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◇◆ The final story 3 ◇◆
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◆ 成田空港、第1ターミナル――
時計を確かめてから、電光掲示板を見上る。 「13時55分発 ミラノ行 アリタリア航空 787便……」 新月が叫んでくれた言葉を、そっくりそのままつぶやき確かめる。 まだ、最終搭乗アナウンスは入っていない。 少し胸をなでおろしてから、辺りを見回してみるけれど、彼の姿は見当たらなかった。 ふと甘い香りが漂ってきて、その香りがまた後悔を駆り立てる。 彼と再会した日、彼の誕生日だった日…… その日に一緒に飲んだ、甘いコーヒーの香り。 『おめでとう』 のひと言もいえなかった。 優しそうな大人の男性としか思わなかった。 なんで私は、彼を見てすぐに思い出すことができなかったの? そんな自分に対する腹立ちばかりが、頭の中を駆け巡っていた。 ミーティングポイントのスターバックスを覗き込むけれど、やはりそこにも彼はいない。 タクシーの中でつけたロケットが、走る私の胸に小刻みに揺れながら当たる。 「Rilassa」 呪文の様に何度も何度もそう唱えながら、ロケットを握り締めた。 「This is the final call for Alitalia airline flight 787 ....」 彼の乗る便の最終搭乗アナウンスが流れ始め、動き始める人影をくまなく目で追う。 なのにどこをどう探しても、彼を見つけることができなかった。 ここからは、旅立つものしか入れないエスカレーターの前で呆然と立ち尽くし 『諦め』 という言葉が頭に浮かび、変な笑いがこみ上げてきた。 何をやらせても満足にできない自分。 ああすればよかった、こうすればよかったと後悔ばかりして そのクセ自分からは動こうとしない自分。 あまりの情けなさに、小さな笑いは震えに変わり、堪えきれずに眉間にシワが入る。 透明なガラスに頭をくっつけて、自分の吐息で曇るガラスの向こうを訳もなく眺め 今度こそ本当に、記憶を閉ざさなければと目を閉じたとき―― 「Luna piena」 自分の願望からくる、ただの幻聴だと思った…… だからゆっくりと振り返った先に、あの少年が立っているのを見つけたときも 今度は幻覚だと、薄ら笑いをしただけだった。 編みこみの施された白いセーターと、淡い色のジーンズに、楕円フレームの眼鏡。 けれどなぜか、夢の中よりも大きくなり過ぎた少年が、困惑気味に立っている。 「満月さん? 何かあったのですか?」 大きくなり過ぎた少年から、聞きなれたトーンの声が漏れて 今 目にしているもの、聴こえてきたものの全てが、現実なのだとようやく悟った。 頭の中が、グチャグチャに混乱していた。この感情の正体が解らなかった。 「寛兄が私を、そ、そんな風に呼ぶから解らなくなっちゃったんだ!」 ただ駄々っ子の様に泣きじゃくり、スカートの裾を握り締めながらその場で叫ぶ。 突然の私の行動に驚いて、ポケットに入れていた両手を抜き、呆然と立ち尽くす彼。 「Ri...rilassa.....」 涙に咽せながら、ようやく吐き出せた言葉。 胸に揺れるロケットとその言葉で、全てを悟った彼がゆっくりと近づいてきて 「全く、お前は……」 微かに震える声でそうつぶやいて、両手で私をしっかりと抱きしめた。 寛兄の携帯が、空港の雑音に紛れながら小さく鳴りはじめたけれど 私をきつく抱きしめる腕は、その力を抜くことなく 「これは、満月の曲だから……」 そう耳元で囁き、抱きしめたまま優しく私の髪をなでる。 彼の胸にしがみついて、何度も小さく頷くことしかできない私と 小さく小さく奏でられ続ける月の光。 何年経っても変わらず寛ぐことの出来る胸の中で、何度もつぶやいた。 「Sono sempre accanto a te.」 彼が搭乗するはずだった飛行機が、空のかなたに消えるころ ようやく腕の力を抜いて、私を少しだけ放した彼が言った。 「ここからが本当の始まりですね満月さん。改めまして、浅海寛弥と申します。 どうですか? 再会と誕生日の記念に、僕と一緒にお食事などいかがでしょう?」 微笑む彼の瞳は、濃いグレーに輝いていて その少し潤んだ大好きなグレーの瞳に見とれながら 「はい……」 私は、はにかみながらそう答えた―― 誕生日に起こった奇跡。 封印してしまった時間を取り戻す様に、差し出された手を躊躇いもなく握り返す。 「Sono sempre accanto a te. Ti amo. Luna piena……」 優しく、優しく微笑みながら囁く、彼の声を聞きながら…… ◆ 運命の人と出逢う方法 ◆ どこで? * 空こう (だってヒロ兄は外国へ行ってしまったから、会えるとしたらそこでしょ?) いつ? * 10年後の私のたんじょう日。 (ヒロ兄が、そう言っていた気がするから!) どんな人? * ヒトミは、こいグレー。 * メガネをかけていて、ジーンズがよくにあう人。 * カミの毛は、こげ茶色。 * さくらんぼとチョコアイスが大すきな人。 * ぶっきらぼうだけど、本当はとてもやさしい人。 * 「まったく、おまえは……」が口ぐせな人。 * 「月の光はおまえの曲だね」と頭をなでてくれる人。 * たんじょう日が私のたんじょう日の12日まえな人。 どんな風に? * ジコショウカイをして、食事にさそってくれる。 * 「ずっといっしょにいるよ」と、ささやいてくれる。 * 「Ti amo. Luna piena」と言ってくれればカンペキ! |
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