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◇◆ 彼が盗んだもの 1 ◇◆
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翔也に片思いしてから、もう六回目の春がやってきた。
小学校四年生のときに、転入してきた翔也を見て、一目で好きなったのがはじまり。 そう。初恋の一目ぼれってやつ。 ひそかにひそかに想い続けて、何度も何度も諦めようと思ったけれど…… やっぱり無理。だってめちゃくちゃカッコイイんだもん。 中学になって一気に伸びた身長と、薄い腰がなんともたまらずカッコイイし、 長い腕を振り上げて放つバスケットボールが、ゴールに入ったときなんて身震いするほどカッコイイし、高い鼻に、ビューラーなんていらない上を向いた長い睫毛に…… あぁ。たまらない。 なんの因果か知らないけれど、三回のクラス替えで、三回とも同じクラスになった私たち。 五年、中一、中二と、クラス発表の紙が掲示板に貼りだされるたびに、お互いの名前を見つけて一瞬目が合う。 そして新しいクラスに足を踏み入れた途端、ゲンナリ加減の翔也が言うんだ。 「またお前と同じクラスかよ……」 頭の良い翔也は、県内でもトップクラスの進学校を志望していた。 これも翔也を諦めようと思った原因のひとつなのだけれど、それでも諦めきれない私は 「お母さん! 私、風早高校に行きたいの!」 そうやって母に泣きついて、これまたひそかに有名進学塾へせっせと通った。 驚いちゃったのは周りのみんなで、下から数えたほうが早かった私の成績が、学年順位五番にまでなっちゃったから、 クラスでは、なんの呪い? とか、どんな魔術? だなんてせっつかれ、家では家で、 「どうしようパパ! 文子が頭良くなっちゃた!」なんてひどい言われよう。 だから風早高校を受験する人間なんて、うちの中学では翔也と私ともう一人の男子だけで、見事三人ともに合格したけれど、一学年400人弱、10クラス中の三人だ。 もう絶対に、同じクラスになれることなんてないだろうと思っていたのに、入学式の掲示板を見て唖然。 一年E組 石橋翔也 海東則巻 久島文子 三人とも一緒のクラスじゃん…… 後からやってきた翔也も、掲示板を見て唖然。もう人生終わりだみたいな顔をして、溜息とともにうなだれている。 けれどそのまた後に、のうのうとやってきたもう一人の男子こと 『海東』 は、掲示板をみるなりハイテンション。 人ごみの中で私を見つけると、突然バンザイをしたと思ったら、そのまま両手をブンブン振って、大声で叫びながら走りよってきた。 「ふ〜〜みこちゃん! 今度は、おんなじクラスだぴょ〜〜〜ん!」 やめてくれ…… 来ないでくれ…… 恐ろしいほどの勢いで神様に祈ってみたけれど、願い届かず。 右腕を大きな手でガシっと掴まれて、そのまま引きずられるように教室へ向かう羽目になった。 大体、海東は名前からしてふざけてるよ。のりまきだよ? のりまきって名前ってどうよ? だけど本人、すこぶるその名前が気に入っているようで、自己紹介の席では必ず 「海東則巻です! 【お海苔まきまき】 とか 【ルパン】 って呼んじゃってください♪」 と言い放つ、強靭な精神の持ち主。 まきまきはともかくとして、海東を怪盗と読ませ、尚且つ 【ルパン】って…… 無理がありすぎるでしょ? なのに妙な浸透性があるらしく、海東をルパンと呼ぶ人が後をたたないのがおかしいところで、 結局私もなんだかんだと言いながら、小学校のときからルパンと呼んでいたりする。 「ルパン……なんで俺は、高校まで来てお前と文子と同じクラスなんだ」 教室の端っこで、翔也がうなだれながら海東に愚痴をつぶやいていた。 海東がなんて答えるかと気になって、耳がどこかのマジシャンみたいに大きくなっている私。 それなのに、肝心なところで前の席の女子が、不意に後ろを向いて話しかけてきた。 「ルパンくんって面白いね。久島さん、彼と同じ中学だったの?」 女子の顔見知りが誰一人としていないから、早くなじまなきゃって思っていたけれど、 海東のおかげでどうやら幸先のいいスタートを切れそう? この機を逃しちゃならないとばかりに、笑顔フルスロットルで彼女と話しはじめた。 「うん。緑中だったの。ちなみに小学校も一緒だったんだけどね。えっと、福島さんはどこ中だったの?」 自分が福島と呼ばれたことに納得のいかない彼女が、ムンクも真っ青な叫びとともに訴えてきた。 「いやぁ〜! 福島はや〜め〜て〜! 由香って呼んで?」 いいノリだ。彼女となら、この進学校でもやっていける気がしてきたぞ? 「オッケー! じゃ、由香って呼ばせてもらっちゃうね。あ、私のことも名前で呼んで欲しいな」 するとなぜか、ニヤっと笑って片眉をピクピク動かしながら由香が言った。 「ふ〜みこちゃ〜ん! って? しかし、ルパンと文子って……笑えるよね君たち二人」 そう。そうなんだよ。小学校のときから同じことをみんなから言われてきたんだ。 海東がそうやって私を呼ぶからおかしくなるわけで、普通に呼んでくれれば誰も何も気にしないのに! 結局、休み時間中ずっと由香と喋り続け、笑い転げる私たちを見た他の女子たちも輪に加わって、 なんだか楽しくなりそうな高校生活。 う〜ん。ルパンよ ありがとう♪ |
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