それからまた数日後のこと。 すっかり身体のあざも消え悪夢も忘れかけてきたアルルは街に出ていた。 あれからしばらく雨が続いたので家でおとなしく養生していたアルルは、 シェゾに借りていた服を洗濯して晴れた空の下に干してから家を出て、 まずはウィッチに御礼を言いにいこうと思いケーキを手に歩いていた。 「うーん、お薬代とかいくらくらいかかったんだろう……」 とりあえず一番高いケーキをラッピングしてもらったけど。 いつものようにドアのベルを鳴らしながらウィッチの店に入る。 今日はいつもどおり、主以外の影は見えない。 「こんにちは。えへへ、この間はどうもね。迷惑かけました。」 「あらアルルさん、もう身体のほうはいいんですの?」 「うん、ぼくはおかげさまですっかり元気だよ。そうだこれ、食べて」 アルルは手土産をウィッチに差し出す。 「気を使う必要なんかありませんのに。私は特別何もしてませんですわよ?」 「ううん、たくさん迷惑と心配かけたから。お薬代だって馬鹿にならないでしょ?」 「殆どはシェゾがやったから私には迷惑というほどの迷惑はかかってませんわよ。 でも、心配はしましたからありがたく頂くことにしますわ」 「え?!手当てとかはウィッチがやってくれたって…」 「ほほほ、そうでしたそうでした。今の言葉はお忘れあそばせー?」 ぺろっと舌を出し何事もなかったようにウィッチは受取ったケーキを切り分けはじめる。 「ちょっとちょっとちょっと!ぼくは良くないよ! ま、まさか本当に着替えもシェゾがやったの?!」 真っ赤になってアルルはウィッチを問い詰めようと走り寄るが、 ひらひらとアルルをかわしては意地悪く笑うばかり。 ウィッチは器用にアルルをかわしながら棚から小さな皮袋をアルルに投げた。 アルルは目の前に投げられたそれを少し後ろに引いてキャッチする。 「っとと、何これ?」 何かがきっちり詰められたその袋は見た目に反してずしりと重い。 「シェゾさんが分けておいてくれたアルルさんが捕まえた黒ぷよの代金ですわ」 アルルがあたふたしているのを尻目に、ウィッチはケーキを皿に乗せ始めた。 「え、ええええ?!そんな僕、受取れないよっ!こんな迷惑かけといて!」 慌ててウィッチに袋を返そうとするアルルを、ウィッチは片手で制す。 「迷惑料は差っぴいてありますわよ。森に入ったのはこちらの責任もありますし 実の所アルルさんのおかげで予想以上に黒ぷよを捕まえられたのもありましてね。 シェゾさんからもきいていると思いますけど、森に立ち入る許可を取るに当たって 女性は立ち入り禁止になってますから、口止め料も兼ねて……ね? そんなわけでこちらとしてもそのお金は受取ってくれないと困りますの」 「む、むぅ。そういうことなら」 全面的に自分が悪い上、迷惑をかけた相手から受取ってくれないと困ると言われると 受取らないわけにもいかずにアルルは結局抱えたお金を恭しくバックにしまいこんだ。 「気になるようでしたら私よりシェゾさんに何か持っていってはいかが? あの変態もちょっとは見直しましたわ。ね、アルルさんもそう思いませんこと?」 シェゾの名前を出されてなぜかちょっとだけ赤面してしまう。 ウィッチはアルルの表情の変化を見逃さず、意地悪にシェゾの話題を出しては アルルの反応を試しからかい倒す。 「いつもアルルさんを付回して襲う割りにピンチにはあんなに優しくなるなんて、 シェゾさんは本気で”お前が欲しい”なんじゃないんですのー?」 「じょじょじょ冗談言わないでよっ!」 「アルル、お前が欲しい!お前の『全てが』欲しい!…きゃぁぁぁぁ♪」 ウィッチがシェゾの口調や台詞をご丁寧に「全て」の部分を強調して連呼する。 アルルは手足をわたわたさせて耳まで真っ赤になっていた。 それがよほどおかしいのか、ウィッチはお腹をかかえて笑い転げていた。 「あっはっは、ついにねんねのアルルさんも恋に目覚める時が来たのかしら」 「うう〜、ねぇいい加減に教えてよ、結局ぼくの着替えや手当ては誰がしたの?」 「くすくす。私ということにしておきますわね。 シェゾさんがしたとなると胸の高まりに困る人がいるみたいですから」 「だーかーらー、違うんだってばー!」 「はいはい、その話は食べながらゆっくり致しましょうか?」 自ら入れた紅茶を飲みながらウィッチはアルルにもケーキを勧める。 アルルは微妙に居心地の悪さを感じながら一緒にケーキを頬張った。 せっかく一番高いものを選んだのに、頬の熱さが気になって味がよく分からない。 なんでシェゾの名前を出されるだけで自分がこんなに困惑するのか、 全てはあの幻覚のせいだと頭の中で一生懸命言い聞かせながら紅茶を飲み干した。
「はぁ……」 アルルはシェゾの家まできたものの、どう声をかけて入ればいいものか途方にくれていた。 見るからに殺風景なこのほったて小屋にはチャイムがあるわけでもなく、呼び鈴もない。 ならノックして普通に入ろうとすればいいだけなんだけど、どうしてかその勇気がわかない。 あの日からシェゾのことを考えるだけでなぜか落ち着かないのだ。 手に握られた手提げには、念入りに洗濯して可愛らしい袋に包んだ借り物の服。 それから手土産代わりに焼いた手作りのクッキーがバスケットに入っている。 「ぐずぐずしてたら日が暮れちゃう、えいっ」 勢いをつけてごんごんと強めにノックする。 「シェゾ、いる?借りていた服を返しに着たんだけど〜!」 できる限り大きな声を出したつもりなのに、思ったよりも声が出なかった。 「いないのかな……?それとも聞こえなかったかな」 アルルはきょろきょろと辺りを見回す。家にいて声が届かなかったとは思えないけど。 どうしようか考えているといきなりとんとん、と後ろから肩を誰かに叩かれた。 「おいアルル、人の家の前で何やってんだ?」 「うわああああ!び、びっくりさせないでよ!」 アルルは口から心臓がが飛び出そうなほど驚いて後ろを振り返る。 アルルの大声にこれまた驚いた顔をしたシェゾが立っていた。 「びっくりしたのはこっちだ!んな大声だして!――で、何の用なんだ?」 「あ、ああ、ごめん、これ返しに」 アルルは持ってきた手提げから包みを取り出そうとしたが、シェゾにさえぎられる。 「あー、今汚れているから中で待っててくれないか?着替えて手を洗ってくる」 シェゾはモンスター狩りでもしてきたのか、泥や返り血を浴びて酷い格好になっていた。 手には何かの魔物の角や手が握られ血を滴らせている。 「う、うわぁきもちわるぅ、何に使うのそんなの」 「ほっといてくれ、古代魔法の研究に使うんだ」 シェゾは眉をひそめるアルルをよそにマントとアーマーを脱いで、ジャブジャブと顔を洗う。 顔にかかった汚れを落としたシェゾは、隣の部屋のドアを開けながらアルルに椅子を指差す。 「着替えてくる。ちょっとだけ座って待ってろ」 アルルはおとなしく椅子に腰掛けるが、今見たものもあって何となく落ち着かない。 机の上に幾つかの魔道書や研究書が積まれていて、手持ち無沙汰なアルルは一冊手にとった。 「あ、これ魔物の図鑑かな?」 様々な魔物が写真付きで紹介されている。読むでもなく本のページをペラペラとめくる。 「色々な魔物と戦ったつもりでも結構見慣れない魔物がいるなぁ。 僕ももうちょっと魔法使いらしく研究とか勉強とかしたほうがいいんだろうな」 前の時も、ちゃんとどんな魔物か知っていれば軽率な行動しなかったわけだし。 「あ、これ…」 めくるうちにしおりが挟まれているページを開く。 忘れたくても忘れることが出来ない魔物の写真が載っていた。 見覚えのある魔物のページについアルルはそのページに目をとめてしまう。
内容を読み進めていくうちに何かがおかしいことに気が付いていく。 黒ぷよはその習性から18禁ぷよとも言われており… 本能がこれ以上見ちゃ駄目だという警告を放っているが、どうしても気になって目が文を追う。 特にオスの粘液は媚薬効果があり 女性がオスに人間で言う強姦行為を あ れは 幻覚なんかじゃ ? シェゾが部屋に戻ってきた時、アルルが手に取った本に気が付きあわてて払い落とすが、 アルルの目は既に光を失っていた。 ばさばさと音を立てて机の本が散らばって、古い本のほつれたページが部屋中に舞う。 「ねぇシェゾ、ぼくの魔導力いる?」 長い沈黙の後のアルルの一言に、シェゾはなんと答えていいのかわからずに立ち尽くす。 「それともこんな僕の魔導力なんか汚らわしいと思ったから何もしなかったのかな」 「それは……違う、俺はただお前が死んだら」 「嘘」 音もなくアルルはシェゾの目の前に立ち、顔を覗き込む。 あまりにも深い絶望を映した瞳にシェゾは一瞬恐怖感を覚えて後ろに引いてしまう。 「ほら、僕が汚いから」 身体を引いたシェゾをアルルが自嘲的に笑う。 「ち、ちがう、別に汚いなんて思わない。俺は本当に」 「本当にそう思ってるならあの時の続きをしてよ、シェゾ。 できるだけ乱暴に。僕のこと、全然ほしくない?いらない? ねぇ僕ね、多分シェゾのこと好きなんだよ、シェゾ。 僕のこと助けてくれたよね。あの時から、ずっと頭から君が離れなかった。 何度も思い出しては一人でしたんだよ? 僕、自分でも意識しないようにしてたけどシェゾが何もしなかったのは もしかして本当に僕のこと思ってくれてるからかなって思ってた」 すーっと目に溜めた涙をこぼしてすがりつくようにアルルはシェゾの胸にしがみつく。 「お、お前、やけになってそんなこと」 アルルはシェゾの言葉がただの拒絶にしか受取れなかった。 「でも違ったんだ。ごめんね。シェゾ」 はっとした時にはアルルは身を翻してシェゾの家からかけていってしまう。 シェゾがすぐに追いかけようとしたが、脚に何か当たってシェゾの足を止める。 「うわ、なん――」 アルルが丁寧に洗濯し、アイロンまでかけてたたまれたシェゾの服と 見た目で手作りとわかるクッキーが床にちらばった。 シェゾは呆然と、本当に心をこめてたたんだのであろう服を拾い上げる。 鼻腔にふわっと干したばかりの洗濯物の匂いがひろがった。 「アルル、アルルっ!」 シェゾは何かに突き動かされるようにアルルを追いかけたが、 アルルのふわふわとした足取りの割りにぐんぐんと姿が小さくなり見失ってしまう。 「くそっ……」 シェゾはそれでもがむしゃらに走りつづけ、アルルの姿を目で探しつづけた。
「ちょっとまて、股間を蹴るのは反則だ、反則!」 アルルの家から街までめぼしい所を走りに走り回って、 それでもアルルを見つけられなかったシェゾは最後にウィッチの店に駆け込んだ。 で、どう説明していいのかもわからず正直に話した所殴られた次第である。 「据え膳食わずにも程がありますわっ!一度死にくさらせこのへタレち○こ! そういうときには無言で押し倒して×××でピーしちゃえば良かったのに!」 シェゾは反省の意を込め抵抗せずに攻撃を受け止めていたが、股間は守りながら叫ぶ。 「無茶言うな、俺が欲しいのはあいつの魔導力だ!」 「はっ、私だって魔女の端くれですからアルルさんの力について少しは知ってますのよ? 並みの人間がアルルさんから魔導力が取れないのは貴方のほうがよっくご存知のはず! 「い、いや、俺はそれでもなんとか魔力が取れないか研究をだな」 「うるさいっ!」 ばしっ。 シェゾはばつの悪そうな顔でウィッチのほうきを喰らう。 「なのに魔導力が欲しいなんて動機付けて追っかけまわして、 手に入りそうなチャンスもみすみす逃しときながらかっこつけて! いい加減自分のお気持ちに正直になったらいかが!? 相手もなくラブコメディーに振り回されるこっちの身にもなりなさいってのよー!」 若干のやっかみも込めてウィッチはシェゾにほうきを振り上げる。 「わかりました!よっくわかったから!今はアルルを探すのが先だろう! 今のあいつはおそらく最悪の想像の斜め上を行く行動に出るそ!」 ぴた、と振り上げたほうきの先が止まった。 かとおもったら、シェゾの脳天にほうきを叩きつける。魔女というよりは鬼だ。 気が済んだのかほうきをなげてウィッチは額に手を当てて考え始める。 「で、アルルさんの家から街中探して見つからず、ここにも来ていなくて…… うーん、なら他の友達の家にいるとも思えませんし」 ちょいちょい、とウィッチの袖をだれかがひっぱる。 「ももも、声をかけても気が付かないの、悪かったけど勝手に入っちゃったの。 これウィッチさんに速達なの〜、はい、渡したから帰るの〜」 カランカランカラン……ぺたぺたぺたぺた。静けさを能天気な声と音が破って去って行った。 「速達?なんですの、こんな時……に……」 ウィッチの時間が止まる。肩がプルプルと振るえている。 「……?何だ?何の手が……」 明らかに様子がおかしいウィッチに、覗き込んだシェゾの時間も凍りつく。 たっぷりと一分は沈黙の時間が流れただろうか。 「これは、ど、どう考えても相手は」 「あ、あの……馬鹿……」
固まったウィッチの手から手紙がはらりと落ちる。 速達の中身は結婚式の招待状だった。
『このたび結婚することになりました 急ですがパーティーやるから来て下さい 日時 3日後大安 PM7:00から披露宴 サタン様より PS 我が家臣たちへ 結婚式やるから準備のため明日集合』
「ふはーはっは!」 サタンは天にも登る気持ちで踊り狂っていた。 ひゃっほーうといいながらくるくる回るサタンを、アルルは心持冷えた目で見ている。 いや、サタンを見ているようで見ていない。視線がどこか遠くを通り抜けて彷徨っている。 「アルル、何があったか我にはわからないが、お前が城にきてくれただけで嬉しいっ! お前には王妃として何もかもをくれてやろう。幸せにしてやるから安心してまかせよ」 サタンはアルルの浮かない顔を見て励ますように言うのだが、 アルルはそれでも無表情でただ頷くだけだった。そんなアルルを見て少し表情を曇らせるが、 自分の所に来た以上いつでも慰めることができるのだと喜びに胸を躍らせていた。 「アルル、私は本当は今すぐにでもここでお前を愛でたい所だが 面倒なことに正室には初夜の儀、と言うものがあってそれまで我慢せねばならん。 結婚式や披露宴の準備もせねばな。お前のドレスやジュエリーもこしらえんと!」 サタンは家臣を呼びつけてはあれやこれやと忙しそうに指示を出す。 「少し席を外すが、一人でおとなしく待ってておくれ、ハニー!」 鼻歌を歌いながら意気揚揚と廊下を歩いていくサタンを、アルルはただ目で見送った。
一方、ルルーはサタン城の中の自室で家具を手当たり次第に壁に投げつけていた。 ハーレムに名を連ねる女性は数多くいるが、サタンが手を出した女性はルルー一人。 実質的な側室はルルーだけだったので、サタンの身の回りの世話の為城に住み着いていた。 ルルーはサタンに誰よりも情熱と誠意を持って仕えてきたつもりだ。 サタンのために自らを高めつづけた、自分が誰よりもサタンにふさわしくなれるよう。 サタンもその健気な姿に多少の哀れみと敬意をはらい、ルルーにだけは側室の権を与えた。 愛する人の一番近い場所にいるということで自らのプライドを保ってきていたが、 サタンが最も欲しがる魔導力がない限りいつかその座を追われる日が来るだろう。 でもいつか報われる日が来るかもしれない。自分を見てくれる日がくるかもしれない。 そう信じながらルルーはひたすら修行に明け暮れていた。 しかし幸せな夢に浸れる時間は終わった。自分は正室争いにあっさりと負けたのだ。 気高い人といわれていても、本当はアルルの才能にいつだって劣等感を抱いていた。 ルルーのプライドは微塵に打ち砕かれ、醜くくも八つ当たりするしかなかった。 荒い息をつきながら、止めようとするミノタウロスを振り回して放り投げる。 「ルルー様それいjy……ぶ、ぶも〜!!」 ミノタウロスが天井に叩きつけられ落下する。 どすん、と情けない音を立てて転がるミノタウロスをみて、ルルーは少しばかり我に返る。 力なく膝をついて崩れ落ちるルルーに、ミノタウロスは無言で外套をかける。 あまりにも自分が惨めで、情けなくて仕方がなかった。
ウィッチはルルーの部屋の変り様に目を見張った。 「見苦しい場所で申し訳有りませんわね。こちらの椅子は壊れてませんからどうぞ」 「……ええ」 まあ多少は荒れているだろうなと思っていたが、ルルーに八つ当たりされ 破壊され尽くした家具類やひびの入った壁をみると相当な不機嫌さが見て取れた。 壊れていないのは大きさ上投げることが出来ない天蓋つきのベッドくらいなものだった。 額に青筋を浮かべながらも涼しげな表情を保っているルルー。相当きてますわねこれ。 そのルルーの椅子にされたミノが余計に哀れさを演出していた。多分これも八つ当たりだ。 「単刀直入に、今回のことについてハーレム筆頭に意見を伺いに参りました」 ウィッチも一応はハーレムのうちの一人であり、 城の中では位が上にあたるルルーに敬意を払いながら会話を切り出した。 「私はサタン様の忠実な下僕ですもの、大変喜ばしい出来事と思ってますわ」 ルルーも同じサタンの家臣の一人としての慇懃な返答を返す。 「しかし、私はアルルさんよりは正室としてふさわしい女性がいると思うのですけど」 ルルーはウィッチの言葉にいまいましげに舌打ちする。 「慰めにきたのなら、それ以上は言わないでいただきたいわ。 みてのとおり嫉妬はある。けど私は忠義に悖りサタン様に従う」 「私が先ほど申し上げたのは貴方を除くハーレム全員の総意です。 これから言うこともそれを踏まえてこれからの話をお聞き下さいませ」 ウィッチは重々しく口を開いて恐るべきことを言った。 「なっ?それは本気!?」 「声が大きいです。反対なら今すぐ警備兵を呼んで私を捕まえて下さいませ」 「そ、そんなこと、いや、でも」 「アルルさんはサタン様を幸せにしたいなんてこれっぽっちも思ってません。 そんな人を正室に上げるのは家臣としてもアルルさんの友人としても反対ですわ 貴方はそんな女性が愛する人の一番近くにいて、それでいいと思いますの? サタン様を自分が幸せにする、そう誓ってお近くにいたのではありませんの?」 ルルーはぐっと声を喉に詰まらせた。 「ただ欲しいものが手に入っても、それがサタン様にとって幸せになるのか疑問です」 更にウィッチが追い討ちをかけた。ルルーは返答に窮して押し黙るしかない。 「明日一杯まで考える時間はあります。良いお返事を頂けるようお待ちしておりますわ」 ウィッチはぴしゃりと言い切って迷うルルーの部屋を後にしてしまう。 残されたルルーは自分の気持ちと家臣としてあるべき自分に葛藤を覚えていた。 「ねえミノ、お前はどう思う……?」 ミノタウロスは答えない。主人の気持ちがどうあろうとついていくつもりなのは変わりない。 例え椅子にされようが投げつけられて叩き落されようが、 ルルーがサタンを思うようにミノタウロスのルルーへの忠誠心は揺ぎ無かった。 「おお、……お、これはまた」 そこへサタンがひょっこりと部屋にあらわれ、惨状に目を丸くしていた。 「さ、サタン様?!」 ルルーは話を聞かれたか、と慌てて立ち上がるが、サタンにはまったくその気配はない。 この部屋とミノを八つ当たりに椅子にしていた姿をみられたのが恥ずかしく顔を赤らめる。 「うむ。このたびのことでお前が心を痛めているのではないかと…… この様子では相当お前を悩ませたようで、心から謝るしかない」 普段から鈍いサタンでも、今回のルルーの気持ちくらいはさすがに察するものがあるようで わざわざ足を運んで謝罪しに来た姿に、ルルーは余計に心が嫉妬でずきずきと痛む。 「いえ、心よりめでたきことと思うております。家臣一同お喜び申し上げます」 それでも顔色一つ変えずにひざまずいて祝辞を述べるあたりはさすがルルーといったところか。 「けしてお前をないがしろにするわけではない。わかって欲しい。 ルルー、これでもお前のことは大切に思っているつもりだ」 「勿体無きお言葉、身に余る光栄」 どう嫉妬を押し隠そうとしても声がとんがってしまう。 サタンは無言でそんなルルーの手を引いて部屋の中でただ一つ無事なベットにいざなう。 「サタン様」 ルルーの目に戸惑いが浮かぶ。今はさすがに抱かれたい気分ではない。 「私を気遣う気持ちはありがたいですがおやめ下さいませ、今は婚姻を迎える大事な」 サタンは強引にルルーを引き寄せ、唇を奪う。 絡める舌がいつもより濃厚にルルーの口内をむさぼっていくにつれて、 ルルーの身体から次第に抵抗する力が抜けていく。 「しばらくは可愛がれなくなる、そう意地にならずお前を抱かせてくれ」 サタンがルルーを押し倒しながら耳元で懇願するような声色でささやく。 こんな時でもその甘い声に首筋に鳥肌が立つのがわかった。 心は抵抗していても身体はやっぱり愛しい人のぬくもりを求めるものなのか。 ルルーはもう意地を張るのはやめて目を閉じサタンがなすがままに身を預ける。 サタンはルルーの髪を掻き揚げ耳元から首にかけて唇を這わせていく。 「ああ…」 唇が豊満な胸元まで来ると、サタンはルルーのドレスを肩から外す。 ルルーはサタンが脱がし易いように体を少し起こすと、するりとドレスがお腹まで落ちた。 サタンは更に胸を隠すブラジャーを外し、胸に顔を落す。 見事な大きさの胸がポロリと零れ落ちるように揺れた。 「ルルー、いつみても綺麗だな」 「お恥ずかしゅうございます……」 手に余るほどの大きさの胸を優しくもむと、豊かな柔らかさがサタンの手に伝わる。 「ん……サタン様、気持ちいいです」 片方ずつ乳首を含んでは舌で転がされ、ルルーは甘い声をあげた。 胸を揉みつづけていた手がルルーの腰をなでまわし始める。 下着に手をかけ、一気に脚まで引き抜き、太ももを開かせてみると、既にそこは潤っている。 サタンはルルーの様子に満足を覚えて、わずかに口元を緩ませる。 ルルーはじっとサタンの視線に耐えるが、そのような場所を見られ続けるのは 何度抱かれても慣れたものじゃなかった。 「見られて恥ずかしいか、ルルー?」 「――はい」 ルルーは視線から逃れるように顔を手で覆う。 「可愛いものだ」 サタンはルルーの羞恥を煽るように指で恥毛を掻き分けてもっとよく見えるよう顔を近づける。 「サタン様、もう勘弁して下さいませ、ルルーはこれ以上はとても、恥ずかしくて」 「そうか、恥ずかしくて恥ずかしくてもっとして欲しくなったか」 サタンはルルーが恥ずかしがる姿に余計欲情を覚えて言葉で嬲り始める。 「ほら、まだ何もしていないのに蜜があふれているぞ」 舌先を尖らせてルルーの茂みに軽く舌を差し込むと、ルルーの腰がぴくぴくと震える。 サタンはわざと音を立てるように舌を動かす。 「あ、あ、あ、いい……すごく良いです、サタン様」 「お前も男をそそるいい声で鳴く」 舌で突起を転がしながら、入り口付近を優しくほぐすように指を出し入れしてやると ルルーは甘い痺れに背中をそらせて声をあげる。 「ルルー、私もお前が欲しくなってきた。そろそろ良いか?」 サタンが自分の服も脱ぎながらルルーにささやくと、ルルーはこくんとうなずいた。 服を脱ぐのを手伝いながらサタンの愛しい身体に何度も口づけする。 この身体が自分だけのものではなくなるのかと思うと嫉妬に身が焼けるようだった。 「今宵だけ……アルルのことを嫌いになったサタン様でいて下さい」
ルルーが切ない目をしてサタンに訴えかける。 サタンはルルーの願いに抵抗感を感じながらもそんなことを言わせるまで ルルーを追い詰めた自分への罪悪感に押され承諾する。 「むむ、お前の前で言うのもなんだがアルルのことも愛しているから、
うまく言えないかもしれないが……
」 そう前置きしてサタンはルルーの気持ちになるべく沿うよう言葉をつむぎ始めた。 「最高だ、ルルー、アルルよりずっと良い ルルーのこの大きくて柔らかい胸に比べたら
アルルのなんて物足りない、ルルーの胸は最高だ ここも、締まりもすごくて、アルルのじゃ全然いけないが
ルルーには入れるだけでもうすぐにもいってしまいそうだ! アルルの幼児体型に溺れていたなんて自分でも情けない。
この吸い付くような肌に触れたらもうアルルのぷよぷよとした体なんて触る気もしない アルルなど中出しさせてくれるくらいしか価値のない屑女だ
ルルーさえ居れば私は…… ルルー、ルルーぅぅぅ」 サタンは何だかんだ言いながらもノリノリでアルルへの罵倒の言葉を口にしながら ルルーに一気に大きくなったものを挿入する。 「ああっ、サタン様、サタン様ぁ!」 ルルーはサタンを受け止めながら、まだアルルに手を出してないだろとか 誰もそこまで言えなんていってない等と突込みどころはありながらも 心の底で願い続けていたアルルの罵倒と自分への賛美を聞けた事に大きな興奮を覚えていた。 「ルルー!」 アルルへの罪悪感さえスパイスにしながら二人は絡み合う。 「ああ、そんなに激しくされたらっ、私、サタン様より先にっ…」 「構わんルルー、もっと乱れよ!お前の我を忘れて乱れる姿が見てみたい」 ルルーの言葉に、乱れる姿に雄の本能、征服感がますます高まる。 欲望のまま腰を動かすスピードを益々上げてルルーを攻め立てる。 「駄目です、サタン様っ、サタン様っ!ああ、あああっ」 「ほら、いってしまえ」 「あああっ、サタン様ぁーっ!!」 サタンの名を呼びながらルルーは絶頂を迎える。 「……まったく、お前はいい女だ」 ルルーから引き抜きながらサタンは髪をなでてやる。 「あ、サタン様…申し訳有りません、サタン様はまだ満足なさってないのに」 「いいのだ。たまには私がお前を悦ばしてやりたかったのだよ」 「では、今度は私が……」 ルルーがサタンの上に乗ろうとすると、サタンがそれを止めて身体を引き寄せる。 「上に乗るよりも、今宵は口でしてほしいのだが」 「は、はいっ。サタン様がそれが良いなら喜んで」 サタンは身を起こし、脚を投げ出してルルーを手招く。 ルルーは四つん這いになって前に進み、優しくサタンの分身に口付けた。 指で軽く玉を包んで揉みながら、もう片手は根元をゆっくりと刺激する。 「ううっ、相変わらず上手いな……」 「サタン様のために練習しておりますから」 上目遣いでサタンを見上げるその目がとても扇情的だった。 「ミノタウロス、いるか?」 サタンはルルーの美しい水色の髪を指でもてあそびながらミノタウロスを呼ぶ。 「――はっ。ここに」 主たちから見えないように待機していたミノタウロスがぬっと柱の影からあらわれる。 別に下心や助平心があってそんな所にいるわけではなく、 性交中は最も敵が襲いやすい時間なので警護のために同じ部屋に控えているに過ぎない。 「お前もこっちに混ざれ」 『?!』 ルルーとミノタウロスがその言葉に飛び上がりそうになる。 「なあルルー、お前が私を思う気持ちは痛いほどわかっているつもりだ。 しかし同じようにお前に一途に仕える奴がいるのを今ふと思ってな…… さすがに正妻を迎えたら今までのように頻繁にお前の所には通えない。 そんな時に身も心も支えてくれる奴がお前のそばにいるなら心強い」 ミノタウロスはどうしていいかわからずにただルルーとサタンを見てはあたふたしている。 「別にお前とミノタウロスをくっつけて片付けてしまおうというわけじゃない。 ただたまにはお前もミノタウロスの気持ちに報いてやってもよかろうよ」 「え、え、ええ」 「嫌か?」 ほかならぬサタンからの言葉にルルーも強く「嫌です」とは言えなかった。 さっきまで八つ当たりにミノタウロスを虐げていたことを思い出してしまう。 わがままな自分に文句一つ言わずについてきてくれるミノに、確かにルルーは 報いらしいことをしてやったことがなかっただけにますます嫌とはいいにくい。 今までも私がサタン様に抱かれている時も何も言わず警護してくれていた。 その間にどんなことを思っていたか今まで考えたこともなかったが、 自分と同じように嫉妬に苦しんだり悩んだこともあったかもしれない。 「……サタン様がそういっているのです、ミノ、おいで」 ルルーは決心してミノタウロスに少しだけ振り返り、声をかける。 「ぶ、ぶも……」 ミノタウロスは主に呼ばれ本当に良いのかと思いながらも静静と二人に近寄る。 サタンは長い腕を伸ばし、聞こえるように音を立ててルルーの濡れ具合を確認する。 「さっきまであれほど乱れていたのだ、愛撫無しで突っ込んでも大丈夫そうだぞ」 まだためらいながらも服を脱ぐミノタウロスに サタンは煽るようにルルーの尻を左右に広げながら声をかけた。 「ほらミノ、主人のここが寂しがっている、はやく慰めてやれ」 ミノタウロスは普段だったら盗み見するのも恐れ多く視界に入れないようにしていた 主の裸体を見せ付けられて生唾を飲み込みながらベットの上に恐る恐る乗った。 ルルーはサタン以外の他の男に、しかも自分の家臣であるミノタウロスに 見られていると思うと恥ずかしさで消え入ってしまいたいと思いながら奉仕を続ける。 「し、失礼します……」 ミノタウロスが何度も夢見た主の身体にふれる。 ルルーのお尻のなめらかさと柔らかさに、ミノタウロスは荒い鼻息を上げた。 突き上げたくなる衝動を抑えながら、優しくミノタウロスがルルーに進入する。 「ううっ」 「ああっ」 ミノタウロスのペニスはするりと飲み込まれ、 根元までしっかり到達すると二人は奥まであたる感覚に短くも鋭い声をあげた。 「どうだルルー、ミノタウロスのものは。私とどちらが大きいか?」 サタンがルルーに意地悪な質問を投げかける。 「長さはミノのほうがわずかばかり……でもサタン様のほうが太く堅くございます」 「ふふっ、正直に答える当たりがお前のいいところだ。さ、ミノ、動かしてやれ」 言われずとも気持ちよさに、ミノタウロスの腰が動き出す。 ただ主への遠慮もあってあまり快楽をむさぼるのが悪いような気がして、 ミノタウロスは本当にゆっくりといたわりながらルルーをかき回すように動く。 サタンとはまったく対照的な仕方に、ルルーは新鮮な感覚を覚える。 「んっ……く」 それでもルルーは下半身から突き上げてくる快感にたえながらサタンを愛撫する。 「ふむ、いい眺めだな」 自分の寵妃が他の男に抱かれる姿を見ながら、というのもたまには悪くないと サタンは心の中で思いながらルルーを見つめる。 「ん、あ……っ、あ」 ルルーの胸の突起をつまみながら転がすと、思わずルルーはサタンから口を離して喘ぐ。 「っや……あ、あ、サタン様……」 「ほら、口元がお留守になってきているぞ」 ルルーは慌ててサタンのものを口中に頬張って、舌をからませる。 いつもよりもぎこちないその動きが、時折思いがけない刺激をサタンにもたらしていた。 「んぷっ……ふむ、うううっ」 ミノタウロスも、少しずつ雰囲気におされて腰の動きを早める。 「ル、ルルー様……」 入り口より少し中を引っかくように責めるとそこがルルーのポイントなのか ルルーの中がきゅっきゅ、とよく締め付けてくるのがミノタウロスにも伝わってくる。 「んっ、うううぅ」 ルルーも自分が弱い部分を執拗に攻撃され、サタンの前なのに我慢できず感じてしまう。 サタンはこの光景に興奮し腰をあげ、ルルーの前髪を掴むようにして顔を固定し 咥えさせると少し苦しそうなルルーに構わず腰を打ち付けはじめた。 「むうううっ」 声も出せないルルーは喉の奥まで出し入れされてあふれたよだれが口元から伝う。 「ああ、ルルーよ……もう出るぞ、……ううっ」 サタンはルルーの口から引き抜いて、精液を思い切り顔にかけてやる。 ルルーの美しい顔がサタンの白濁とした欲望にまみれ汚れた。 「あ、ああっ……」 ルルーもついで絶頂に達すると、ミノタウロスもルルーに締め付けられて限界が来た。 最後に思い切り激しく腰を打ち付けてから自身を引き抜きルルーの背中を白濁液で汚す。 2人に責められぐったりとしたルルーの身体がベッドに倒れこむ。 サタンはルルーから身体を離すと、素早く着衣の乱れを直して すまないが自分はまだやることがあるゆえ後は任すと部屋から出て行ってしまった。 同じく既に普段の姿に戻っていたミノタウロスが、まだけだるそうなルルーに声をかける。 「ルルー様、喉はかわいてませんか?」 あれほど乱れた後なのに、ミノタウロスが自分を見る目も態度にもどこも変った様子はなく、 ルルーはミノタウロスを見て自分もサタン様に対してこのようにいられたらと思う。 しかし自分は―― 忠義としての自分か、女としての自分か……。 「ねぇ、ミノ」 普段だったらもうベットから体を起こして気丈な自分を演じる所なのだが、 今日はもう自分の気持ちに偽ることは些細なことでもしたくなかった。 「はいルルー様、なんでしょうか」 「私、あの人を奪われたくない。一度だけ、サタン様を裏切る。 一度だけよ。これでまた、サタン様が他の女を選ぶなら諦める」 「……」 「ウィッチが言ってたことは建前に過ぎない。わかってる。 サタン様のためにならないとかアルルがどうとか関係無い。 私は……何の労もなく誰かがあの人の隣に座るのがたまらなく嫌なのよ」 ルルーは泣いていた。押し込めていた感情が溢れ出すように涙になってこぼれた。 「こんな醜い私でも、お前はそばにいてくれる?」 ミノタウロスはルルーの目の前にかしずいてルルーの手をとり、口付ける。 変らぬ忠誠を誓うミノタウロスに、ルルーは少しだけ微笑んでミノの手を握りしめた。
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