schole〜スコレー〜
プロローグ
高校からの帰り道、俺は道ばたに目玉が落ちているのを発見した。
第一に思ったのは、気持ち悪い。
いやそりゃそうだ。
人形やぬいぐるみのそれではない。これはどう見ても、本物の人間の目玉である。白の中にほんのり赤。言い方を変
えるとちょっとエロい気もする。
第二に思ったのは、グロい。
同じだ。
第三に思ったのは、何でこんな所にこんな物が?
事故でも起こってそれによって誰かの目玉が切り離されてしまったのか。それとも眼球収集が趣味の殺人鬼が一つ
だけ自分のコレクションを落としていったのか。どっちにしろあんまり気分が良い事じゃあないな。
よし、とりあえずこれ警察に届けよう!
違うだろ馬鹿が腐って死ね!
えぇと、これは俺が手に持ったらぐにゃっといけない感じで潰れてしまうそうだな。それなら触ったらまずいだろうどう考
えても。というわけで届けたりするわけにはいかないんだけど。
しかし、よく見るとこの目玉、おかしいぞ。
血が全くこびりついていない。繊維組織が外側からはっきりと見えている。それに、何かバイブみたいにちょっとだけ
ぶるぶる震えてるような。
少しなら、触っても大丈夫なんじゃね?
好奇心という名の悪魔がばっくんばっくん俺に襲いかかる。
ウヘヘヘヘ、ほらほら手にとってころころ転がしてみろよ。面白いぜ。そういう遊び。
知るか。
しかし、そんな誘惑は俺を離してはくれず、ついに、
「ま、良いよな」
我ながら馬鹿な事だが、ついついその目玉を手に取ってしまった。
直後、俺は時速六十キロで突っ込んできた軽トラによって体をはね飛ばされた。
空中を舞う俺の頭に浮かんでくるのは家族の顔。可愛い妹と可愛い弟の顔である。両親には特に思い入れがないの
で浮かんでこない。
あぁ、俺はお前達よりも先に天国に行くよ。こんな俺を許してくれ。
地面に叩き付けられる。
ごふぅ。
痛すぎて声も出ないぜ。勘弁してくれ。
軽トラは軽トラで、エンジンが止まる音などは聞こえてこないのでトンズラするご様子。おいおいひき逃げかよ! せめ
て俺を病院まで運んでくれよ!
世知辛い世の中だ。世知辛いで済むかっつう話だ。
でも………覚悟を決めなきゃな。
グッバイ。我が人生。楽しかったぜ。
『こらこら死んでどうする』
あぁ……天使の声が聞こえる。お迎えだー。幼女だー。
『天使ではないぞ。お主が今握りしめておる目玉じゃ』
はっ! 目玉かよきもいな。天使と交代しろよ。あ、でも声だけは可愛いぞ。そこは認めてやる。
『んなのんきな事考えとる場合じゃないぞ。早くわしをお主の左目にはめろ。ちょうど今の事故でお主自身の左目は吹
き飛んでしまったようじゃしな』
え…………そうなのかよ……道理で視界が悪いと思った。ていうかお前はめるって何だよ。お前眼球なんだよ。立場
わかってんのか。
『良いからはめるんじゃ。死にたいのか』
もしかして、そしたら助かるのか?
『フィフティーフィフティーじゃな』
外来語使うなよ。キャラクター性を考えろ。
『そんな事を考えておる間にも刻一刻と時間はなくなっておるのじゃぞ?』
うーん………まぁ助かる可能性があるなら、それに賭けるしかないかな。
俺はそう決意し、手に持つ眼球を恐る恐る左目へと押し込んだ。
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