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◇◆ 飛ぶ鳥を落とせっ! 3 ◇◆
 何でだろう。訳も無く貴方の髪に頬ずりしたくなるの。
 長く触れ合った唇がゆっくりと離れた後、額と額を合わせて見つめ合うと、ぼやけて見えないくせに、微笑みたくなっちゃうの。
 背中に回された腕の重みや、顔を包み込む掌の温もりが好き。
 絡み合う足先にまで愛しさが込み上げ、そしてそれを実感して、はにかむの。
 抱き合って、転がって、腕じゃ無く肩に抱かれ眠り、そしてまた抱き合って……

「恵美の肌、スベスベ。ねぇ、これはアレ?」
 私の背中を指で辿る飛鳥さんが、首を傾け、キスを要求しながら囁いた。
 だから私は、ぽってりとキスした後、飛鳥さんの耳元で囁き返す。
「うん。アレ」
 そして心の中で、こう思う。ボディスムーサーさん、今此処に、君へ感謝を送ろう――

 思わず貴方の額に、心を籠めて口づけたくなるの。
 くしゃっと掴むように私の髪を握り締めて、キスを求める仕草も、躯全部で私を包み込む力強さも、何もかもが堪らなく愛しいの。
 背中で凭れ掛かったときの胸の大きさや、乱れた髪を梳くしなやかな指先が好き。
 真っ白なシーツに二人裸で包まって、他愛の無いお喋りをしながら、声を出して笑うの。
 そしてまた抱き合って、転がって、指を絡ませたまま眠り、目覚めれば其処に貴方がいる……

「じゃ、恵美が甘いのは、アレ?」
 私の首筋に顔を埋める飛鳥さんが、唇で産毛を逆撫でながら囁いた。
 だから私は、擽ったさに肩を竦めて、笑いながら囁き返す。
「うん。アレ」
 そして心の中で、また思う。ボディバターさん、貴方にも今、感謝を送る――


 土曜のリザーブが、土日のリザーブに移行して数週間。
 あちらこちらと土曜に出掛け、そのまま飛鳥さんの部屋にお泊まりするの。
 で、アレって言うのは、昨日のお出掛けで買った、口コミサイトお勧めなボディーケア。
 通称BAと呼ばれる、ビューティーアドバイザーさんのレクチャーを受け、その効果に驚き、即お持ち帰りしちゃったの。
 自己満足で構わないと思っていたけれど、こう言われると、すっごく嬉しいよね。

 そして一夜明けた日曜は、いつもこうして裸のまま、何気ない時をゆったりと過ごすんだけど、流石にベッドから降り立つときは、裸のままじゃ恥ずかしい。
 だから、飛鳥さんのシャツをパジャマ代わりに羽織り、部屋の中を行き来する。
「温め~てきた、この絆こそ~、隠せはしないぃ愛の形ぃなの~」
 コーヒーの紙フィルターを折りながら、相変わらずのマリヤ節が、私の口から毀れ出す。
 すると、私の後をついてきたらしい飛鳥さんが、いつもの悪戯口調にてツッコミを入れた。
「もしも、世界が明日、終わりを迎えたら?」

「飛鳥さんが居れば、怖くな~いっ!」
 当然、後ろを振り返り、飛鳥さんの首に腕を巻きつけジャンプした。
 すれば飛鳥さんが、声を上げて笑いながら、そんな私を抱き上げる。
「あははっ! 恵美、危ないよ。火傷したら大変でしょ?」
 うん。バカップル。しかも互いに三十路を過ぎた、傍目には切ない感じ。
 だけど、そんな他人の目など気にしないもんね。それが生粋のバカップルだもん。
 蛇の道は蛇って言うし、幾つになろうと、ラブパワーは健在するものなのだよ、諸君。

 だけどふと、間近に映る飛鳥さんの顔を見て、好からぬ人物の善からぬ言動を思い出す。
 好からぬ人物と言えば、勿論、野田課長のことで、善からぬ言動とは、数週間前の出来事だ。
 飛鳥さんに抱かれながら、課長のことを思い出すのはどうかと思うし、腹立たしい。
 けれど、何かが引っ掛かって、忘れられずにいるから仕方がない。

 それは、初めて飛鳥さんに抱かれた時の週明けだった。
「これからず~っと、あなたの傍にい~てっ、痛っ、イテテ……」
 何だかずっと挿入感が抜けなくて、股関節も可笑しなことになっていて、上手く歩けないの。
 ほら、歩くときってさ、身体の中心へ向けて斜め前に、足を踏み出すでしょ?
 だけど今の私は、そのまんま、真ん前に出しちゃうの。こう、ロボットみたいにさ。
 だって、何かが挟まっているみたいで、脚をきちんと閉じれないんだもん。

 ところが其処へ課長が現れて、飛鳥さんと同じように私の耳元で囁いた。
「佐倉、何でそんなに変な歩き方をしてるんだ?」
 それは女の子なら、一度は通る道を経験したからだっつうの。まぁ、言えないけど。
 しかしこいつ、何でそんな訳知り顔で私を見るかな。
 今日の笑顔は、爽やかさを通り越して、いやらしく思えるのは私だけじゃないはずだ。
 しかも、自分で放った言葉に、自分だけがウケてるし。
 なんと言うか、マイファニーオヤジギャグ? ジャズじゃなくてギャグなの。

 こう、程好くムカツク。良い塩梅でムカツク。
 さらに、耳元で囁かれたこともムカツクんですが。全くさ、私の耳元は飛鳥さん専用だっつうの。
「他愛ないジョークでウケる快感は、課長からは微塵も齎されません」
 だから、辛辣にマリヤ嫌味を放ったけれど、今日の課長は負ける気がないらしい。
 珍しく一歩も引くことなく、それを切り札に逆襲された。
「へぇ。ならお前は、誰から快感を齎せてもらうんだ?」
 その言葉で、昨夜の光景が、ぼやけたまま脳裏に浮かび、瞬く間に赤面した。
 そんな私を、面白可笑しそうに眺め見る課長が、異常なほど癇に障る。

 本当は、課長と長話などしたくない。
 いつもなら、こんなセクハラ発言どころか、重要らしき発言まで無視して消え去ることができるのに、何故か今日は言い返したくて堪らない。
「これだから、ソウルメイトの居ない人は……」
 鼻で一瞥してから、片方の口端を引き攣るように上げて、嘲り嫌味を吐き出した。
 ところが課長は、この言葉が何から引用されたものかを把握した上で、訳の解らぬ言葉を告げる。
「ちゃんと目の前で、待ってるのにね……」

 マリヤ返しが出来た努力だけは認めてやろう。
 だけど、全くもっての意味不明だから、頓珍漢なんだっつうの。
 こういうとき、飛鳥さんだったらきっと、機知に富んだ慣用句で答えるもんね~だ。
 だから飛鳥さんは、トンチンカンチン一休さんで、課長はチンが欠けた、頓珍漢なんだよ。
「ねぇ飛鳥さん、そのツッコミは可笑しくない?」
「いや、合ってるよ。我ながら上手いって思ったも……え?」

 え? は? ん?

 自分の発した言葉に驚いて、その場で数秒固まった。
 何てことを、選りに選って、課長なんかに放っちゃったんだろう。
 これじゃ、頓珍漢なのは、課長じゃなくて私じゃん。
「えらくすみません」
「い、いや、べ、別に……」
 だからその場を瞬く間に逃げ去って、相変わらずのパソコン業務に精を出すけれど、精を出しているのはフリだけで、頭の中はグルグルと余計なことを考える。

 何かが可笑しい。何かが変だ。
 否、一番変なのは自分なんだけど、そうじゃなくて、課長にも可笑しな言行があったはず。
 だけど、自分の失言ショックが大き過ぎて、課長の『変』に気付けないの。
 さらに、もっと可笑しいのは、この事件の真相を、余り解明したがっていない自分自身だ。
 よく解らないけど、何かが怖くて、深く掘り下げたくないの。それなのに思い出してばかりいるの……

「恵美? どうかした?」
 飛鳥さんの心配気な声で、過去の妄想から一気に覚めた。
「あ、ううん、何でもない!」
 いかんいかん。何を血迷ったか、私。魔が差すにも程があるっての。
 折角、飛鳥さんと一緒に居られる貴重な時を、課長のことで無駄になどしたくない。
 だからそれからは、一度も課長のことなど思い出すことなく、飛鳥さん一色に染まった。

 再びベッドに転がり、通勤途中で見掛ける犬の話に興じる。
 飛鳥さんはクスクスとその話に笑ながら、私の前髪を掻き上げるの。
 その指の感触が心地良くて、つと目を瞑り、そしてそのままお昼寝タイム。
 けれど、ふと目覚めて見上げれば、ぼやけた視界の中に、見知らぬ誰かが映り出す。
 否、違う。見知らぬ誰かではなく、暦とした飛鳥さん本人だ。
 ただ眼鏡を掛けていないから、そう思っちゃっただけ。寝惚けていたから、間違っちゃっただけ。
 それでもそこで、妙な違和感が私の中に芽生え、考えることなく想いを口走る。

「あれ? 本を読むのに、眼鏡を掛けなくて平気なの?」
「え? あ、そうだった。忘れてた」
 ベッドサイドに置かれた飛鳥さんの眼鏡を取り、合うはずないけど、面白半分に掛けてみる。
「どう? 似合う?」
 けれど、悪戯めいた言葉を発してから、又もや妙な違和感に気がついた。
 これは明らかに伊達だ。全く度の入っていない伊達眼鏡だ。
 飛鳥さんは、伊達眼鏡をお洒落として掛けている? 違う。何か理由があるはず。
 目の悪いフリをして、眼鏡を掛けている理由が、飛鳥さんにはあるはずだ。

「ねぇ飛鳥さん、どうして目の悪いフリを」
 意を決し、何気なさを装って、飛鳥さんへ疑問を投げ掛ける。
 ところが運悪く、切れ味の良かったらしい本の頁が、飛鳥さんの指を切り裂いた。
「ん? 痛っ……」
「だ、大丈夫?」
 指先の切り傷は、結構痛い。大袈裟に騒ぐ怪我ではないけれど、既に血が滲んできているから、本が血で汚れちゃった方が大変だ。
 そこで、バッグの中に絆創膏が常備されていることを思い出し、言葉を掛けながら立ち上がる。
「私、絆創膏持ってるから、ちょっと待って」

 ごそごそと鞄の中を捜索し、目当ての物を見つけて舞い戻る。
 外紙を破り、飛鳥さんの指に巻きつけようとした瞬間、飛鳥さんが少し驚いたように言葉を吐いた。
「プ、プーさんだ」
「え? あ、ごめん。普通のが無くて…あ、会社で、からかわれちゃう?」
「いや、からかわれたら、彼女に貼ってもらったと言うから平気」
 え、彼女? い、いやん。もう、そんなこと言ってくれたの初めて!
 だなんて舞い上がり、その後は、伊達眼鏡の件などすっかり忘れたまま、週が明けた。

「うわ、課長の絆創膏、可愛い! これ、彼女さんが貼ったんしょ?」
「うん、そう。彼女が貼ってくれた」
「課長の彼女さんって、あの綺麗な人ですよね?」
「え? あ、見たの?」
「はい。もうバッチリと! らぶらぶでしたよねぇ!」

 全く、朝っぱらから煩いよ。綺麗な彼女なのは解ったから、仕事をしてくれっつうの。
 大体、私だって飛鳥さんに、絆創膏を貼ったも~んだ。
 今頃飛鳥さんだって、会社の女子社員に、同じこと言われちゃってるかもだも~んだ。
 まぁ、綺麗な彼女とは言われないだろうけどさ……

 そんなこんなの昼休み、昼食を終えてから、屋上に向かう。
 仕事のストレス解消は、屋上でマリヤの歌を心行くまで発声練習するに限るのよ。
 ということで、厚い雲に覆われた薄グレーな空を見上げ、両手を広げて早速の熱唱開始。
「そのぉ細く長い指に~ 纏わりつく不安の影を~ 抱き締めたい~」
 心の中のモヤモヤが、朝からずっと続いている。
 だけど原因が思い浮かばなくて、仕事をこなしながらも過去を掘り下げ、その追求に勤しんだ結果、辿り着いたのは飛鳥さんのことだ。

 出逢った場所が場所だから、ある程度の偽りは、正直、仕方がないと思う。
 私だって、会社ではノーメイクだし、不気味ちゃんって陰口を叩かれてるし、飛鳥さんの前とは大幅に違うのだから。
 それでも、自分のことは棚に上げ、飛鳥さんの隠し事が気になるんだ。

 そう言えば私、飛鳥さんの苗字を知らない。会社名も知らない。
 だけどそれはお互い様で、飛鳥さんも私のそれらを知らない。
 別段、隠しているわけではない。ただ単に話題とならないから互いに話していないだけで、聴かれれば、私はちゃんと答えられる。
 でも、飛鳥さんは? もし私が詮索したら、飛鳥さんは平然と答えてくれる?

「不意に見せる、微笑みが~ 何処までも淋しいのは、何故?」
 眼鏡を外し、飛鳥さんの微笑を思い浮かべて、また歌う。
 飛鳥さんの微笑が、淋しげだと思うときがある。
 それだけじゃない。哀しげな瞳で何処か遠くを見つめ、物思いに耽っているときもある。
 だからその理由を知りたいと願うけれど、深入りすることが躊躇われ、いつだって聴けずに居るんだ。

 不意に、缶の転がる音が、風も人気もない屋上に響き渡る。
 咄嗟に音の鳴る方へ振り向けば、揺れ動く人影が、ぼやけた視界の片隅に入った――

 飛鳥さん? 否、違う。飛鳥さんが此処に居るはずがない。
 だから慌てて眼鏡を掛けて、視線を元に戻せば、愁いを帯びた笑顔の野田課長が、其処に居た。
 似ている。そう思ったのは、一度や二度じゃない。ぼやけた視界でも、事ある毎にそう思った。
 だけど二人が同一人物だなんて確証もないし、今だって、恋する三十路の思い込みに過ぎない。つまりはだ、気のせいだよ、気のせい。

 それなのに、課長の右手が伸びて、私の手首を握り締める。
 咄嗟に、振り解こうと手首に視線を落とした瞬間、課長の人差し指に目を奪われた。
「な…なん、で……?」
 水色地の絆創膏。熊キャラクターの描かれた絆創膏が、飛鳥さんと同じ人差し指に巻かれている。
 厭だよ、お願い。確証を私に与えないで。私の恋を終わりにしないで。
 けれど無情にも、魔法の解ける鐘の音が、課長の口から発せられた。

「恵美……」

 マリヤの歌詞じゃないけれど、目と目が合って、指が触れ合うその瞬間、全ての謎が解けちゃった。
 飛鳥さんは課長で、課長が飛鳥さんで……
「何度も言おうとしたんだ」
 そんな肯定話は聴きたくない。私の確証を覆す、否定話が聴きたいんだ。
「う、嘘ですよね? で、どこからが嘘ですか?」
 嘘じゃないことくらい解ってる。掴まれ続けている手首が、肌が、この人は飛鳥さんだと告げている。
 私はこの人の、全てが愛しいと感じ、私はこの人に、何度も何度も抱かれ、私はこの人と……
「恵美、頼むから聴いてくれ」

「厭! 呼ばないで! 課長は飛鳥さんじゃない!」
「飛鳥だろ! 野田飛鳥。それが俺の」
「違う! 私は飛鳥さんが好きなの。課長じゃなくて飛鳥さんが」
「どっちも俺なんだ! それが真実だろっ」

 腕だけが繋がったまま、叫び声に近い、互いの押し問答が繰り返される。
 それでも、真実という言葉に私の思考は途切れ、その場に力なく崩れ落ちた。
 そんな私を見下ろしながら、飛鳥さんではない口調の、飛鳥さんだと言う男が呟く。
「何でお前は、飛鳥を受け入れ、今の俺を拒む?」
 何も考えたく無い。私の恋は、今此処に終焉を迎えたんだ。
 けれど、押し黙る私に苛立って、続けて投げつけられた言葉に、私の直感が反応した。
「お前がそうやって拒むから、俺にはあの方法しか……」

「仕組んだの? あれは仕組まれた出逢いだったの?」
 未だ、掴まれ続けている腕に力を込め、逆に掴み返して、聴きも返す。
「は、初めから、恵が私だって…何もかも解ってたの?」
 見上げながら覗き込んだ瞳は、疚しさの色を深く映し出し、私の問いを肯定する。
 そして、それを認めるように、彼の口がゆっくりと言い訳を紡ぎだす。
「ただ俺は、お前を誰にも……」
「ぐ、具合が悪いので早退します!」

 言い訳なんか聞きたくない。そんなもの、もう、どうたっていい。
 私にとっては、ダブルのショックだ。否、トリプルか? いやいや、クアドラプルだ!
 飛鳥さんの正体が、課長だったことだけでもショックが大きいのに、出逢いまで仕組まれていたなんて事実が発覚したら、誰を呪っていいのかすら解らない。

 酷いよ。あんなにときめいて、あんなに綺麗になろうと努力して、あんなに……
 違う。誰も酷くない。ただ単に、自分が莫迦だっただけだ。
 何もかも、誰かに強いられた訳ではなく、自分自身が考え決めたこと。
 勝手に浮かれ、勝手に舞い上がり、勝手に恋をして、勝手に身体を差し出しただけのこと。

 バッグ片手に、制服のまま会社を飛び出し、家路を急ぐ。
 こんなときは、布団の中で丸まり、死ぬほど泣き続ければいい。
 そのうち、泣き疲れて眠っちゃえば、何事もなく朝はくる。
 だけど、このショックはいつもと違う。抱え込むには、未知な世界だけに一人じゃ重過ぎるんだ。
 誰かに聴いて欲しい。解決の糸口を、一緒に探して欲しい。
 それでも私には、友達と呼べるような人が居ない。否、一人だけ居た――

 降り出した雨に、傘もなく打たれながら、全面ガラス張りのドアを開けた。
「陽ちゃん、ごめん…あたし……」
「え、恵美ちゃん? 何? どうしたの!」
 陽ちゃんとは、私の誕生日に、勝負メイクを施してくれた美容師さんだ。
 実はこの陽ちゃん、おネエMANSではなく、おニイWOMENだったりする。
 女なのに女じゃない。男性よりも男性らしい。そんなカリスマ光線を出し捲る、都内サロン所属のスーパースタイリストさんなの。
「何て顔! 最悪…ちょっとこっちに来な!」
 さらにメイクを尊び、何処までも兄貴肌なので、崩れたメイクの女を放っては置けない性格でもある。

 美容院だけに、当たり前だが、タオルは厭ってな程あるんだ、これがまた。
 そんなタオルを投げつけられ、猿よりもキーキー喚く陽ちゃんに叱咤され続けた。
「信じらんないっ! 三十路の女が泥に塗れてどうすんのっ!」
 私は鰈ですかっつうの。しかも泥には塗れてないし。
 だけど言い返す気力がないので、心に秘めるだけに留めようと思います。

「大体さ、恵美ちゃんは、醜いアヒルの子なのよ? そっれをあんた!」
 そこまでズバリと言わなくても、自分の容姿は自分自身が一番知ってます。
 というか、陽ちゃんは怒るとおネェ言葉に戻るんですね。ちょっとビックリ。
「あ、勘違いしないでよ? 俺が言ってるのは、あくまでもストーリーだからね?」
 ストーリー? 醜いアヒルの子の結末って、どうなるんだったっけ? 思い出せん……
 だけど問う気力もないので、サラっと流してしまおうと思います。

「とにかく、今直ぐそのシミッタレた服を脱げ。そしてコレを着ろ」
 陽ちゃんの言葉遣いが、徐々におネェからおニィに変化して行く。
 ということは、大分怒りが冷めたということで、だけど私は、男性の目の前で着替えることになると言うことで……え? それ無理。絶対に無理。
「よ、陽ちゃん、ちょっとアッチ向いててよ……」
 そんなことを言い出した私に、驚いたのは陽ちゃんその人だ。
 だけどこの行動は、何故か陽ちゃんを感激させたらしい。

「恵美ちゃんにとって、俺は男なの?」
 白目を赤く染めたウルウルな瞳で、陽ちゃんが何やら言い出した。
「あ、当たり前でしょっ!」
 下着姿の身体を洋服で隠しながら即座に答えるものの、これが正当な答えなのかは解らない。
 それでも陽ちゃんは、その名の如く陽気にマリヤを歌いだす。
「いっつのまに~かっ、どんな友達よ~りっ」
 そんな陽ちゃんのテノールボイスを聴きながら、ソウルメイトの件を思い出しちゃったから堪らない。

「や、な、何? 何で泣くの? 俺、そんなに音痴?」
「違うの。ソウルメイトがカムフラージュだったの!」
「あぁ? もっと詳しく説明してよ……」
 結局、全てを陽ちゃんに吐き出した。聴いてくれる人がいるって、幸せなことだよね。
 そして涙が治まったところで、陽ちゃん自慢のメイクが施されて行く。
 だけど、全てを聴き終えた陽ちゃんは、カリスマらしく、カリスマ的質問を、矢次に私へ放ち始めた。

「話を聴いてるとさ、恵美ちゃんは誰の何に恋をしてたの?」
「そ、そりゃ、飛鳥さんの」
「でもさ、全てを見せられるって言う割に、一度も眼鏡を掛けなかったのは何故?」
「そ、それは、だってちょっとでも……」
 違う。ちょっとでも綺麗に見せたいと思ったのは、最初の頃だけだ。
 だって、きっと飛鳥さんなら、私の眼鏡姿も平気で受入れてくれたはずだから。
 じゃあ、何で私は眼鏡を掛けなかったの?

「多分、恵美ちゃんは気付いてたんだよ」
 そうだ。答えは簡単だ。初めて出逢ったときだって、貧血で倒れたときだって、抱かれたときだって、飛鳥さんの顔が課長に見えていた。
 そして私は、それを確かめるのが怖くて、眼鏡を掛けなかったんだ。
「それともう一つ。恵美ちゃんが確かめたくなかったのは、どっちへの気持ち?」
 核心迫るその言葉で、封じていた心が、物の見事に決壊した。
 飛鳥さんが課長だと、知ってしまうのが怖かったわけじゃない。
 逆だ、逆だったんだ。飛鳥さんが課長とは別人だったと、知ってしまうのが怖かったんだ。
 眼鏡を掛けたクリアな視界で、課長じゃない飛鳥さんを、見てしまうのが怖かったんだ……

「恵美ちゃんは、課長が好きだった。そして課長によく似た飛鳥さんに、恋をしちゃったんだね」
 陽ちゃんに、ピタリと言い当てられて、漸くその事実を受入れた。
 そうなんだ。そうなんだよ。私は野田課長が好きだったんだ。
 必要以上に避け続けたのも、何もかも、その気持ちを否定する、潜在意識の為せる業?
 それでも、そんな事実を受入れたところで、どう行動したら良いのかが解らない。
 けれどそこで、又もや陽ちゃんが、タイミング良くチャンスを与えてくれた。
「で、俺と恵美ちゃんの仲を勘違いして、嫉妬渦巻く彼があそこに……」

「あそこ? 彼? 何それ?」
 思わずそう言い返しながら、陽ちゃんの視線の先を追いかけた。
 何時の間にか外は真っ暗で、あんなに降っていた雨も上がっている。
 そんな店先のウインドーに、彼らしき男性の姿が映し出されていた。
「よ、陽ちゃん、眼鏡どこ?」
 間違えるのは、もうコリゴリだ。だから陽ちゃんが手渡してくれた眼鏡を掛けて、彼の姿を眺め観る。
 間違いない。アレは正しく、野田飛鳥。しかも何故か、苛立ちモード全開な……

「よし。メイクは完璧! さぁ、最後の勝負をしておいで」
 何事も準備万端な陽ちゃんは、はいバッグ。はいコート。と、手際良く私を促し続けるの。
「陽ちゃん、私、陽ちゃんと出会えたことを神に感謝する!」
 何度こう想ったかは定かじゃない。だけど、口に出せたのは初めてだ。
 すっごく忙しい人なのに、こんな私のために、全ての用事をキャンセルしてくれた。
 莫迦にすることなく、ちゃんと話を聴いてくれて、確かな助言も施してくれた。序にメイクも。
「それは勝負に勝ってから言ってよ。で、ランチを奢ってね?」
「おぅ!」

 気合いとともに、陽ちゃんのお店を飛び出して、一瞬前に姿を消した野田飛鳥を追いかける。
 何故、どうして、彼が此処を探し当てたのかは知らないが、これぞ、神の思し召しだ。髪だけに。
 陽ちゃんに借りた服のまま、夜でも賑わう町並みを駅に向かって直走る。
 そこで漸く、彼の背中を見つけ、息を切らしながらその名を呼んだ。
「やっ、待っ…飛鳥さん!」
 多分、聴こえている。なのに彼は振り向かない。だからその場で立ち止まり、違う名前で呼びかけた。
「の、野田課長っ!」

 彼の足取りが、その呼びかけでひたと止まり、一瞬の間を置いた後、ゆっくりと振り返る。
 そこで私はまた走り出し、彼の靴先を見つめながら、息を整えた。
 今頃、こんなことを口にするのは、恥ずかしいを通り越し、微妙に悔しいんだけど、此処で勇気をださなきゃ三十路女が廃る。
 随分と回り道をしちゃったけれど、私のソウルメイトは貴方だったんだと気がついたのだから。
「ず、ずっと前から、課長のことが、す、好きでした……」
 真実を伝えることができて、肩の荷がスっと落ちた気分だよ。
 結果はどうであれ、頑張ったよ私。清々しいぞ、私。

 ところが、私の気持ちとは裏腹に、野田飛鳥はこれじゃ満足できないらしい。
「佐倉、こっちを見て、もう一度言えよ」
 えぇ? 無理だよ、無理! なんて非道なことを言い出すかな。
 だって今は眼鏡を掛けてるし、クリアな視界で目を見つめての告白なんて、ただの苛めじゃん!
 だけどそこで、陽ちゃんの言葉を思い出す。そうだ、そうだった、これが最後の勝負だった。
 悔いを残すな、私。目を見て告白し、その後吹き出されたとしても、なんぼのもんじゃ、私。

「す、好きでした!」

 顔を上げ、目を合わせ、歯をむき出しながら、叫んだ。
 こちらの場合ですと、告白ではなく、喧嘩を売っている感じですが、まぁいいよ。上出来だ。
 けれど瞬時に彼の手が伸びて、私の腕を力任せに引っ張るから、ちょっとだけ後悔する。
 腕力勝負では勝てません。ごめんなさい。つい、調子に乗りました……

 ところが、彼に喧嘩を買われたと思ったのは、誤解だったらしい。
 慣れ親しんだ、温かな胸の中にすっぽり納まって、きつめの抱擁が齎される。
 そして、顎で私の頭を小突きながら、飛鳥さんが、否、野田課長が不貞腐れ気味に呟いた。

「何で過去形なんだよ……」

 扉が閉まった瞬間、熱い抱擁が飛んできて、荒々しい口づけとともに、互いの服が道しるべの如く、部屋中に散らばって行く。
 手探りでネクタイを解き、ワイシャツのボタンに手を掛けるけれど、焦って上手く外せない。
 けれど飛鳥さんは、こんな私より断然手際が良いらしい。
 リビングの途中でブラが外れ、胸が露になって、飛鳥さんの唇が貪るように胸の隆起へ吸い付いた。

「んっ、ふっ…んぁっ」
 もうワイシャツのボタンは外せない。飛鳥さんの頭を抱え込み、只管善がるだけだ。
 それでも飛鳥さんの攻撃は、これだけで終わらない。
 ストッキングを破かれるように剥がされて、ショーツの中にしなやかな指が滑り込んでくる。

 確かめなくなって自分で解る。受入れ状態万全で、愛液が溢れかえっているのだから。
 だから飛鳥さんも泥濘する突起に愛撫を加えることなく、私をそのままソファーの背凭れに押し倒した。
 後ろ向きのままショーツが剥がされ、ベルトの金属音がカチャンと響き、性急な飛鳥さんが、くる。

「んあああっ」
 まるで今にもハードルを飛べそうだ。
 右足は地に着き、左足は直角に折れ曲がって、背凭れの上で震えている。
 いつの間にか、シャツを脱ぎ捨てたらしい飛鳥さんの、厚く熱い胸が私の背中を包む。
 そして唇が首筋を這いながら、固い高まりを最奥目指して突き上げ続けるんだ。
「いやぁっ、イクっ、イっちゃうっ!」
「イケよ」

 優しい飛鳥さんと、命令口調の課長が合体したのが、野田飛鳥。
 当たり前だけど、これって最強な合体だと思うよ。しかも凄くハードな。
 飛鳥さんは余り、自分の感情を表に出さなかった。
 私の目がいつもぼやけていたから、気付かなかったのかも知れないけれど。
 でも課長は違う。昔から、露骨と言い切っても良い程、私へ感情をぶつけてきた。
 だけど私は、それが怖かった。自分と課長の容姿を比べては、有り得ないことだと決め付けて、気付かないフリをしてたんだ。

 柔らかな革張りのソファーを握り締め、高みへ高みへと昇って行く。
 肌と肌がぶつかり合う音。卑猥な悦びを叫び続ける水音。その二つが聴覚を刺激するから、益々身体が熱くなるの。
「だめぇっ、や、や、やぁぁぁっ!」
 本当は、一向にダメじゃない。ダメどころかオッケーです。それはもう、かなり。
 だから、そこを指摘されると、図星が余り、恥ずかしさに赤面するのだと思うわけです。
「本当にイヤなの? イっちゃったクセに」
 言うな、聴くな。知ってるクセに。この物言いは、かなり意地悪だ。それはもう、かなり。

 だけど漸く、飛鳥さんの気持ちが解った。
 果てたクセに、未だ足りないの。脱力しているクセに、もっと欲しいの。
 そんな私の心を見透かす飛鳥さんは、不敵な笑みを向けると、突然私を担ぎ出す。
「え? や、ちょ、ちょっと待っ……」
 この方向は、確実に寝室じゃない。どちらかと言うと、洗面所方面かと。
 けれど飛鳥さんは、何処までも意地悪く、何処までも楽しげに言い切った。
「ヤダ。絶対に待ってあげない」

 案の定、洗面所に担ぎ込まれるけれど、そこはスルーにて、奥の扉が開け放たれる。
 依然として訳の解らぬまま浴室に運ばれて、訳の解らぬまま、バニラ香る泡で全身を隈なく覆われた。
 そこで突然、飛鳥さんの指が、胸に中心にと伸びて、どちらの突起をも弄び始めたから堪らない。
 甘い香りだけでも逆上せそうなのに、イったばかりの身体は富に敏感で、弾かれる度に声が漏れる。
「あぁっ、んぁっ、んんっ、やぁっ」
 泡なのか、私なのか解らない滑りが、中心部からとろとろ溢れて止まない。
 そこにシャワーを直に当てられ、さらに飛鳥さんの指がぬぷっと埋められた。

 激しい飛沫が、膨張した突起へ次々と当たり、飛鳥さんの指が、先程まで飛鳥さん自身を咥え込んでいた襞を掻き回す。
「やっ、やだ、だめっ」
 今度だけは、正真正銘のダメです。本当にダメなの。お願いだから止めて欲しいの。
 だって、今まで味わったことのない、不気味な快楽が身体を突き抜けるから。
 それなのに、今まで嘘を吐いてきた分、飛鳥さんは信じてくれません。
「ダメじゃなくて、イイの間違いでしょ?」
「違っ、ほ、ほんとに、ほんとに…んっ、ふぁっ」

 唇を塞がれながらも、飛鳥さんの胸と肩にしがみ付き、得体の知れない苛烈な快楽を遣り過ごそうと必死になる。
 けれど、もう無理だ。もう我慢できない。エコーがかって響くクチュクチュした水音と、バニラの香りと飛鳥さんの味に、堪えきれなくなった身体が勢いよく爆ぜた。
「ぃやぁぁぁぁっ」
 爆ぜた瞬間、シャワーに負けない激しさで、私の中から水が迸る。
 何処から出ちゃったのかなんて、わかる訳無い。でも、イクよりもっと脱力感があるの。
 そしてまた、脱力し切った私に、飛鳥さんがカナリな意地悪を囁いた。
「ほら、恵美のダメは、全部ウソ」

 嘘のようで嘘じゃない。でも、この不気味な官能に慣れてくれば、やっぱり嘘だと思うかも。
「だめぇっ、ふぁぁぁぁっ!」
 バスルームにて、本日三度目の潮吹き絶頂。
 もうヤダこれ。何これ。多分、筋肉の使い方が、可笑しな現象を起こさせるんだと思う。
 現にベッドでは、同じ箇所を擦られ続けても、こんな現象を起こしたりなんかしないし。
 不安定な場所で、力が入らないまま攻め立てられると、お漏らししたみたいに、私の中から勢いよく変な液体が飛び出すの。

 そして飛鳥さんは、これを拷問として活用したらしい。
 目眩く快感に襲われ、朦朧とし続ける私の耳元で、知り得たい情報を強気に問う。
「で、あの男は誰?」
 あの男? あぁ、陽ちゃんのことか。でもちょっと待て。そう言えばあのとき陽ちゃんが……
「嘘? ほんとに嫉妬してたの?」
「いやだから、疑問を疑問で返してくるな?」
「ねぇ、嫉妬しちゃったの?」
「待て、待て待て。だから俺の質問に答えろって」

 飛鳥さんが嫉妬した。あ嘘っ、あヤダ、あ困惑ぅ~!
 否、嫉妬ってさ、ただただ醜いだけのものかと思っていたのよ。こう、見苦しい感じ?
 だけど、嫉妬されるって、意外にも嬉しいことなんだね。こう、愛されちゃってる感じ?
 だからニヤケ顔が止まらなくて、序に飛鳥さんの質問も、華麗にスルー。
 そんな私に業を煮やした飛鳥さんが、これまた私を担ぎ上げ、バスルームを後にした。
「うおっ や、ちょ、ちょっと待っ……」
「ヤダね。絶対に待つもんかっ」

 今度こそ、やってきました寝室ベッド。
 バスタオルを被せられたまま、マットの上に転がされ、間を置くことなく、飛鳥さんの肌が重ねられる。
 しつこいけれど、私の頭の中は、嫉妬やジェラシーが咲き誇り、その芳しい香りに、未だ酔いしれ中。
「やきもちって、いい匂い!」
「まだ言うかっ」
 だけど、そんなお花畑に、ヒヨコちゃんの声が木霊した。

『課長の彼女さんって、あの綺麗な人ですよね? らぶらぶでしたよねぇ~!』

 何それ。どういうこと? 否、そう言えばそうじゃん。
 課長には確か、心に決めた、それはもうお似合いな、婚約者がいるはずじゃん。
 それなのに、何で私を抱こうとするの? もしかしてまた、私ってば騙されちゃってる?
 拙い。やっぱり嫉妬って、醜いものだと再確認した模様。
 そして、その悪臭に顔を顰めながら、飛鳥さんの胸を両手で押し退けた。
「ちょっと待った!」

 ところが飛鳥さんは、そんな私の言動に驚きつつも、平然と言い返す。
「だから、絶対に待たない」
 そういう問題じゃない。どういう問題かと問われると、答えられないけど。
 そこで今度もまた、物の見事に飛鳥さんの戯言を無視して、自分の言いたいことだけ口にした。
「課長には、心に決めた人がいるって聴いて、それで」
「うん。恵美のことでしょ?」
「違うよ、だって、すっごく綺麗な人だって言」
「うん。だから、恵美のことじゃん」
「全然違うよ! そうやって、はぐらかさない……ふぐっ」

 いつまでも続きそうな押し問答に、終止符を打ったのは紛れもなく飛鳥さんだ。
 煩いとばかりに私の唇を塞ぎ、力が抜けるまで、甘美なキスを繰り返す。
「恵美? 蛾の幼虫だなんて思ってるのは、恵美だけなんだよ」
 さらに、キスの合間には、こうして甘い言葉を間近で囁き続ける。
「恵美はスベスベで、甘くて、極上に綺麗なの」
 一瞬、全ての言葉を信じそうになった私は、勘違い女決定ですか?
 否、心配には及びませんでした。何故なら、そのような勘違いは瞬く間に消え去ったからです。

「だけどそれは……」
 やっぱりだ。私の褒め言葉の後には必ず、『だけど』って否定が添付されるんだよね。
 だから飛鳥さんから目を逸らし、その先に続く言葉に、傷つかないよう身構える。
 けれど飛鳥さんは、私の腰を強引に引き寄せ、どこまでも上から目線で言い切った。

「全て、俺だけのもの」

 言葉と同時に、屹立する高まりを最奥まで叩き込まれ、その台詞に、衝撃に、息が詰まる。
「ぐぁぁっ」
 それでも、驚いていられたのは一瞬で、突然やってきた快楽に身体は束縛され、心もまた、飛鳥さんの一言一言で支配されて行く。
「感じて…俺だけに……」
「んぁっ、あっ、ああ、んんっ!」
「結婚して…俺と……」
「え? あっ、んぁっ、や、やっ、だめっ」

 イヤじゃない。ダメなんかでもないの。
 だけどどうしても、身体に齎される快感が、だめだめ言っちゃうの。
 そんな私を見下ろしながら、飛鳥さんが得意の悪戯口調で問い掛ける。
「恵美のダメは、全部ウソ?」
 はい、嘘です。真っ赤な真っ赤な嘘だと認めます。今、此処に。
 だけど、気持ちが良すぎて言葉にできないから、首を縦に何度も振って、それを肯定した。


 貴方と出逢った日から、頭の中に、ずっとマリヤの歌が流れ続けている。
 そしてこれからも、多分これからも、この曲たちに癒され、勇気づけられ、私は生きて行く。
 貴方と二人で。貴方の隣で――

 I've been looking for your love.
 So, we've found tha way at last....

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