Index|Main| Novel|Cappuccino | フォントサイズ変更 L … M … D … S |
◇◆ Mythology 3 ◇◆
|
|
ベラは死後、全ての記憶を失い、冥界にて静かに暮らしていた。
予てからアポロより真理を説かれていたフィンは、見ることなどできぬ空を、記憶のないまま見上げるベラに不憫を想い、世の理を諭しながら見守り続けた。 戦い破れ、渇命するラノンは緑の国へ堕ち、その強大な術や力の全てを秘薬で奪ったディーネは、赤子と化したラノンを我が子として育て始めた。 ベラとピューボロスの血が混ざり、生まれ変わったクジョーことアポロは、微かに残る意識の中で必死にクレスを探し啼いていた。 クレスもまた、その声に応えるよう、魔界の入り口で見た白蛇を探し続けていた。 そして王の居なくなった赤の国は、ラノン討伐後、瀕死のピューボロスが絶望と悲しみの中、自ら命を絶とうとしていた―― そんな滅び行くバールを、高き神殿から、成す統べなく嘆き悲しみながら見下ろす女神がただ一人。 夫と愛娘、そして愛する美しい星の全てを失ったレイアは、エンプの存在を知らず、この戦いの全てが龍族の計略による仕業と確信し、真偽を確かめることなく、龍族への復讐を誓う。 見るも無残に焼け爛れたバールの片隅で、生まれたての赤子たちが親を求めて啼いていた。 憎きピューボロスの子である、異形のフェニー、ルーティー、ダーフ、クジョー。 けれどそれらは、愛娘ベラの子でもあった。 母性に苛まれたレイアは、その赤子たちを神殿に連れ帰り、神名天寿を与えると、彼らに、この星の行く末を永遠に見届けるよう言い渡す。 ところがそこで、クジョーの中に眠るアポロの意識がレイアに反応した。 レイアはようやくその事実に気づくと、夫であるラノンの所業をアポロに侘び、夫に代わり、何でも彼でも望みを給うと申し出る。 けれどアポロは、レイアの予想に反して、ベラとピューボロスの幸せを願った。 流石のレイアも、それだけは叶えることができぬと拒む。 するとアポロは、ならばピューボロスを、我が子孫に託させてくれと懇願した。 そしていつの日か、ベラが生まれ変わった暁には、どうか二人を認めて欲しいと。 渋々ながらもレイアはそれを承諾し、呪縛から解き放たれたアポロはクジョーの中から出で、ベラの待つ冥界へと旅立った。 そして、不滅の魂を授かったベラの子は、それぞれが四つの国に飛び、その国の守護神となる。 アポロとの約束を果たす為、レイアは神殿を下り、赤の国に舞い降りた。 そしてたった今、自ら命を絶ったピューボロスの魂を鷲づかみ、憎悪の念を告げる。 「冥界で、そう容易くベラと貴様を再会させるわけにはいかぬ」 さらにレイアは、ピューボロスの魂が解放されるのは、バールを統べる四人の神と、ベラの生まれ変わりが揃い現れたときのみ。 けれどその時、誰一人として記憶がないものとする。 その二つを付け加え、ピューボロスの魂を、パンドラが魔界へ落とした大甕に封じ込めた。 再び神殿へ戻ったレイアは、アポロを抜かす三人の神を呼び寄せ、未来を問う。 ディーネは告げた。 「我が緑の国の威信にかけ、ラノン様の御魂を秘薬で封じ、魔界の扉を守り続けます」 けれどフィンは言った。 「ベラ様とアポロに懸かる呪は大きく、互いに転生することは永久に無理でしょう」 そこでクレスはレイアに縋る。 「ならば、命を懸けたアポロの願いは、無に帰すると言うのか」 するとレイアは、どちらにもつかぬ言葉を放つ。 「クレスよ、時を待て。時は我らよりも偉大だ。アポロもそれを知っておろう」 そして最後に、レイアは唱えた。 「肉体は滅びても魂は滅びぬ。我らは代々王家に生まれ変わり、その約束を果たさねばならぬ。我ら全員の魂が、時同じく甦ったとき、私は二人を許すと誓う――」 こうして数百年の時が過ぎ、ベラの子である守護神以外のバールの民は、誰もが冥界へと旅立ち、そして生まれ変わるときを、ただ只管待ち侘びた。 気が狂うほど孤独な長き年月を、ただ一人耐え忍ぶピューボロスの魂は、アポロの子孫により繁栄を取り戻す赤の国の下で、ひっそりと息衝く。 そしてその時が来た。 フィンの生まれ変わりであるアルファードが、誰よりも先にバールへ舞い降りて、それを追うように、クレスの生まれ変わりであるグランドが。 そして、ディーネの生まれ変わりであるハープが誕生した。 その頃、赤の国カプチーノには、奇怪な能力を生まれ持つアポロの子孫が居た。 冥界を繋ぐ、シャーマンとしての能力までをも兼ねそろえたその王子は、地中に蠢く気配を感じ、趨くままにパンドラの大甕を開けた。 そこで、数百年の封印からピューボロスが解き放たれ、その深い悲しみに共鳴した王子は、自らピューボロスの魂を呑み込み、己の体内へ隠した。 そして、それと連動するように、青の国ココアに、強大な癒しの力を授かるベルが誕生する。 一方、冥界にて眠るアポロの魂は、只ならぬ気配にざわめきを覚え、人知れず深き眠りから覚めた。 「莫迦な。何故、エンプが甦ったのだ……」 そう。生まれ変わるはずのない、エンプの生まれ変わりまでもが現れ、美しき星へと復活したバールを、我が物にするために手段を練る―― |
|
← BACK | NEXT → |
Index|Main|Novel|Cappuccino |