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◇◆ Sandcastles ◇◆
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「頼む、香里だけは……どうか見逃してやってくれないか」
「しつこいわよシヴァ。あなたがそんなだから、刺客を放ったのに」 「やっぱり、あんたが堀内を差し向けたのか……」 「使えない刺客よね。まるで蝿よ。ブンブンうるさく邪魔なだけ」 「……香里は殺させない」 「あら、あなたが殺らなくても、私が殺るから安心してよ」 「誰にもだ――」 ◆ SIU 統括本部―― これまでに集めたAMIKAの情報と、それに関連する事件を保存したファイル全てを読み込み、もう一度仮説を立て直す。 望月の最後の任務は、大臣と長官だけが知る極秘任務だった。 AMIKAへの潜入捜査。それが任務内容だ。 だが、なんらかの形でそれがバレて、望月を含む四人のエージェントが殺された。 いや、実際は殺されてなどいなかった。ならば他の三人は? 四人全員が生きているのか? 望月に成りすまして香里とコンタクトを取り続けていた時、香里がメールで告げた不可解な言葉。 『よかった! いつも『また明日ね』って言うのに、あの日だけは言わなかったから……』 望月が殺されたとされる前日の話。 たまたま言い忘れただけなのかも知れない。 けれどそれが故意だとすれば、もう二度と店に現れることができないと、望月は悟っていたことになる。 なぜそんなことを、香里に匂わせる必要があったんだ…… そもそも望月が、香里の店『Source of aroma』を潜入捜査の隠れ拠点としたのは、 偶然でも何でもなく、明らかに意図があってのことだったはず。 その意図は? 望月はそこで何を見て、何を知ったんだ? そこまで考えて、机の引き出しから望月が残した最後の手紙を取り出し、一語一句を見逃さないように読み返す。 『先輩、裏切り者を捕まえてください。それが僕の最後の頼みです』 俺は、何かを読み違えている。 この文章に隠された望月の意図を、図り間違えている―― 望月を組織に引き抜いたのは俺だ。 どこか影を背負う男だった。何を考えているか解らない男だった。 なにもかもが似ていたんだ。香里に出逢う前の俺と…… 当然俺は、望月を司令室に配置しようとした。 任務作戦班。俺が木下大臣に引き抜かれ、真っ先に配置された班。 香里の父親である平司令室長に鍛えられたように、俺もまた、望月を自分の後継者に選んだ。 けれどそれを苅野長官が止めた。そして自分が人選した堀内を、その椅子に宛がった。 エージェント経験のない俺が、管理職に付いたことを長官は快く思っていなかった。 そんな常識外れのことをするのは、俺だけで充分だと判断した。 なぜ俺が、そんな常識外れなことが出来たのか、それは長官が違ったからだ。 俺が組織に入ったと同時に、長官が交代した。 今考えれば、その時の長官が矢部さん、つまり仁美の父親だったということになる。 結局俺は、望月を岩間の元に預けた。 望月はその頭角を現し、一年経たずしてトップエージェントまで上り詰めた。 岩間は、最高の後継者ができたと喜んだ。 そして俺と同じく、昔のお前と一緒に居るようだと笑って言った。 組織以前に上下関係のある俺たちは、互いに腹を割って話したことがない。 けれど望月は、信念を通す男だ。簡単に寝返るようなやつじゃない。 この手紙に、望月から託された手紙に、何かが隠されているはずだ。 『先輩、先輩なら、この謎が解けますか?』 俺はこの件を読んで、望月の死亡断定を払拭した。 巧妙に書かれた文章だが、これは明らかに望月からの挑戦だ。 こんな挑戦を仕掛けてくるやつが、死亡したとは考えられない。 検視を行った岡田は、事故の遺体をDNAと歯型から望月だと断定したけれど、俺はそれに納得しなかった。 そしてコアの存在が明らかになったときは、DNA鑑定の信憑性を疑い、望月の生存を確信した。 裏切り者を捕まえろ。望月の指す裏切り者とは、一体誰なのだろう。 苅野長官は、どこまで関与しているんだ? 大臣はどこまで知っている? なぜ俺の入隊と同時に矢部さんは辞職し、俺と入れ替わるように香里の傍に居た? そして望月は、なぜ香里を連れ去った? 香里なんだ。全てが香里を中心に展開されている―― まるで砂の城だ。築き上げたもの全てを、波が跡形も無く消し去ってゆく。 俺は何を知らない? 何を見抜けない? 香里、お前は一体、どんな鍵を握っているんだ…… |
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