schole〜スコレー〜
一章
目を開けて飛び込んできたのは薄汚れた白い天井だった。
『目覚めたな』
ついでに聞こえてきたのは可愛らしい幼女の声だった。
―――――どこから聞こえてきてる!?
俺は上半身をあげて部屋中を見回すが、幼女の姿はどこにもない。
『どれだけ探してもわしの姿は見つからんぞ』
何だ!? どういう事だ!? 何で一人称がわしなんだ!?
『他に聞く事あるじゃろ。さて、ひとまずは自己紹介じゃ。わしの名は玉枝。気軽にタマと呼んでくれ』
「結婚してくれタマ!」
『お、おい何故いきなり求愛なんじゃ』
「俺はお前の事が好きだからだ!」
『待て待て。とりあえず口に出すな。考えを思い浮かべるだけでわしとは会話ができる』
そうか。じゃあそういう事で。…………ていうか、何で俺はここにいるの? ここ病院だよね? あ、そっか。そういえ
ば事故ったんだったな俺。もしかして俺助かったの?
『意外じゃな。そこまでは覚えておるのか。しかしそれは、目玉をはめた後の事は覚えておらんという事じゃな?』
うんそう。お前が目玉だって事はわかるよ。
『そうか。実は―――――わしを主の左目にはめる事で、主はわしになれるんじゃ。体の指揮権はわしじゃがな』
目玉のおやじ化!?
『違う違う。今ではこんな姿をしておるが、元々わしは可愛らしい少女だったのじゃ』
だからお前はそんなに素晴らしい美声なのか! くそ! 幼女時代のお前と出会いたかったぜ! くやしいっ!
『…………まぁ褒められるのは悪い気はせんが。つまり、じゃな。そうすると、わしは主の体を乗っ取った状態になるん
じゃな。じゃから、その足で、病院まで走ったと。それだけの話じゃ。体がわしに変化すれば怪我をしている部分も変 化、無傷の状態になるからの』
ほう。病院に連れてこなきゃならなかったんだから、俺の体は怪我した状態のまま維持されてたって事だな。逆に言え
ば、お前の体の状態で怪我をすれば、それはそれで再度お前の体になった時には残ったままだと。
『物わかりが良いな。助かるぞ』
ふふふ、俺を舐めるなよ。
『それで、病院に到着した後、主は眠り続けた。そりゃあもうグースカグースカの。もしかしてこのまま植物人間になるの
かと恐怖したぞ。というわけですでにあれから一週間後じゃ。怪我も退院しても良いほどには治っておる。まぁ、目立っ た怪我は左目が取れた事ぐらいじゃしな。………ぐらいと言っても、今後の生活にも人生にも影響が出そうな怪我じゃ が』
―――――あぁ、そっか。これから片目で生きてかなきゃならないのか。辛いっちゃあ辛いな。家族とか友達にも色々
言われるだろうし。ま、死ななかっただけでも儲け物だと思っとくよ。
『ポジティブじゃなー』
横文字を使うな。怒るぞ。
『怒るような事じゃろか………というか何故に主が怒る…………まぁ良い。とにかく看護師の所にでも行って退院許可
をもらってきたらどうじゃ? 話は積もるが、まずは主の家へ行きたい』
おっけーわかったぜ。ところで――――お前は今どこにいるんだ? 左目にははまってないみたいなんだけど。
『………主が死にそうじゃったからあまり時間もなくてな。咄嗟の判断だったんじゃ』
いやそれは良いけど。どこだよ。
『―――――麻薬の密輸とか、普通は体のどこに隠すのか知っとるか?』
俺は少し悩んだ後、急いでズボンの中に両手を突っ込んだ。
自覚はないが、一週間ぶりの我が家―――という事になる。
当たり前だがどこも変わった所はない以前のままのマイホームだ。
徒歩で帰宅した俺を見て、母は仰天していたが、愛しのシスターとブラザーは俺の無事な姿を見て涙を流してくれた。
ありがとう愛してる。
ただ、やはり左目がないというのは不便だ。片目だけでは遠近感覚や平衡感覚が段違いに薄れる。そのせいで、帰
路、障害物のない場所で何度も転んでしまった。歩いて帰るのはあんまり賢い選択じゃなかったな。
病院でもらった眼帯はダサいからその内、格好良い奴買わなきゃ………と、思っていたら俺の机の上に真っ黒なそ
れが置いてあるし。おそらく妹の仕業だろう。可愛い奴め! 後で小遣い一万円あげよう。俺の全財産だ。
『主、主。質問しても良いか』
何だタマ。
『この部屋…………主の部屋か?』
もちろんだ。
『主は羞恥心というものを持っておらんのか』
ふむ。タマがそう問いかけるのも無理はない。
俺の部屋はアイドルのポスター(十五歳未満)やロリフィギュアや法律上ここに存在してはいけない書物で美しく彩ら
れている。俺にとってはこれ以上ないほどに素晴らしい環境だが、他人から見れば確かに奇人怪人変人だろう。
『というか変態じゃな』
…………しかし、そろそろタマにも告白しておかねばならない。
実はだな、俺、第二次性徴期が終了した存在には欲情できないんだ。ていうかぶっちゃけ中学生でギリギリ?
『聞きたくないから言わなくて良いぞ。というか、すでに勘づいておった』
ちゃんとショタもいけるぞ。
『言わんで良い!』
そうか。まぁ、お前の声を聞く度に俺が興奮しているという事実だけ念頭に置いておいてくれ。
『嫌じゃ。では、病院でした話の続きに入るぞ?』
ばっちこい。心の準備はとっくの昔に済んでるぜ。
『よろしい。わしが主の命を助けた所までは話し終わったな? そして、それについては主も理解しておるな?』
あぁ。確認しなくてもわかってるよ。俺はお前がいなきゃ死んでた。そこに関しては改めて礼を言うぜ。ありがとう。
『素直じゃな。しかし、礼は行動で示して欲しいのじゃ。――――主、わしのために働いてくれ』
働く、ね…………まぁ、大抵の事は聞いてやる。一体俺は何をすれば良いんだ?
『具体的にはじゃな。わしの敵を倒すために体を貸して欲しい』
敵? おいおい、いきなり物騒な話になったな。現代日本はこんなにも平和だというのにどうして戦う必要がある。お
前も目玉だろうとなんだろうと、とりあえずは社会にちゃんと順応しろよ。
『そこまで反論されるとは思わんかった……。しかし、主は大抵の事なら聞くと言ったぞ?』
それは大抵の事の内に入らないね。俺はそういうのはとっくの昔に卒業してんだ。いつまでもガキじゃねえんだから。
もう高校生なんだぜ俺? わかってる?
『見ればわかる。………どうしても頼みを聞いてはくれんのか』
よほどの事情でもない限りな。
『仕方ない…………あまり気は進まん説得法じゃが。主、わしをはめろ』
何だいきなり?
『文句を言うでない。ひとまずは指示に従え』
しゃあねえな。ほらよ。
俺はそう念じながら、タマを左目へと押し込んだ。
瞬間、体に衝撃が走り、指先から少しずつ自由が効かなくなる。なるほど。タマに俺の体の主導権がうつってるんだ
な。
――――まさかこいつ!? 俺の体をこのまま死ぬまで乗っ取るつもりじゃあ!?
『違う違う。安心せい』
じゃあ何をしようってんだよ…………もう俺、全然体操ってる感覚ねえんだけど。五感は全部残ってるようだが。
て、おいおいお前どこに行こうとしてるんだ。部屋の外に出るなよ。
タマは俺の体を操り、階段を駆け下りている。
しかし、さっきから何かおかしいな。まるで俺の体が俺の体じゃないような。具体的には目の位置が低いっつうかなん
つうか。もしかしてあれか? 俺の体が縮んでる?
『もう忘れたのか。病院で言うたじゃろう。今の主は主の体ではない。わしの体に変化しておる』
なるほど…………ん? てことは? どういう事だ?
タマは洗面所に行こうとしているようだ。つうかもう着く。とか思ってる間にもドアを開けている。
『ほれ、しかと見ろ』
目の前には鏡。そして鏡に映っていたのは、
黒髪、おかっぱ頭、年の頃は十才ほどの可愛らしい美幼女の姿だった。
「かわいいいいいいいいぃぃっ!!」
『おうっ!』
俺は両手を頬にあてる。
「おわ! 何だこれ! すげえ! 和ロリ! 和ロリ! 和ロリの中の和ロリ!」
大興奮、俺。想像の中でしか叶わなかった、『俺考案、幼女が取ると鼻血が吹き出すポーズベストテン』を順に試して
いく。俺が考えただけあってどれも最高だ。おお! 鏡の中の幼女が鼻血を垂らしている。萌え!
『な、何故に主が体の主導権を握れるんじゃ! ま、まさかそれほどまでに主の思いが強いと!?』
うへへへへへ、夢にまで見た世界がやってきたぜ。この俺自身が幼女になれるとはな。よし、それじゃあそろそろトイ
レに篭もって………。
『待て待て待たんか! その先の行為に至ったら許さんぞ!? というかそれ以前にそんな大声を出しおって、主の家
族に見つかったらどうする!?』
ぐ…………名残惜しいが、タマの言うとおりでもある。妹達がやって来る前にさっさと部屋に戻るか。
急いで来た道程をUターンし、自室へと駆ける。さらにすぐさまドアを閉め、鍵をかける。
ふぅ――――よし、これで良い。まぁよく考えたらトイレに篭もらなくてもここでも構わないしな。
それじゃ始めるか。
『待てと言うとるに! 主は脳に虫でも湧いとるのか!? まずはわしの話を聞け!』
う、体の自由を再度奪われてしまった。……駄目だ、力を入れても全然動かせない。タマも本気を出してやがるな。仕
方ない。今はとりあえず諦めといてやるか。
『はぁ、はぁ………ようやく自制したようじゃな。で、わかったか? わしに協力してくれれば、主はわしの体を手に入れ
られる。体の自由は渡さんがな。それと、戦闘はわしの体で行うから、主の体には傷一つつかん。そこも安心せい』
せっかくの美体に傷をつけないでくれ。俺の体で戦うから。
『主、正気か? わしの肉体は故あって、普通の人間とは比べものにならぬ程の能力を備えておるのだぞ? という
か、主の体では奴らには適わんわ』
ちっ! しゃあねえ。お前の体を使う事にするよ。
『…………あー、今更聞くまでもないと思うが、わしの頼み、引き受けてくれるか?』
もち。当たり前だぜ。俺とお前の仲だ。水臭い事言ってんじゃねえよ。しかも命まで助けてもらってるんだし、俺に選択
権なんてあるわけがないだろ?
『数分前の自分の思考は覚えておるか?』
いや?
『…………なら良い。とにかく、これから宜しくな。そういえば、主、名はなんという? 聞いておらんかったが』
千秋だよ。萩本千秋。字、わかる?
『主が頭に思い描けばどんな形もわしに伝わる。つまり、わかるという事じゃな。―――それでは、宜しくの、千秋』
おう、こちらこそよろしくなタマ――――――と、そんで詳しい話聞く前にさ、ちょっと頼みがあるんだけど。
『何じゃ。言うてみろ』
そろそろ様々な行為に至りたいんだが、俺にも多少なりとも羞恥心ってもんがあるから、ちょっとどっか行っててくれ
る? あ、目玉は置いてけよ。
『その目玉がわしじゃと言うとるのに…………』
あー、そうだったな。まぁそういうプレイだと思えば別に良いか。
『良くないわ!』
とにかく、こうして俺は幼女の体を手に入れたのだった。
最高!
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