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◇◆ Photograph 3 ◇◆
 闘争で悲惨を極めている場所や、激しい戦いの場面を、人は修羅場と呼ぶ。
 まだ訪れてから数分しか経っていないはずなのに、そんな修羅場と化した秘密基地。
 鼓動が早いからなのか、どこからか聴こえる時計の音が矢鱈に遅い。
 それでも、そんなことを考えていられたのも僅かな時で、睥睨しようが雑言を投げつけようが、弟の振舞いは止まらない。
「無駄だよ。身体は正直。美也、絶対に感じてるもん」
「かっ、感じてなんかないっ! だ、誰が感じてやるものかっ」

 威勢の良い言葉を放ったところで、触れられたら終わりだ。
 双方の胸を、舌と指で間断なく嬲られ続け、疼く中心から、淫らな蜜が滲んでいると自分でも解る。
 無駄だと思っていても、抵抗することで、飛びそうになる意識を保っていた。
 何処で覚えたのかは考えたくないが、弟の艶かしい動きは、胸だけで私を高みに押し上げる。

 依然として胸の頂を啄み、巧みに転がして弄んだまま、五本の指は肌の上にそっと円を描きながら、中心へ向かって流れていく。
 さわさわと産毛を撫でるその指は、躊躇うことなく下着の中へ潜り込み、湿り気を帯びた茂みを掻き分け、そして、今一番触れられたくなかった場所へ到達した。
「あれ? 感じてないんだよね?」
 意に反して溢れ出た蜜を探り当てた弟は、嘲り笑いながら私の顔を覗き込む。
 羞恥にギュッと目を瞑り、顔を真横に背けるけれど、これから施されるであろう行為に備えて、身構えるのも忘れない。
 これを耐え切ればなんとかなる。この腕の拘束さえ解ければ、まだチャンスはある。

「ぁぁっ、いやっ!」
 想定していたし、身構えてもいた。それでも身体は、相手を喜ばせるだけの反応を起こす。
 花芽に蜜を塗りたくられ、滑り通りの良くなったそこを、指が押し潰しながら捏ね回す。
「くぅぅっ! や、やめっ、やあっ!」
 久しぶりだからという理由では済まされない。
 今までの経験とは全く違う、直列系の電流刺激に、感電した身体が仰け反った。
「このくらいでそんなんじゃ、剥いたら美也は、どうなっちゃうの?」
「いっ、やだ…やめて? お、お願いだから、やめっ…やぁぁっ!」

 悃願虚しく、いとも簡単に指は包皮を捲り、中から現れた小粒な隆起をヒタヒタと叩く。
 蜜で濡れた指が隆起に当たる度、スタッカートの効いた嬌歌が、閑散とした部屋に響き渡る。
「ひっ、やっ、あっ、んぁっ!」
 仰け反りっぱなしの身体が、歌に合わせて揺れる。そこで、クスクス笑いながら弟が囁いた。
「ねぇ美也、それって、胸を舐めてのお願い?」
「ちがっ! くっ……いやぁっ!」
 わざとらしく音を立てて胸に吸い付く唇と、ノックで膨れ上がった隆起を、往復で弾き始めた指の動きに、目を瞑っていても光が差し込み点滅しだす。

「美也イっちゃいそう? でもだめ。美也が抵抗しないって誓うまで、イかしてあげない」
 指と唇を同時に離し、攀じ登った蜘蛛の糸を、弟がバッサリと切り捨てた。
 途端に私の身体は重力に負け、背中がマットに堕ちて小さく弾む。
 達することのできなかった身体は、浅く短い呼吸を求めるけれど、なんなく唇で唇を塞がれ、そんな小さな願いすら叶わない。
「り、亮…んっ、やめ…、ね、やめよ……」
 弟の口内へ懸命に囁いても、それは逆効果になるらしく、煩いとばかりに胸の突起を捻り摘まれた。
「りょ、亮、やめ……んんっ!」

 今でさえ、憎むことなどできず、こんなにも想いは滾っているのに、それが弟には届かない。
 愛もなく、頑是すら見失ったその行為に、複雑過ぎる感情が渦を巻き、涙が零れ出た。
「み、美也…ごめん。ごめんね美也……」
 私の涙に驚いた弟は、頬を摺り寄せながら、泣きそうな声で何度も同じ言葉を繰り返す。
「ごめん…俺、美也が好きで…好きで……」
 そして腕の拘束を解き、両手で私の頬を包み込みながら、唇で涙を拭う。
 そうだ。私だって大好きだ。弟を苛めるやつは許さないし、私の物を欲しがれば、それがどんなに大切なものでも、弟のためなら譲っちゃうことだってできた。
 ようやく弟は正気に戻ってくれた。ちょっとだけ横道に逸れちゃっただけだ。

「美也? 美也、美也…美也……」
 可笑しいほど何度も、私の名を囁き続ける弟の声。まるで子猫が母親を求めて鳴くようだ。
 強張っていた身体が緩みはじめ、名を呼ばれる度に肯きながら、自由になった手で弟の髪を梳く。
 一途で、穢れない純粋な弟。本間の邪気に当てられて、毒が紛れちゃったに違いない。
「亮ちゃん、もう大丈夫だよ。私がついてるからね……」
 守ってあげなければ。喩えそれが物の怪だとしても、毒牙から弟を救えなければ姉の名が廃る。
 けれど毒気に当てられたのは私の方で、なんとも言えない微苦笑を浮かべた弟の端整な顔立ちに、胸がトクンと妙な響きの鐘を打つ。

「美也は、やっぱりわかってないや……」
 柔和な笑みとともに齎されたキスは、上手いから甘いに変化して、再び蕩けだした私の理性は、筋の通らない筋を脳に刻む。
 愛しい愛しいと、唇が伝えてくる。親愛なる家族ならば、こういうキスをしてもいいはずだ。
 私だって愛しい。私だって大好きだ。だから私も、この想いを親愛なる家族へ返さなければ。

 弟の髪に指を差し入れ、抵抗することなく唇を受け入れながら、脳裏に浮かぶ妄想写真。
 この秘密基地で弟とキスをして、互いの部屋で兄と。台所で母と。そして、玄関で父と……
 ぜ、絶対に嫌だ。頭の中から写真を取り出して、シュレッダーよりも細かく破りたい。
 違う。一層の事、貯金全額支払うから、誰か今の妄想を無きものにしてくれ!

「と、父さんとのキスは嫌だ!」
「ん? じゃあ、誰ならいいの?」
「できれば克っちゃんまでに……」

 後悔とは、後になって悔やむから後悔であって、先に悔やむことができるなら、それは後悔じゃない。
 否、そういったことではなくて、こういったことでもなくて、どうしよう……
「りょりょ亮ちゃん、ち、違うよ? 今のは、ちょっとした」
「結局、美也はっ!」
 わなわなと震える弟は、声を荒げて中途半端な台詞を吐き捨てた。
「比べてないよ! 克っちゃんと亮を比べたりしてないよ!」
「へぇ。比べられるようなこと、兄貴ともしたんだ?」
 邪気に憑かれた弟の体内へ邪婬の神が降臨し、最早、人間業ではない捷い攻撃を開始する。
 気づいたときには、腰元のストッキングと下着を、同時に足先へ向けて引き摺り下ろされていた。

「やっ、だめっ!」
 拘束の解けている両手で、それを阻止しようともがくけれど、引っ張り合う布は互いの抵抗に負け、耳障りな音を立てて見事に破け散る。
「あぁあ、美也の手は、いけないんだ!」
 その芳顔に戯笑を伴い悪ふさげを始めた弟は、失態を演じて凍りつく私を余所に、破けたストッキングを私の両腕へ幾重にも巻きつける。
「美也の両手は、器物破損の容疑で現行犯逮捕」
 唇は優弧を描いているのに、眼は全く笑っていない。鳶色の瞳は澱み、烈とした何かが燻っていた。

 瞳を燻らせる理由が知りたくて、又もや不随意に成り下がった両手を、弟の頬へ伸ばし呟く。
「亮…、何を…考えて…るの?」
 けれど弟は鼻で一笑すると、話の焦点をずらして冷淡に言い放つ。
「美也を犯すこと」
 そして優美には程遠い私の身体を、冷ややかに細まる眼で、嘗めるように見下ろした。
 咄嗟に、無防備な胸を腕でガードしながら、脚は見事な空中ペダルを漕いで叫ぶ。
「亮ちゃん、蹴っちゃうよ? 当たったら痛いんだよ!」
「ねぇ美也、俺の心配よりも、自分の心配をしたほうがいいよ?」

 これが本物の自転車ならば、家の角も曲がれなかっただろう。
 それほど簡単に、片方ずつ足首を掴まえられて、胸を隠す腕ごと自分の脚に押し潰された。
 弟の目の前で、秘処を曝け出す猥らな自分の姿に、遣る瀬無い思いが込み上げる。
 けれど弟の息が秘処にぶつかったとき、次の展開を察知して背筋が凍った。
 汚辱の念に駆り立てられ、今の状況を顧みることなく、慌てふためき騒ぎ出す。
「だっ! だめっ! き、汚いから、汚いって!」
 そんな私の言行に、なぜか歓喜に満ちた弟の声が響く。
「美也、もしかして、ここを舐められるの初めて?」

 弟の言う通りだった。妄想魔だけに、それを想像したことはあっても、想像上でも汚辱感が拭えず、故に実体感したことなど一度もない。
 まして今の私は、シャワーすら浴びていないのだから、汚辱感は通常の数倍だ。
 火事場の馬鹿力とは、こういうときこそ生まれでる。
 得体の知れない力が湧き上がり、我を忘れて弟を押し退けようと大きく息を吸い込む。
 けれどその瞬間、逸早く動いた唇が、皮を被ったままの突起を吸い上げた。
「ひゃうっ!」
 ただの一撃で、漲っていたはずの力が消え失せる。
 それでもこんなものは、ただの序章に過ぎなかったのだと、思い知らされた。

「くぅぁっ!」
 鼻梁で包皮を押し上げられ、滑らかで柔らかな舌が剥き出しの花芽を転がした。
 中心から一気に流れる過大な電流は、その許容を超えて、私のブレーカーを落とす。
 脳が作動しない。髪の先までもが痺れたまま、ただ腿だけがガタガタと震えていた。
 弟は決して唇をつけず、巧みに動く舌だけで、震える肉芽を翻弄し続ける。
 威烈過ぎる刺激に、全てが耐えられなかった。声すら固まって喉元を充満する。
 花唇がひくつき、汚辱の念も抵抗も綺麗に吹き飛び、ただ只管、満たされたいと願う。
 そして、弟の唇が初めて中心に触れ、硬く聳り膨らむそれを、包み込むように吸い上げたとき、私の願いは叶えられた。

 声も出ず、何一つ考えることのできないまま、身体だけがビクビクと攣縮を繰り返す。
 果てたことを見極めた弟は、優しい口づけを膨らみに塗し、蜜で潤う唇のまま私へ囁く。
「美也…感じて。もっと…俺が欲しくなるまでもっと……」
 囁きと同時に、指がスリットを撫で始め、溢れ滴る蜜を丹念に絡めとっていた。
 舌は内腿をゆっくりと這い上がり、まるで何かを待っているように焦らし動き続ける。
 そして、ようやく私の呼吸が整ったとき、二本の指を迷うことなく私の中へ突刺した。

「んあぁぁぁっ!」
 喉で塞き止められていた声が、その衝撃に耐え切れず、勢いづいて口から飛び出した。
 ところが、予想に反して勢いを弱めた指は、何かを探し求め、回転しながら襞を弄り続ける。
 弟の探し物が解っていた。だから必死で堪え、見つからないよう平静を装う。
 けれど、どんなに隠しても弟はそれを見逃さない。ただ一点を、執拗に擦りながら弟が囁いた。
「見つけた……」

「やっ、亮っ…いやっ、いやぁ、亮っ!」
 弟の名を叫ぶ真意が、抵抗なのか懇願なのか、もう解らなかった。
 素早い抜き差しを繰り返す指は、確実に要処を突き、擦り上げながら引き抜かれる。
「美也、…美也……」
 愛しげに名を呼ばれ、とろりと胸を吸われ、趣の異なる二つの快楽に、どうしようもなく溺れていく。
 縛られた両手を額に当てて明滅する光を押さえ込み、到頭、気が狂うほどの淫逸に壊れ爆ぜた。
「いやぁぁぁっ! 亮っ!」

 何回、弟の名を叫んだだろう。否それよりも、何回、絶頂に達しただろう。
 陶然としながら虚ろな目で天井を見つめ、此処は何処だなどと、間抜けなことを考える。
 軽い耳鳴りの端っこで、ベルトを外す金属音が小さく聴こえていた。
「あぁ、そうか。これから亮に犯されるんだった……」
 ボソボソと独り言を呟き、納得したところで、それが納得しちゃいけないことだと気づく。

 それでもこのままで、こんな状況で、ここから逃げ出すわけにはいかない。
 胸は開け、手首は縛られ、髪は乱れ放題な私を見たら、誰もが暴行を受けたと思うだろう。
 そんなことをすれば、弟が捕まってしまう。否、捕まらなくとも、このことが公になってしまう。
 父さんにも、母さんにも、克っちゃんにも……

 反動をつけて起き上がり、弟の名を呼ぼうとしたけれど、反対に息を飲んで目を瞠る。
 堂々と反り起つモノを携えた、彫刻のように見事な裸体がそこにあった。
 思わず目を逸らし、戸惑い、混乱しながら心で呟く。
『亮ちゃんは、あんな身体じゃないよ。もっとプニャっとして、プニっとしてて……』
 けれどそんな妄想も、頬に手を宛がわれた途端にパチンと消えた。

 兄とは違う、男の芳芬を漂わせた弟が、キスの雨を降らしながら、優しく私を押し倒す。
「美也…、好きだよ」
「す、好きだったら、こんなことしないよ……」
「好きだからするんだよ。美也が欲しい。俺は美也が欲しいの」
 駄目だ。弟のこの顔と要求に、私はこれまで一度だって勝てたことがない。
 イルカの抱き枕も、虹色の毛布も、キラキラ鉛筆だって、全部この顔に持っていかれたじゃないか。

 昔から、弟だけにはこうだった。
 兄からだって、宝物を要求されたことは何度もある。けれどそれを、譲ったことなど一度もない。
 どうして断れないのか解らない。でもこの顔を見ると、つい、いいよって言っちゃうんだ。
 それはいつだって大切なもので、渡した後、いつだって後悔するのに、いいよって言っちゃうんだ。
「お願い。美也…お願い。美也が欲しいの」
「うぅぅ。…い、いっ、一回だけだ…よ?」
 ほら、言っちゃった……

 弟の口元が綻び、あの頃のような輝く笑顔を私へ向ける。
「もう美也は抵抗しないよね? だったら、これ外す」
 善は急げとばかり、弟はいそいそと手首の布を外しにかかる。そんな弟の挙動を見つめながら、何やら込み上げる一抹の不安。
「ねぇ亮ちゃん、聞いてるよね? い、一回だけだよ? ねぇ亮ちゃん」
 弟の顔を覗き込んで、拭えぬ不安を何度も問う。
 けれど弟は、未だ着込んだままの洋服を脱がすことに夢中で、私の問いに答えない。
 だから、しつこいほど同じ台詞を放ち、了承を得ようと躍起になるけれど、熱い肌が重ねられ、髪に指を差し込まれ、そこで私の思考回路は停止した。

「美也、俺の名前だけ呼んで。俺のことだけ考えて……」
 私は、この眼差しを知っている。向けられたことも、向けたこともあるはずだ。
 だけどそれが、いつ、どこで、誰になのかが、もう考えられなかった。
 弟の優しい唇とやわらかな手に導かれ、茫洋した世界を漂い続ける。

 不意に閉じていた裾が割られて、腿の間に弟の身体が滑り込む。
 熱く硬いものの感触が中心に伝わり、昂る想いは身体をぶるっと震わせた。
「美也、…美也……」
 まるで弟の囁き声は、言霊のようだ。名を呼ばれる度、ぎゅっと身体が熱く火照る。
 そして言葉に籠められた呪文に応える心は、腕を伸ばして必死に弟へしがみつく。

「ぅぐっ……!」
 スリットを何度か擦ってから、蜜で濡れた先端が、襞を抉じ開けるように埋め込まれた。
 痛みはない。けれど、胎内から響く圧迫感に身体が強張った。
「美也、キツっ……」
 何気なく放たれたその言葉が、誰かと私を比較したように聴こえた。
 訳のわからない感情が押し寄せ、弟の肩を拳で叩きながら泣きそうになって叫ぶ。
「やだっ! く、比べないで! 比べないで!」
「比べてない。比べない。美也だけ。ずっと美也だけ」
 きつく抱きしめられて唇を吸われる。ゆっくりと襞をかき分け、熱く硬いものが沈められる。

「ああっ、亮っ、んぁっ!」
 繋がった場所は熱く疼き、擦れ合うたび淫水の音が弾け、聴覚を刺激した。
 激しすぎるほどの情熱を叩きつけられても尚、腰は密着を求めて自ら動く。
「美也…だめ、無理。好きすぎておかしくなる」
 苦しそうに顔を歪め、折れるほど私を抱きしめる弟を掻き抱き、ただ、うねり狂う奔流に呑み込まれ、弟の名を何度も叫んでいた。
「あぁあっ、あっ、亮っ、りょうっ!」

「絶対、本間だ。本間が亮に仕込んだんだ……」
 鼻まで毛布で覆い隠し、天井を睨みながら小言を呟く。
 すると、横向きで私を見下ろす弟は、無邪気な顔でケロっと言った。
「うん、正解。美也の情報を元に、二人で色々仕組んだよ?」
「いや、仕組んだじゃなく、仕込んだ……ん? ちょ、ちょっと待った」
 毛布を首まで一気に下げて、勢い込んで弟を見るけれど、呆れ顔な弟は、まだ投げてもいない質問にさっさと答え始める。
「何? 俺が二人の関係を、知らないとでも思ってたの?」
「い、や、お、思ってた……」

 私の胸中を見破った弟の目が細まり、からかうように口端が持ち上がる。
「色々教えて貰ったよぉ? 美也は十八で処女失って、その痛みが酷くて、それからほとんど男と寝てないことでしょ? それとか、強引とおねだりに弱くて、結局処女もそれで奪われたとかさ、」
「な、なっ、なっ!」
 余りの恥ずかしさに、耳朶まで熱くなる。そんな私の耳郭を、指でなぞりながら弟が呟いた。
「軽い想いで、そんなことを企てる男は許せないけど」

 一瞬、何のことか解らず首を傾げる。
 けれどそれが、強引とおねだりを指していることに気づき、声を荒げて文句を言った。
「亮ちゃんに、言われたくないです!」
「え、何で? 大体、美也も美也で、断りきれなかったなんて、許せない言い訳じゃない?」
 攻撃を仕掛けたはずが逆に急所を突かれ、弁明しようと口を開く。
「そっ、だ、だって、だってね?」
 ところが、最初の一句を言い終えた段階で、打ち消しの言葉を上から被せられた。
「俺に、だっては通用しないよ? もう、他の男と寝たら許さない」

 真顔でそんなことを言われても困る。何で弟のために、私が貞操を守らねばならないんだ。
 それでもその台詞は、本間に向けて放たれたものだと解釈し、あいつの貞操観念を思い出して、ニタニタ薄気味悪く笑いながら逆襲した。
「亮ちゃん、その台詞、よ〜く本間に言い聞かせたほうがいいよ?」
「え? なんで本間さんに、こんなこと言わなきゃなんないの?」
 え?と、聞きたいのは私の方だ。弟の言っていることが、サッパリ解らない。
 本間は弟の最愛の彼女で、結婚したいと思うからこそ我が家に連れ立って、本間だって、お姉さんって私を呼んで……

「俺、言ったよね? 上司を紹介したいって?」
「聴いてない。聴いてません。紹介したい女性って聴きました」
 女性の部分を一際滑舌よく発音し、胸倉掴む勢いで凄んでみるけれど、当然軽く言い返される。
「合ってるじゃん。決してそれ、間違ってないじゃん」
「ち、違うよっ、全然違うよっ!」
 紹介したい女性と、紹介したい上司じゃ、同じようで全く違う。だけど言葉後だけ考えれば、確かに間違っていないし、嘘でもない。
 どうしてこうもまた、いけしゃあしゃあとこいつは……
「父さん母さんには、ちゃんと伝わってたよ? すっげぇ大事な上司だから、くれぐれもよろしくって」
 なるほど。だからあんなに、召かし込んでいたのかと、何か納得しちゃった自分が怖い。
 というか、あんなに悶々とした私の今日一日を、一分一秒残さず返してくれ!

「美也、美也の顔見てたら、また欲しくなっちゃった」
 他にも何か色々と、気に掛かる事柄があったはずなのに、突然組み敷かれた衝撃で、全てが頭の中から吹っ飛んだ。
「なっ、い、いっ、一回だけって約束したじゃん!」
「え? 俺、約束なんてしてないよ?」
 そう言うが早いか、両手で双方の膨らみを包み込み、余韻の残る胸先をとろとろと舐め上げた。
「くぅっ、や、やだっ、亮っ! だめだって!」
 悶え喘ぎながら抵抗するけれど、ひたっと動きを止めた弟は、あの顔で私を見つめながら懇願する。

「お願い。美也…お願い。美也が欲しいの」
「うぅぅぅぅ。も、もう一回だけだ…よ?」

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