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◇◆ Photograph 2 ◇◆
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ちゃっかり中華な家族での夕食を終え、なぜか現地解散になる愉快な家族。
余程嬉しかったのか、興奮しちゃったのかは知らないが、珍しく酔っ払った父を支えながら、母が振り返り様に言い放つ。 「あんたたち、いいわよ今日は。兄弟仲良く、飲みにでも行ってきたら?」 「でも、母さん大丈夫なの?」 兄が手を貸そうと走り寄るけれど、母は片手で父を支えながら、親指を突きたて宣誓する。 「任せろっ」 よし、任せた。兄弟三人仲良く肯いて、そんな両親の背中を見送った。 両親が角を曲がると、兄は私に目配せしながら脱退を申し出る。 「悪い。ちょっと俺、いいかな?」 兄が目配せするときは決まって、今夜は帰らないよってな意味だ。 何と言うか、三十近い童貞というのも考え物だが、このようにあからさまな、『俺、今からヤってきます!』宣言もどうかと思う。 まして、このアニコン女に向かってのそれは、想いを蹂躙するものだと気づいて欲しい。 どうせなら、今夜は帰さないよってな、宣言ができないものだろうか…… 「美也、しっかたないから、秘密基地に案内してやるよ」 頬を膨らまし加減に、兄の背中までをも見送ったところで、弟がいきなり言い出した。 「あ? 秘密基地ぃ?」 不機嫌ボルテージ上昇中の私は、八つ当たりもいいところだ具合でそれに答える。 けれど弟は、この十数年で私のあしらい方を確実に学んだらしい。 「すっげぇよマジ。腰抜かしちゃうよ?」 「ほ、ほんとだな? それはもう、素晴らしいサプライズなんだな?」 「えぇもう、それはもう、確実にサプライズをお約束致します」 弟に案内されてやってきたのは、我が家からそれほど遠くない場所にある、小さなアパートだった。 慣れた手つきでポケットから鍵を出し、戸口を開ける弟に、解り切った言葉を投げかける。 「えっと、亮ちゃん? こちらは、どなたの部屋でしょうか?」 「え? 俺のに決まってるじゃん」 なぜ我が家というものが有りながら、しかも、個室という部屋を与えられながら、別に部屋を持とうと思うのかが解らない。 しかも我が家から然程遠くない場所だけに、通勤便利という言い訳も有り得ない。 けれどその部屋へ足を踏み入れた瞬間、その謎は一気に解決した。 「ヤ、ヤルためだけの部屋か……」 二間続きなその部屋は、カーテンと小さな冷蔵庫と、巨大なベッドしか置かれていなかった。 考えたくはないけれど、ここであいつと励んでいたのかと思うと、胸糞悪くなってくる。 そこで、私の表情を読み取ったらしい弟は、先程の発言も含めて慷慨嘆く。 「悪いけど、あのベッドは昨日届いたの。そんな言われ方するのは心外だね」 それでも、謝ることなど考えもしない私は、弟の言葉をサラっと流して話を挿げ替える。 「へぇ。しっかしまた、父さんがよく許してくれたね?」 部屋の中へ私を促しながら、弟は平然と言い返す。 「だって言ってないもん。父さんにも母さんにも、兄貴にもね」 そこで、半畳もない玄関に靴を脱ぎ捨て、やっぱり気になる巨大ベッドを目指しながら問い掛ける。 「えぇ? じゃ、じゃあ、誰が保証人になったのさ?」 「本間さんだよ……」 「あぁ、なるほど。ここを新居にするわけ…んっ!」 背後に立つ弟を、振り返ったはずだった。なのに今の私は、薄暗いアパートの天井を眺めている。 しかも信じられないことに、事もあろうか、可愛い弟と唇を重ね合わせたままでだ。 世の中には、不運なタイミングというものが存在する。 だから何かの手違いで、たまたま、偶然にも、こうなってしまっただけに違いない。 ところが弟は、くっついてしまった唇を離すどころか、より一層の勢いを増して吸い上げる。 「ちょっと亮! 何やって……っんぅ」 言葉を発するため口を開けば、弟の舌が容赦なく口内へ滑り込む。 そんな弟の身体を押し退けようと躍起になるけれど、弟はもう、あの頃のままの弟ではない。 抵抗を繰り広げる私の両腕を、いとも容易く封じ込め、逆にマットレスへ縫い付ける。 さらに、身体全体で私を押さえつけ、身動きが取れない状況にまで追い込まれた。 心臓がバクバクと音を立てる。一体、何がどうして、どうなって、こうなったのだろう。 弟が男だということを痛感した。幅広い胸も、伸びかけた髭も、紛れもなく男だった。 それでも、そんなことを日夜考えながら、兄弟を運営する兄弟など早々居ないはずだ。 私は決して間違ってなどいない。けれど、この状況から脱出するには、謝ったほうが早い。 「りょ、亮ちゃん、解った。ごめんね!」 自由にならない身体のまま、息継ぎ紛れに顔を背けて精一杯の謝罪を試みる。 すると、拘束する力を弛めることなく、弟が私の顔を覗き込む。 「何が解ったの?」 そう問われると、何が解ったのか解らない。 けれど混乱する頭は、唯一思い浮かんだ言葉をそのまま口にした。 「りょ、亮くんは、男でした!」 「うん、そうだね。俺は男。そして美也は女」 屈託なく笑う弟の顔は、あの頃と変わらぬものなのに、火照り始めた身体は、それを弟だと認めない。 否、頭でも認めたくない。可愛い可愛い弟のキスに、女として感じてしまっている自分など…… 頭を左右に振って弟の唇から逃れようとするけれど、顔を背けた分、露になる首筋を舌が這うから、堪らず正面を向いたところで、案の定のキス再開。 まずい。キスだけで屈してしまいそうだ。 巧みな舌遣いに、理性が蕩け始める。こ、これが、あの女のテクニックなのか! 相手が弟だけに、これが強姦に属するものとは思えなかった。 さらに、変な言い方だが、兄相手のこういった場面を、妄想したことは数え切れないほどあったりする。 というか何よりも、私は強引という行為に弱い。 その強引さが増せば増すほど、断り切れずに流されるんだ。 それでも私たちは、曲がりなくとも兄弟だ。 妄想までは由としても、現実となれば、疚しいと思う気持ちが否応なく込み上げる。 「亮、やめよ? もうやめよ? 駄目だよこんなこと」 「なんで? 俺たち、兄弟じゃないじゃん」 「きょ、兄弟だよ! ずっと兄弟だったよ!」 ところがその言葉は、完全無欠のNGワードだったらしく、今までの行為は遊びだったのだと思うほどの、激しいキスが飛んでくる。 舌で全てを弄られ、犯され、遂に淫靡な囁きが、呼気に紛れて私の唇から漏れ始めた。 「……んっ…んふっ……あっ、んっ」 未だ私の腕を固定したまま、弟の舌は唇から離れて、耳朶を弄び、首筋から鎖骨へと這っていく。 それでも両手で腕を押えているのだから、これ以上は進めないはずだと高を括っていた。 流石の弟も、片手じゃ私を押さえ込み切れないだろう。 けれどそんな淡い夢は、呆気なく幕を閉じた。 頭上に縫い付けられた腕は、思うように力が入らなかった。片手で押さえつけられているのに、それを振り解くことができない。 弟は空いた側の手で、器用に私のボタンを外し始めた。 これが終わるまでに何とかしなければ、私に勝ち目はない。 「亮、やめてお願い! これ以上やったら、克っちゃんに言いつけるから!」 ジタバタしながら子ども染みた台詞を叫ぶと、どうやらこのジャブは効いたらしく、弟の動きがピタっと止まる。 そこでようやく、此処へ来てから初めて、安堵の溜息を吐き出した。 偉大なる兄に、感謝感謝だ。やはりいつまで経っても、兄の威厳は衰えることがない。 けれど、薄目を開けて見上げた先には、恐怖に慄く顔ではなく、予想外の切な顔。 「そうやって、美也はいつも、克っちゃん、克っちゃん、克っちゃん、克っちゃん……」 目の中に入れても痛くないほどの弟が、泣きそうになりながら、私の差別を悲憤していた。 いつの間に私は、そんな想いを弟に抱かせてしまっていたのだろう。 いくら考えても、答えは見つかりそうにない。 何時でも、何時だって、兄よりも弟を優先させてきたつもりだったのに。 「ご、ごめん…ごめんね亮ちゃん……」 弟の瞳が、どれほど傷ついているのかを物語る。腕が動けば、抱きしめたかった。 「で、でも私、克っちゃんと差別したつもりなんて……」 私が吐き出したその言葉で、弟の表情がみるみる歪む。 そして、表情と同じく歪みに歪んだ言葉を、私の顔へ吐き掛けた。 「いいよ、兄貴だと思って抱かれなよ。顔は似てないけど、兄弟ってシチュは一緒でしょ」 図星を差され、思わず私が固まった。 兄に抱かれたいなどと思っていた私の頭の中を、見透かされていたようで、恥辱だけが込み上げる。 弟の言う差別とはこれだ。どう言っていいのか解らないけれど、きっとこれだ。 「し、仕返しなの?」 「違うよ。美也が好きだから」 「なっ、何言ってんの? 亮ちゃんには本間がいるじゃん!」 「あぁ、あれは計画その一」 「は? さっきから、亮ちゃんの言ってることがちっとも……ぁつっ!」 弟は私と違って、口を動かしながら手も動かしていたらしい。 話はもう終わりだとばかりに、いつの間にか露になっていた胸の先端を、口に含んで吸い上げた。 当然弟の手は、対の片割れを揉みしだき、指は尖り始めた頂を細かに弾く。 「やっ…やめっ…り、りょ…あっ、くぅっ!」 「克って呼んでいいよ。その代わり、その名を呼ぶなら抵抗はやめて?」 憫笑しながら囁く弟の声に、耐え難い憤りを覚え、初めて弟に対して牙を剥いた。 「大っ嫌い! 亮ちゃんなんか、大っ嫌いっ!」 「元々、俺のことなんか、好きじゃなかったじゃん」 好きだよ。好きだったよ。大がついちゃうほどに。なんで解ってくれないの…… |
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