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◇◆ 彼が盗んだもの 4 ◇◆
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なんだよ? あの白馬に乗った王子様を、見つけたときみたいなウットリしちゃってる顔は?
そんな顔していいのは、俺のことを見ているときだけだっつうの。 入学式の掲示板。 新入生クラス分けが貼りだされている前で、文子が翔也を見ながら立っている。 もしかしてあいつら、また一緒のクラスなんじゃないの? 嫌な予感が漂うけれど、ここは平常心で歩いていこう。 いや、でも、セーラー服も似合っていたけれど、ブレザー姿の文子もめっちゃ可愛いじゃん! あぁ、この学校まで文子を追いかけてきてよかった俺。必死で頑張ったもんな俺…… 顔は眠そうな気だるい雰囲気を醸し出しながら、心じゃニタニタ笑いが止まらない俺ってどうよ? そんな余裕を掲げて、慣れないネクタイを下げながら掲示板までたどり着けば 1年E組 石橋翔也 海東則巻 久島文子 マジかよ? 同じクラスじゃん! 邪魔なやつもいるけど…… さっきまでの余裕はどこへやら。気付けば万歳しながら叫んでいた。 「ふ〜〜みこちゃん! 今度はおんなじクラスだぴょ〜〜〜ん!」 海東則巻。5月で16歳になる予定。 どこのどなたか存じませんが、神様? 今までの暴言と侮辱を心から謝ります。 そしてありがとう! 今、俺は世界一幸せです―― ことの始まりは、小学2年のときだった。 『のりまき』だなんて変な名前をつけられた俺は、それをネタに毎日からかわれていた。 そんな沈む俺を見て、当時隣の席だった今と大差ない容姿の文子が 「海東は、のりまきって感じより、ルパンって感じだよね♪」 いきなりそんなことを言い出した。 そこで、なんでオレがルパンなんだと問い返せば 「馬鹿だね? 『かいとう』といえばルパンじゃない!」 屈託なく笑いながら、当たり前のことを聞くなとばかりに文子が言った。 だからオレがふざけ半分で 「お前の場合、名前は似ているけど、フジコちゃんにはほど遠いよな?」 嫌味を込めてそう言えば、猿の鳴き真似を心行くまで叫んだ後、真っ赤になった文子が叫ぶ。 「その言葉、後悔するなよ? 今に見てろ? フジコよりすごい文子になってやる!」 もしもし? フジコよりすごい文子ってどんなでしょ? 凶暴で、ずるがしこくて、意地悪なところは真似しなくてもそっくりだけど…… しかし、妙な浸透性のあるこのあだ名。 それからの俺は、『のりまき』という名を忘れ去られ、則巻と書いてルパンと読む、海東ルパンが定着した。 だけど、担任はともかくとして、親までルパンと呼ぶのってどうよ? あんたらが、則巻って付けたんでしょ…… それから、もうひとつ定着したもの。 それは、マンガのルパンと同様に、オレもふ〜みこちゃんを追いかけ始めたこと…… 追えば逃げるというのは本当で、その名を呼ぶたびに文子は逃げていく。 でもお前、約束しただろ? すごい文子になってやるって。 だから俺は、そう呼ぶことをやめないよ。いつか捕まえられる日がくるまで…… な〜んて健気に過ごしてきたけれど、そんな悠長なことを言っていられなくなってきた。 たかだか2クラスしかない小学校なのに、クラス替えでは全て外れ。 おまけに翔也が転入してきてからというもの、文子はあからさまに翔也を追いかけ始めていた。 中学になっても3年間、やはり同じクラスには1度もなれず、 逆に翔也と文子はいつも同じクラスで、なんだかんだと側にいた。 文子が第1ゼミナールへ通いだしたと聴き、絶対に翔也を追って同じ高校へ行く気だと思ったけれど、 あの文子が行けるわけがないなんて笑って様子を見ていたら、学年順位5番ってあなた…… 追いかけて行けちゃいそうじゃないですか! そして本当に合格しちゃいましたよ! まぁ、そんな負けず嫌いなところも可愛いんだけど―― 文子を抱えながら教室へ足を踏み入れ、相変わらず猿の様に喚き続ける文子を自分の席に座らせて、 後は知ったこっちゃないとばかりに俺も自分の席に着いた。 廊下側の1番後ろか……これじゃ文子がよく見えないな。 そんなことを考えている俺の肩を、誰かが叩く。 振り向けば、いかにも頭のよさそうな銀縁眼鏡をかけた男が一人。 「あ、あの、そこ、僕の席なんですが……」 上目遣いでオレを見ながら、途切れ途切れにつぶやくその男。 よく見れば、机にデカデカ『若狭』と書いてある。 「ワカキョー?」 「いえ、ワ・カ・サです」 ワカサぁ? 苗字のわりに、君には若さがないよね? 自分の度重なる失態を棚に上げ 「じゃあ、俺の席はどこかね?」 そうやって見当違いな文句を吐けば、おずおずと一つ前の席を指差しながら若狭が言った。 「き、君の名前が海東くんならば、僕の前の席だと思われますが……」 お、思われるって何語かしら? 座ったまま首を伸ばして前の机を見れば、確かに海東と書いてある。 仕方がないから、濁音をたてて椅子から立ち上がり、前の席へ移動しようとすれば、 俺はただ立ち上がっただけなのに、両手を広げて顔面をガードしている若さのない若狭。 「なにやってるの? ワトソンくん?」 意味もなく腰に手を当て、若狭を見下ろしながらつぶやけば 「ワ、ワトソンってなんですか! ぼ、ぼくは若狭であって、ワトソンじゃありません!」 自分のとった行動の滑稽さに赤面しながら、若狭がむきになって言い返してくる。 ワトソンはワトソンであってワトソンだろぉ? 「そりゃお前、ワカサって、10回言ってみればわかるだろ?」 「若狭若狭若狭若狭若狭若狭若狭若狭若狭若狭。いえ、わかりません」 か、カツゼツいいね。若さはないけど…… こうなったらとりあえず、今考え付いた理由を押し付けるしかない。 ということで、意味なくガッツポーズを決めて、若狭に断言する。 「お前は、すごく助手っぽい!」 すると若狭は、一瞬硬直してから後頭部を右手で抑え、照れはじめたと思ったら、 その仕草のままやっぱりまた固まって、しばらく考えた後、今度は歯をむき出して叫んだ。 「ど〜いう意味ですかっ!」 なんかこいつ、おもしれ〜! 文子がいないときは、こいつと遊ぼう♪ 面倒な式典がようやく終わり、ホッと一息ついているところに翔也がやってきた。 「ルパン……なんで俺は、高校まで来てお前と文子と同じクラスなんだ」 俺もそう思うよ。確かにお前は邪魔者だ。 だけどなんでこいつは(あんなに可愛い)文子を嫌がるのだろう? だから疑問をそのまま口にすれば、決してプリンスとは思えないジェスチャーを交えながら、翔也が捲くし立て始めた。 「お前、あのロリ顔でウルウル見つめられてみろよ? こうだぞ? こう!」 両指を顔の前で組み、お星様に願いを込めて空を見上げる翔也。 なにやってんだ翔也? 一瞬、俺も一緒になって天井を見ちゃったじゃないの。 今度は肩を落とし、げんなり顔の翔也が続ける。 「あそこまで崇拝されるとさ、手が出せないだろ? ま、あのロリ顔じゃ勃つもんも勃たないけどね」 そうやって少し茶色ぎみの髪をかきあげながら、さわやかな笑顔で言い放つ。 ちょっとまて! 今、ものすごくサラッとすごいことを言ったよね? 文子に手なんか出してみろ? オレがお前に拳という手を出すよ? 「翔也くん? 君はプリンスという仮面をかぶった獣だね」 呆れ顔で毒を吐けば、褒められたと勘違いした翔也が不敵な笑みを浮かべた。 「それよりさ、今、文子としゃべっている彼女がいるじゃない? あれはいい女だね」 馴れ馴れしく俺の首に腕をまわし、顔は依然としてプリンスの仮面をかぶったままの翔也が、俺の耳元で囁いた。 そんな翔也にゾッとしながら文子を見れば、前の席の女子となにやら楽しそうに話している。 ろくすっぽ相手の女子なんか見ないまま 「そう? 俺は文子のほうが断然可愛いと思うけど」 机に頬杖をつき、文子を見ながらそう答えれば、鼻で笑いながら翔也が言った。 「お前は昔から 『文子バカ』 だから仕方ないよな。文子だけが気づいてないのが笑えるけど」 そう。そうなんだよ。小学校のときから同じことをみんなから言われてきたんだ。 こんなにもハッキリと『お前が好きだ』と表現してやってるのに、肝心の文子だけは全く気づかない有様。 やっぱりもうちょっと、過激にアピールする必要性を感じるな…… 数人の女子たちと笑い転げる文子を見ながら、とあることを閃いた。 なんだか楽しくなりそうな高校生活。 う〜ん。神様、ありがとう♪ |
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