プロローグ
♪ポストアポカリプスBGM停止
ポケットサウンド
GM
堕落の国が生まれてから200年あまり。
GM
激化した救世主たちの争いは「最終裁判」と呼ばれる史上最悪の大裁判を引き起こした。
GM
その際に発動された大量破壊兵器「少女の目覚め(sudden death)」により、堕落の国の99.9%が塵となって消滅した。
GM
生けとし生ける者の殆どが滅び去り、救世主もまた姿を消した。
GM
終焉は目前。
GM
しかし、唯一残された領域「夢と現の狭間」に、僅かな不思議の残滓が集う。
GM
最後の救世主(ザ・ラスト・アリス)を招くために。
GM
それは滅びゆく堕落の国に残された最後の希望。
GM
聖域に散らばった大罪(ワンダー)を集め、真の救世主となって世界を再生へと導くことができる唯一の存在。
GM
大いなる暴力と死が降り注ごうとも、53のトランプは踊り続ける。
GM
猟奇 才覚 愛(三つの狂気)に救われる日を、未だ夢見ているのだから!
GM
拝啓、アリス。愛しいアリス。
GM
壊れた世界は、今こそあなたの来訪を待ちわびています。
* * *
エシラ
夏の日の昼下がり。
エシラ
退屈な、プール掃除の時間にて。
エシラ
あたしは、イジメグループの女子の一人に、プールの中へと突き落とされた。
エシラ
よくあることだ。
エシラ
プールの汚水と藻でぐちゃぐちゃになって、また笑われるのだろう。
色がついて良いことじゃない、などと言われるのだろう。
エシラ
退屈な日常だった。
エシラ
そのはずだった。
エシラ
「……ぁ、……?」
エシラ
なのに、一体どうしたのか。
つい先ほどまではなかったはずの深い水にざぷんと落ちて、
エシラ
あたしは落ちて、
おちて、
堕ちていく――。
GM
深く、深く。二度と這い上がれぬほど、深く。光の届かぬ水底へ。
GM
だが。やがてお前はその闇の中、水の底に、小さな光を見つける。
エシラ
(……死ぬのか、あたしは)
ぼんやりと光るそれに向かって手を伸ばす。
GM
深く、お前が堕ちていく先にあるその光は次第に大きくなり。
GM
目の前で揺れたかと思えば、突如、視界が開けた。
エシラ
「――ッ!!」
エシラ
目を見開く。
思い切り水に潜ったはずなのに、呼吸は苦しくなく、衣服も濡れていない。
エシラ
乾いた風が、頬に当たる。
GM
空だ。視界には、空が見える。
GM
厚ぼったい雲に覆われ、どんよりと薄昏い光を投げかけてくる。
GM
闇の中ではとても明るく見えたそれは、常日頃見慣れた空とは比べものにならぬほど暗い。
エシラ
「…………」
エシラ
なんだこれ。
スクールは? プールは? あのイジメっ子の女子どもは?
GM
そんなものはどこにもない。目の前にあるのは、曇った空。荒れ果て、霧に覆われた地。
GM
そして何か、建物の残骸のような。
GM
神殿か何かの、入り口。または窓のような残骸。申し訳程度に屋根の部分が残されたそれに注目したとき、お前はそこに二人のイケメンがいるのに気づく。
エシラ
イケメン。
GM
彼らは左右対称に(まるで双子のようにそっくりだ)腰かけたまま、お前のほうを見ている。
エシラ
「なん……だ……?」 なんだあのイケメンは?
GM
そして、口を開いた。
エル
「待って……いたよ。僕の、アリス」
エス
「ああ、予測通りだ。ここへ堕ちると確信していた。ようこそアリス、堕落の国へ」
エシラ
「は?」
* * *
ワンダー検証特殊レギュレーション

The Last AliCe
* * *
GM
暗転からタイトル、そして暗転が明ける。
エシラ
「なるほど、つまりここは破滅寸前の不思議の国で。あんたら二人はなんとかしてほしいあまりあたしを呼んだというわけか」
エル
「君は……僕たちに残された、最後の、希望」
エス
「この世界に存在する異世界人はお前ひとり。つまりお前が真の救世主(アリス)である確率は100%だ……」
エシラ
「溜めの入った回りくどいポエムとエセ理系の蘊蓄のせいでここまで至るのに一時間もかかったけど、まあそれはいいとしよう」
GM
災難だったな。
エシラ
「ただ、残念だけどあたしはアリスじゃないよ」
エシラ
「確かに先祖にアリスってのはいたけれど、もうとっくに死んでる」
エル
「……名前のことを、言っているわけではないよ。君は、この世界へと、招かれた。最後の救世主として……ね」
エル
「数多の……本当に、多くの救世主たちが、この地を訪れた。でも、この世界は、救われなかった」
エル
「救われなかったこの世界が、最後の最後に縋った希望……それが、君なんだ。原初のアリスの血を引く者」
エシラ
「……。非力な子供に何ができると思ってるんだ」
エス
「非力じゃあない。疵だ。今のお前は疵のチカラを扱える」
エシラ
「疵?」
GM
それから、更に一時間。
GM
お前は回りくどいポエムとエセ理系の蘊蓄にうんざりしながらも、なんとか心の疵についての知識を得た。
エシラ
疵を想い、具現化した鎌を振るう。風の音と共に地面が裂ける。
エル
ぱちぱちぱち。
エシラ
「……なるほどな。やっっっっっと理解した」
エシラ
この力を使って、各地に散らばった試練を打倒せばいいと。
エシラ
「……」
うさんくさい二人を見遣る。
エシラ
「名前は?」
エル
「……エル。僕のことは、そう呼んで」
エス
「俺はエスと定義されている。そう呼ぶといい」
エシラ
「……」
全身に『うさんくさい』と『やだ』を纏いながらも、頷く。
エシラ
「あたしは………じゃあ……『エシラ』で。アリスじゃあないけど、呼びたければアリスでもいい」
エシラ
怪しい人に本名は名乗らなかった。当然である。
エル
「エシラ……ふふ、君がそう望むなら。よろしく、エシラ」
エス
「ECILA。なるほど、逆さ読みか。良いセンスをしている」
エシラ
…………。
エシラ
いきなり拉致されて、この世界をどうにかしろと言われれば、当然困るし、苛立ちはするけれど。
エシラ
どうせあのスクールや家の中でも、苛立つようなことしかなかった。
エシラ
この苛立ちを適当な相手にぶつけてもいいというのなら、ひょっとすると、こっちのほうがマシかもしれない。
エシラ
(チカラがあるのなら、やるべきことはただひとつ)
エシラ
(壊そう、全部)
エシラ
鎌をしまい、静かに目を伏せた。
* * *
GM
最後の救世主、エシラ。
GM
彼女がその手によって、最後の夢が集うこの地にもたらすのは
GM
救済か、それとも――
* * *