ。ずいぶんなつきましてよ」 「ならずいぶん安心ですわ。それでは、また明日」 「――明日、ね」 重々しく二人は確認しあい、頷く。 ルルーは騒々しい城の中を確認しながら歩く。全ては、明日だと。
城の一番上の見晴らしの良い部屋で、アルルは夕焼けをぼんやりと見ていた。 この喧騒も自分も何もかもがどうでも良かった。 入れ替わり立ち代りドレスだの髪型がどうの身に付けるアクセサリーはどれにするだの サタンが持ちきれないほどの何かを手に抱えてはアルルに見せる。 「君が、僕に見合うものを選んでよ」 面倒で、アルルはそれだけ言うとまた夕焼けをぼんやりと眺めはじめる。 「アルル、どれも気に入らぬか?」 「こんな僕で良いなら、好きにしていいんだよ」 「そ、そ、そうか!うーむ、ならば……これは……いや、こっちも……」 サタンはアルルの言葉を勝手に「貴方色にしてくれ」と解釈してドレスを選び出す。 求めてくれるなら誰でも良かった。 自分が本当に欲しかったものは自分で叩き壊してしまったのだから。
そして当日。 城に荘厳な音楽が鳴り響く。 廊下に敷かれた赤い絨毯の上を、家臣と警備兵たちが見守る中 漆黒のウエディングドレスをまとったアルルを従えサタンが歩く。 アルルの顔はベールに包まれて余りよく見ることが出来ないが、 ドレスの色が黒なのもあってかあまり明るい印象に見えなかった。 対照的にサタンは鼻高々、幸せ絶頂な浮かれ顔で歩いていく。 儀式の間には家臣の中でも特に身分の高い重臣達が左右に控え、 一番奥には祭壇がおかれ厳粛な雰囲気に包まれている。 祭壇の左右は司祭のような格好をしたウィッチと家臣筆頭のルルーが固めていた。 家臣たちは奥から実力順に並んでいるようだった。 元々ハーレムは后候補に家臣から才能の抜きん出た女性を見出して選ばれていたため、 儀式の間にはハーレム構成員が多く控えている。 色とりどりのカラードレスに身を包んだ女性達が、場の華やかさを演出していた。 「これより、結婚の儀を執り行います…二人は、前へお進み下さい」 ウィッチの声にアルルの手を取り左右に並ぶ家臣の間を進み出るサタン。 祭壇の前まで進み出ると、ウィッチは祝詞を上げ始めた。 「……の御前に……誓い、永遠の……」 魔女なだけあってこの手のことはなれているのだろう。 いつもより低めの張り詰めた声に厳粛な雰囲気がいっそう引き締まる。 「では、誓いの儀にうつります。」 ルルーが上にナイフを置かれた儀式用の装飾が施されたコップのような器をサタンに手渡す。 コップの中にはぶどう酒が注がれていて、その器を自ら祭壇の上に置くと サタンはナイフの刃先に指を少しだけ押し当て、滴った血を数滴コップに注いだ。 ルルーがサタンに手をぬぐうハンカチを渡し、サタンは受取ると指をふき取る。 ウィッチは祭壇の器を確認すると、アルルに向かって器を差し出した。 「花嫁はこの盃を取り、一口飲むのです。これにより誓いを――っ!?」 その時、城の照明が一斉に落とされ、何も見えなくなってしまう。 闇の中から儀式の間にすさまじい殺気を放った一人の影が踊り出、サタンの背後に飛び掛る! 「……の剣よ」 「サタン様、あぶないっ!」 ルルーがサタンを祭壇の前から自分の後方へ無理やり引っ張り出し、 主に襲い掛かろうとするその影の前にに立ちふさがった。 「切り裂けぇぇぇ!!」 「破岩掌っ!」 暗闇の中で大きな力がぶつかり合い、衝撃とともに爆風が部屋中に広がった。 ほこりや色んなものが暗闇の中爆風で舞い上がり散乱し部屋が混乱と悲鳴ににまみれる。 「キャアア!い、いったーい!」 「だ、誰か灯りを!警備兵!」 警備兵の一人が慌ててブレーカーを確認しに走ったが、確認するまもなく照明が回復する。 儀式の魔は爆風にルルーが守った付近以外の場所はめちゃくちゃに荒れ果てていた。 「げほっ、げほっ」 「な、なんなの?!」 「サタン様、お怪我は」 この混沌とした場の中で誰一人冷静に状況を確認できるものがなく右往左往する家臣達。 その中誰かの襲撃をサタンから庇ったルルーは、膝の辺りから少し血が出ていた。 「ル、ルルー様!ルルー様こそ怪我を!」 ミノタウロスがすぐに気が付いてルルーを抱えて運ぼうとするが、 ルルーは裾のほこりを払って自ら立ち上がり、尻餅をついていたサタンに手を貸し支え起こす。 「ミノタウロス、私は見た目ほどたいした傷はおっていないわ。 少し足を切られただけよ。私は良いからサタン様を安全な所へ」 「私も無事だ、マントがぼろぼろになったくらいで怪我はない。 手助けはいらぬ…っ、ア、アルルは?!」 サタンの言葉にアルルがいないことに気が付き全員が硬直して辺りを見回す。 しかしアルルは忽然とその姿を消していた。 「警備兵!お前ら本当になにをしていたんだい!侵入者が花嫁を攫っていった! ここの警備はいいからすぐさま追っ手を出せ! ただし来客にはこの騒ぎを決して悟られるな、急げ!」 ドラコの指示に更に真っ青になった警備兵が走り出す。 「サタン様、そのようなぼろぼろのお姿を誰か招待客に見られては不味いです。 ルルー様も怪我の手当てをしないと…こちらへ、誰か控え室に着替えと医者を」 キキーモラがサタンの衣装の乱れ様に二人を控え室に連れて行こうと誘導する。 「私達はめちゃくちゃになった儀式の間を修復いたします。 花嫁を連れ戻し次第すぐに式を再開出来るように致しますのでご安心下さい」 ウィッチがサタンのそばにひざまずいて言うが、サタンにはその声も耳に入らない様子で 「侵入者は何物だ!さっさと連れ戻せ!」 と回りに雷を落としながらキキーモラに引きずられていった。
「……ここまでは、作戦どおりですわね」 ウィッチは廊下に顔を出し、完全にサタンとルルーがいなくなったのを確認して呟く。 「あ、あのとりあえず儀式の間を片付ける間にワープゾーンを閉じておいたほうが」 こんな時でも控え目にセリリが言うと、 ウィッチは祭壇の後ろの壁にかかっていた大きなタペストリーを取り外す。 タペストリーの裏にはぐるぐると魔力の黒い渦が壁に広がっていた。 あの騒ぎに乗じて作っておいたこのワープゾーンにアルルを放り込んだのだった。 ウィッチが呪文を唱えると黒い渦が見る見る小さくなって消えていき、元の壁にもどる。 「向こうも今度は上手くいってくれればいいですね」 「まったく、魔界全体を巻き込んでの痴話喧嘩とかすっごい迷惑」 部屋に残っていた家臣たちは苦笑いし互いに軽口を叩きながら片づけをはじめた。 「これからが作戦の本番だよ。皆、気を抜かないようにねー」 ドラコの言葉に皆が頷く。 そうここからが本番だ、と顔を引き締めウィッチはタペストリーを元の場所に掲げた。
「ええいまだかっ、のろまどもがっ……!」 サタンは見た目は元通りにされた儀式の間に戻り、花嫁を待ち続けていた。 その顔には花嫁を奪われた苛立ちとあせりが色濃く浮かんでいる。 その横で手当ても済んで新しいドレスにも着替えたルルーが、怒り狂うサタンをなだめていた。 懸命に侵入者とアルルを警備兵が探し回っているのだが何の手がかりもなく、 いたずらに時ばかりが過ぎていった。 恐れ多そうにウィッチがサタンに伺いを立てる。 「あと半刻ほどで披露宴の時間になってしまいますが…… このまま披露宴の時間までに見つけられなかった場合、いかが致しましょうか」 サタンはいらただしげに祭壇の前でうろうろしながら言う。 「その時は――式を延期するしかあるまい」 「しかし、花嫁を式中にまんまと奪われた挙句見つけられもしなかった、 と回りに知られたら魔王の威厳に傷がつきます」 「ではどうしろというのだ!元はといえばお前らがふがいないせいであろうが!」 最高に機嫌が悪いサタンはどんどんと足を踏み鳴らす。 「幸いにも招待客には花嫁が誰なのかも花嫁を攫われたことも気付かれておりません。 この際代役を立てて式を強行してしまったほうが良いのではないでしょうか?」 「だ、代役?!」 さらっととんでもないことを言い出すウィッチ。 しかしサタンを除いてその意見に異を唱えるものはいない。 むしろ、ウィッチの言葉に賛同する囁きがあちこちからもれ始めた。 「確かに急ぎで作ったゆえ招待状には花嫁は誰とは書いてなかったが… 代役など立てるにしてもそんな役を一体誰にするというのか」 突拍子もないことを言われ、サタンは頭の回らないままウィッチにぼやく。 家臣たちは一斉にルルーに視線を注ぐ。 「え、わ、私?!」 ルルーはいきなり自分に注目が集まり慌てふためき自分を指差し周りを見回す。 「ルルーさんしかいませんよね」 「うん、ここはルルーだよね」 「ルルー様が一番いいと思うゾウ」 「にゃー」 「ちょっと待てお前ら、ルルーを正妻に迎えるといってもルルーには魔導力が」 「そもそもサタン様ほどのお力を持つ方なら魔導力を持ったお相手を選ぶ必要はないかと……。 それにルルーさんは確かに魔導力はありませんが臣下一の実力を持つ女性です。 どうしても魔導力を持った女性が必要なら別に正妻ではなく側室でも良いのでは」 家臣たちはウィッチの意見に一斉に頷く。 「しかしだな、私は」 口々に家臣たちはアルルよりルルーのほうが正妻にふさわしいと畳み掛ける。 「王妃として必要なのは純粋な力だけでなく美しさに威厳に品位に知識に皆を纏める能力」 「その点ルルーはこういってはなんだけど魔導力がないことを除けば最適かもねぇ」 「これまでハーレムや家臣を纏め上げていたのはルルーさんですし サタン様を外からも内からも支えつづけていた功労者です」 「それに……このような日に問題を起こした人が魔王の正妻にふさわしいかしら……」 「確かに、後日アルル殿を取り戻したとしても口さがない人たちに何を言われるか」 「下手な噂を立てられるくらいならなかったことにしたほうがずっといいかもしれません」 サタンは魔王としての意見を言うとするが、いわれる前にどんどん家臣たちに先回りされ 言葉を抑えられていってしまい、結局何もいえなくなっていってしまう。 「ぬ……ぬぬぬ……」 サタンは皆の意見に気おされどう反論して良いか必死に頭をめぐらすが言葉も出ない。 「ぐー!」 その中誰かが連れてきたのか、カーバンクルがひょっこりと儀式の間に歩いてきた。 「お、おおそうだ、我が妻はルベルクラクを所有するもの、 すなわちカーバンクルちゃんが認めた人間を」 これはいいタイミングに、とカーバンクルを抱き上げて ルルーを正妻に上げるという意見をサタンは婉曲的に却下しようとしたが―― 「ぐぅぐぅ」 カーバンクルはサタンの腕をするりと抜け出してルルーの肩に乗りすりすりと甘えだす。 「認めてますわね」 「これ以上ないくらいに懐いてます」 「ルルーさんに甘えるカーバンクルちゃん、可愛い」 「はらひれほろはれ〜♪」 「ううっ」 最後の反論もあっさり蹴られてサタンは口篭もる。 何かがおかしい、流れが出来すぎている! サタンはこの乱入事件が何者かの手引きに行われたことにはとっくに気が付いていた。 内部に共犯者がいなければあそこまであっさりと花嫁を攫うなんてことは出来ない。 後ろから自分に迫った侵入者の殺気を思い出すとぞっとする。 庇ってもらわなかったら後ろを完全に取られていた以上命を落としてもおかしくなかった。 心情的にはルルーが怪しいが、攻撃から自分を庇い負傷までしていることを思うと……。 サタンはルルーに顔を向ける。 「式をぶち壊しにするために儀式中にアルルを攫う。 その時サタンとアルルを引っぺがすためにシェゾがサタンに襲い掛かるから防げ、 演技だとばれないために本気でやること。その後はうやむやにする」 としかウィッチから聞いていなかったルルーはこの成り行きについていけずに 口をぽかんとあけて騒然とする間を見ていた。 その表情をみて、ルルーがこの事件に関与しているとは考え難いとサタンは思う。 なら、一体誰が……? 「さあさあどういたしますかサタン様」 「無理にその意思がないのに結婚しろとは家臣の身ではいえませんからねぇ」 「でもその点ではアルルもサタン様と結婚したがっているようには見えなかったし」 「しかしルルーさんは本当にサタン様を愛しておそばにいましたよ?」 「きぃくぅぴぃ」 「くっ、うむむむむむむ……」 にやにやとその場の全員がサタンに悪意のある笑みで見つめている気がした。 もしや、これはルルーを除く家臣全員の計画なのか? それならば全てのつじつまが合う。警備がこの儀式の間だけ薄かったことも、 何の痕跡も残さずに花嫁を攫ったことも、全員の意見が合いすぎていることも。 しかし状況的にそれが一番可能性が高いといっても何も証拠がない。 それにそんなことを口に出せば本当でも嘘でも家臣たちは 「証拠もなくなんて事を言うのか」と全員で反論してくるに違いなかった。 サタンは背中にぞわぞわとしたものが這い上がるような感触に思わず身を振るわせた。 「わ、わかった、ルルーを正妻として認め、迎えることにするっ…」 『わあああああああああああ!!』 サタンの宣言に儀式の間に歓声が上がる。 もしこの憶測が当たっていたとしたら。 下手に反対を押し通せば魔王の威厳も、家臣も全て失うことになりかねない。 しかも一応家臣達の意見のほうが正論だった。無理に我を通すことは出来なかった。 口元を震わせ、サタンは引きつった笑顔を浮かべ歓声を受け止める。 「おめでとうございますサタン様!」 「サタン様万歳っ!」 「新王妃ルルー万歳!」 「おめでとう、ルルー!」 「わ、わたっ、わた、私が、サタン様の」 ルルーは夢でも見ているのかと自分のほっぺたをつねってみる。 「痛い。夢じゃない。」 「……夢ではないのか、これは」 「ほらほらそうと決まったら途中からでいいですから誓いの儀式の続きを!」 ウィッチがそれぞれ空中を見て動かない二人を引っ張って祭壇の前に連れて行く。 「ルルーさんルルーさん」 ちょいちょいと後ろからセリリがルルーの肩を叩く。 「あ」 ごくり。 振り向いたルルーの口に、セリリはサタンの血が混じったぶどう酒を注ぎ込んで飲ませる。 「はいっ、無事に誓いの儀式終わり!というわけで次はー?」 「やっぱここは定番のキース、キース、キース、キース!」 ドラコが二人をはやし立てはじめる。 周りも載せられてぐんぐんテンションがあがり部屋中にキスコールが響きわたる。 「サタン様……」 うるうると目を潤ませ今にも嬉しさでなきだしそうなルルーはサタンに抱きついた。 「ルルーは幸せものです!一生、ついていきますっ!!」 ルルーがサタンの首を引き寄せ押し倒し、ぶっちゅううううと熱く唇にキスをかます。 「ぬああああー!」 押し倒されたサタンはルルーの下でもがくが、当然腕力ではルルーに敵うものはない。 背骨が折れそうなほど強く抱きしめられ、口を口でふさがれもがくサタンの体が ピクピクと痙攣しているが誰も止められはしなかったしとめる気もない。 「うっひゃあああああ!お子様には目に毒ですわー!」 「いやああん、皆が見ている前でそんなルルーってば大胆!」 「鐘を鳴らせ!祝いの花火をあげろー!」 「魔王サタン万歳、王妃ルルー万歳ー!」 ウィッチはなんとか上手く行ったと胸をなでおろしながらため息をついた。 「ふう、やれやれですわ…」 喧騒の中疲れて廊下の手すりにもたれかかる。 夜空を見上げると城を何発もの花火が明るく照らしていた。 ウエディングベルが二人(?)の幸せを祝福するように いつまでもいつまでも遠くまで鳴り響いていた。
「てやっ」 アルルを抱えて作っておいたワープゾーンを越え、シェゾは自分の部屋に着地した。 「ぜぇぜぇ……何とか成功したな。にしてもルルーも手加減ってものを知れよ、ああ痛ぇ」 拳の辺りがずきずきと痛むのをこらえてシェゾはアルルをベットにおろし、 傷みを振り払うように手を振る。よく見ると少し手の甲がすりむけ、赤くはれていた。 あらかじめ打ち合わせしておいてもさすがに暗闇の中で戦うのは難しく、 ルルーもシェゾもお互いに本当に軽くだがダメージをあたえてしまったようだった。 「ど、どうして?シェゾ……」 疲れきった顔でシェゾはどかっと床に腰を下ろし、アーマーや剣を外すと 頭を抱えて自分のやらかしたことの大きさに苦笑いして汗をかいた前髪を掻き揚げた。 「俺もまさか魔王の結婚式乱入に花嫁略奪なんて経験する日が来るとは思わんかった。 あー、城とこの部屋にワープゾーン作ってつなげておいて脱出したんだけどな?」 「ちがうよ!!なんで、こんなこと」 「バーカ」 ぺしっと、立ち上がったシェゾがアルルの頭を軽くはたく。 「いたっ、馬鹿ってなにさ、馬鹿って」 「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い!ばーか、ばーか、この大馬鹿ーっ!」 「わかんないよ!どうしてこんなこと……馬鹿なんかほっとけば良いでしょう!」 「だから馬鹿だといっているんだこの馬鹿。わからなければわかるまで言ってやる、 アルル、お前が欲しい。俺は馬鹿で話も碌に聞けないお前が欲しいんだよ」 いきなり連れ去られ訳がわからなく激昂するアルルに、 シェゾは心から優しい笑顔でアルルの目を見ながら初めての本心を打ち明けた。 アルルはシェゾの言葉を信じられないと首を横に振りながら問い詰める。 「じゃあなんで、僕の魔導力すら取らなかったくせに!」 「そもそも俺、というか人間ごときじゃお前の魔導力は取れないんだが」 「え……?」 「わかったか、わかったらおとなしく俺のものになれ」 シェゾはアルルの身体を乱暴に押し倒してのしかかる。 「ちょ、ちょっとちょ、ちょまってよ!」 「無理だな。これ以上は待てない。 ぐずぐずしてたらまたお前はどっか他の男の所に行っちまうだろうが」 「本当に欲しかったなら、なんでなんで、僕に今まで手を出さなかったの。 僕のこと、汚れてるって思ったんじゃないの?」 シェゾは首を横に振った。 「汚いと思ったなら最初から助けない。ただ付け込むようなことはしたくなかった。 ウィッチにもへタレ鈍感だのインポだの正直になれだの殴られながら言われて やっと目がさめた俺が言うのもなんなんだけどな…… 多分俺はお前より強くなってから自分のものにしたかったんだと思う。 俺はずっとお前に負けつづけていたからな、かっこ悪くて何もいえなかった」 シェゾは少しばかり眉にしわを寄せて切ない目でアルルに言う。 「しかし他の奴に手を出されるくらいならさっさと手を出しておけばよかったと今は思う。 だからもう待たない。アルル、あんな奴のものになるくらいならお前の全てを俺によこせ」 その目には自分の下手なプライドで回りくどいアプローチを続けたせいで 結果的にアルルを傷つけ誤解させたことの心からの後悔が滲んでいた。 「……」 アルルはシェゾの目を見て、あの時自分が起きた時に、 必死で悪夢からこちら側に連れ戻してきてくれたことを思い出す。 「クッキー、美味しかったぞ。あの時何枚か落としてしまったやつもちゃんと食ったぞ」 シェゾの言葉にアルルの目に涙が滲んだ。 「シェゾ、シェゾっ……」 アルルは感極まってシェゾの胸に顔をうずめ、頬を摺り寄せて甘えるように寄りかかる。 「もう、やけを起こして他の男の所に行くようなことは絶対にするな。 お前は俺のものだ。というか強引にでも俺のものにさせてもらう。」 「あっ」 ウエディングドレスを脱がそうと、アルルを強引にひっくり返し背中のファスナーを引き下げる。 ドレスの中のコルセットを剥ぎ取って壁のほうへ投げ捨てた。 あらわれたアルルの白く、健康的な身体を強く抱きしめる。 目の前の背中に舌を這わす。背骨に添って、何度も何度もゆっくりと舐めあげた。 「あ、あ、シェゾ、いやっ」 「お前、乱暴にして欲しいとか何度も俺でオナニーしたとかいってたじゃないか…」 あまりにも生なシェゾの言い方に、アルルは顔を赤くして手を振り回す。 「ばっばばばばばかっ、こんな時に何をうわあああんもうこの変態っ!」 シェゾは暴れるアルルの腕を掴むと、片手で両手首を押さえつけながら耳元に囁いた。 「ああ、へタレといわれるくらいなら変態で十分だ。 その変態が好きなお前に言われたくはないけどな」 シェゾの反論にぼっとアルルの顔から火が吹く。 「それとももう嫌いになったか?」 自由な片手で開いた背中から胸へ指を差し入れながらシェゾはアルルに問い掛ける。 アルルは少し間をおいて無言で首を横に振った。 「鈍感。僕は、僕は君のことが……」 「そうか、なら」 「あうっ」 指がアルルの乳首を探り当てて転がす。 「そのまま、俺の腕の中でいい子にしてろ」 シェゾはアルルの背中に顔をうずめ指先で胸を弄りながら、唇で背中を強く吸い跡をつける。 これは自分のものだ。誰にも渡すものか、と言うように何個も何個も印を残していく。 「んう、シェゾ。本当に僕でいいの……?」 「お前が欲しいんだ、こんなこっぱずかしいこと何度も言わせないでくれ」 跡をつけるたびに腕の中のアルルの身体がピクリとはねる。 全て脱がして体中に独占の証をつけてやりたいのに、かさばるドレスが邪魔で仕方がない。 サタンがアルルに着せたドレスだと思うと心の奥にどす黒い気持ちが湧いてくる。 「どうせあいつが選んだんだろ。こんな悪趣味なドレス」 嫉妬にかられてファスナーの付け根からスカートの繋がっていた所を力任せに引き裂いた。 引っかかる所がなくなり脱がし易くなったドレスをアルルから剥ぎ取ると、 アルルが身にまとうものを取られた恥ずかしさと乱暴さに少し丸くなってベットに縮こまる。 「シェ、シェゾ、ね、怖いよ、もう少し優しくして?」 「ああ悪い、ついあのロリコンにお前があれこれされることを想像したらな…。 念のため確認しておくが、まさかあいつに何かされてないよな?」 シェゾはアルルの耳元に息を噴きかけながら低い声で確認する。 アルルは耳から来る声の振動にぞくぞくしながら必死に首を振った。 「あ、あ、されてないよっ。もし、さ……されてたら?」 「城にもう一度乗り込んであのロリコンをぶっ殺してくるところだ」 冗談を飛ばしながらアルルの髪を優しくなでてやり、 恐がらせて堅くなった身体のこわばりを解いてあげようと 何度もいとおしそうに首元に甘く噛み付くとシェゾは荒い息をついてアルルの唇をついばむ。 柔らかい唇の感触を楽しみながら、じゃれ付くように唇をはみ、舌で唇を軽く舐めては吸う。 「んっ、シェゾ……」 「アルル」 お互いの首に手を絡ませ、髪を愛撫し合いながら舌を深く絡みつかせた。 絡みつかせた指を解いて手を脇腹から、ゆっくりと太ももまで何度もなでる。 少し顔を離して鑑賞すると、少女特有の丸みを帯びた豊かな曲線が息づいていた。 手当てや着替えの時にも触れたには触れたが、あの時は楽しむどころの気持ちじゃなかった。 生唾を飲み込みながら心行くまで柔らかさを楽しみつつ、じっくりと舐めまわすように アルルの身体を上から下まで視線で犯す。 亜麻色の髪、潤んだ大きい瞳、華奢な首筋、小ぶりだが形の良い胸、 健康的に引き締まったお腹から尻、太もも……そして太ももの奥。 濡れて張り付いたショーツが、かえってその場所を隠すどころか形を浮き上がらせている。 「や、やだっ、そんなところあんまりじろじろみないで……」 シェゾの視線に自分がどんな風になっているか気が付いたアルルは、 太ももを慌てて閉じようとするがシェゾの手がそれを許さない。 「何度かは既に見てるんだが、じっくり眺める余裕もなかったんでな。 アルル、お前は俺のものだって身体に教え込みたいんだ。お前の全てを俺に見せろ」 「言い方がやらしいんだってば……やっぱりシェゾ、変態だ」 自分のものだと所有欲をもたれるのは悪い気がしないが、 アルルは変態的な言い方に恥ずかしさを覚えて視線をそらす。 「はは、すまんすまん」 なおもなにか言おうとするアルルに、指をショーツに滑り込ませて黙らせる。 「あっ、……意地悪っ」 肝心な所はさわらずに、周りを焦らしながら指で揉み解すようにふにふにと刺激する。 「んん……くぅっ」 指で閉じたり開いたりを繰り返し、中心に淡い刺激を与えながらアルルを煽ると、 アルルはじれったさに太ももをすり合わせるようにして身をよじらせる。 「あ、あ、ああっ」 シェゾが堅くなった乳首を口に含み、下腹部への愛撫とは違って強く吸い上げると、 アルルはたまらずに声をあげてシェゾの背中にぎゅっとしがみつく。 ちゅうちゅうと音をたてて吸い付くと、そのたびに切なげな声がアルルの口から漏れた。 下着にもぐりこませていた指を割れ目に沿ってなで上げると、 ぬるりとした感触が指にも伝わって絡み付いてくる。 それを潤滑油に指を何度も溝に沿って動かすたびに、水気のある音が響いた。 「んっ、あ、ううっ、だ……めっ……」 中指と人差し指を中に入れ、入り口をほぐすように動かしながら親指で肉芽を転がす。 「あ……あっ、ああ……」 自分のあふれ出る声を抑えようと手で口を抑えようとするが、 手に力も入らないくらいに感じて戸惑う少女がいとおしくてたまらなかった。 「お願いシェゾ、もう……もうちょうだい……これ以上されたら、ぼくぅ」 ちょうだい、と腰をゆすってシェゾの指を深く自分から受け入れながら、 可愛い声でおねだりするアルルに、シェゾはこれ以上ない興奮を覚えて下着を脱がし、 いきり立ったものの先端をあてがい、アルルの奥まで一気に挿入した。 「あああっ、シェゾっ……!」 自身を貫いた衝撃にアルルの口から悲鳴に近い声があがる。 「っ……と、アルル、すまない、痛かったか?」 アルルの声に、もしや性急過ぎて痛みを感じさせてしまったかと 動きを止めて呼吸を落ち着くまで待ち、身体を抱きしめてアルルをいたわる。 「はぁっ、ううん……びっくりするほど気持ちよくて…… ごめんね、全然痛くないの。ごめんね……初めてじゃ、なくて」 アルルは少し目を伏せて自分の愚かさで相手に純潔をささげられなかったことに詫びる。 「俺が初めての男で、お前は俺のものになってくれるんだろ? だったら俺はそれで十分だ、アルル」 気にするなというように頭をぽんぽんとなでてやると、 両手で頬を包むように触れ、自分のほうへ向かせるとつながりながら唇を重ねた。 なまめかしく舌をからめ、口を離すと唾液がつっと一筋糸を引いて、落ちる。 シェゾは安心させるように指で優しく伝った唾液をふき取ってやると、 もう一度だけ軽く唇を重ね、顔を離す。 「――動くぞ、もし痛かったら言え」 「ん……ありがと」 ゆっくりと慈しむように相手の体温を感じながら、シェゾは動き始める。 腰の動きに合わせてアルルの胸が揺れ、官能的な光景にシェゾは興奮しながら 動き易いように膝を裏から軽く持ち上げ、深く奥までつくと繋がった場所から みだらな音がそのたびに響き渡り、二人の興奮を更に高めていった。 「んっ、あ、シェゾ、シェゾっ……」 背中の服をぎゅうっと握り締めて快感にたえ首を振るアルルに、可愛さを覚えて シェゾは更に欲望のまま腰を打ち付け、吐息を漏らす。 息も絶え絶えに愛しそうにシェゾの名前を呼びながらしがみつくアルル。 時折唇を絡ませ、耳をついばみ指で胸をさわってやりながら、 愛しい人の感触に溺れるようシェゾは何度もアルルの中を行き来した。 「あっ、僕、もう、もうだめ、シェゾっ」 「ああ、俺ももう限界だ……行くぞ」 アルルの限界が近づいて中が急激にしまるのを感じ、シェゾも急激に快感が高まっていく。 「ああああっ、シェゾ、あああ、っ」 「アルルっ」 びくん、と体がはねて入り口を痙攣させ絶頂を迎えたアルルに、 遠慮なくシェゾはアルルの中で欲望の全てを解き放った。 繋がったまま、アルルの身体に密着し体の熱が冷めるまで横になって抱き合い、 荒い息を整えながら求めるままに頬を寄せ指を絡ませる。 アルルはシェゾの胸に抱かれながら、ぽつりと思い出したように言った。 「……そういえば向こう、どうなってるかな。大変な騒ぎになってるだろうなぁ」 「心配ない、今ごろはルルーとサタンの結婚式になってるはずだ」 「何それ」 「いや実はな、ウィッチがだな――」 怪訝そうな顔をするアルルに、シェゾはおかしそうに笑いながら計画を話すと、 アルルもつられてぷっと吹き出して笑う。 「やっと笑っってくれたな、アルル」 「あ。花火?に、鐘の音――?」 ドーンと、遠くから花火の音と光が部屋に差し込む。 アルルは半身を起こすと、窓から見える花火を目を少し細めて見つめた。 「ほら見ろ、祝いの花火にウェディングベルだ」 サタンの城のほうから鳴り響く鐘の音と夜空に舞う何発もの花火。 二人は窓の外の景色を眺めながら身を寄せ、夜が明けるまで幸せそうに笑いあった。
後日談
ウィッチたちルルーを除くハーレムにいた女性達は、 今回の騒ぎが自分達によるものだ、ただしルルーは関わっていないと サタンにルルー以外のことは正直に話し、ハーレムから退いて責任を取る形になった。 堂々と彼氏を作ることもできるようになって皆楽しそうである。 表向きはサタンがルルーを愛するゆえにハーレムを解散したことになったため、 サタンの名声は一気に高まり、サタンは拳を振り上げることすら出来なかった。
一気にアルルどころか側室候補も失ったサタンはしばらく不機嫌だったが、 ルルーのひたむきで一途な無償の愛にほだされるうちに、 ルルーが第一子を妊娠するころには魔界一のおしどり夫婦と評判になっていた。 もともとルルーのことは常々魔導力さえあれば、と残念がっていたくらいだったし、 アルルについては今まで簡単に何もかも手に入っていた自分が 唯一思い通りに出来なかった相手だから執着していたと気が付き ルルーへの愛情が一気に盛り上がったようだった。
ルルーは長年思いつづけていた夢が叶ってとても幸せだった。 王妃の仕事を懸命にこなしながら日々大きくなるお腹をなで、 家族が増えるのを楽しそうに待っている。 ミノタウロスは相変わらずそんなルルーに仕えつづけていた。 たとえ人の妻になっても自分の主人が幸せならそれでいいようだった。 時折夫婦生活のスパイスに使われたりしながら、生涯忠実な家臣であり続けた。
アルルとシェゾは二人で暮らすようになり、暇さえあればいちゃいちゃしていた。 二人を知る人たちは常にお花畑モードな様子に苦笑しながらも温かい目で見守っていた。 そんな中、アルルはシェゾの知識を吸収しながら更に魔導師の上を目指していた。 授業も真面目に聞くようになり、自分から学ぶ姿勢が身についてきたようだ。 シェゾはまだまだ成長していくアルルに追いつけるよう頑張って修行している。 他人から力を奪うのではなく、自らの力を高めるように勤めるようになった結果 シェゾもかなりの成長を遂げ世界でも有数の魔導師になっていった。
とりあえず、皆がものすごく幸せにしていることは間違いなさそうだった。 魔界も人間界も平和な時が流れ、しばらくは平穏な日々が続きそうです。おしまい。
|
|
|
|