エピローグ
GM
戻る戻らぬとお前たちが茶番をしている間に、風景は変わる。いつもの場所。
GM
聖域。夢と現の狭間。その一角。
かつては王立裁判所の入り口であった門……のなれ果てだ。
エシラ
7つの大罪(ワンダー)は手中にある。
エースのカード四枚と、始祖の遺物。
GM
エシラが門の前に立てば、それらの品からそれぞれ七色の光が浮かぶ。
七色の光は周囲をゆっくりと回りながらエシラへと近づき、
吸い込まれるようにして消えた。
エシラ
「わ、…………すご、ゲームみたい」

何か奇蹟が使えそう!……という気配はしないけど。
心なしか片手に持つ鎌が軽いような。そんな気がする。
エル
「すべての大罪が……すなわち堕落の国が、君を認めた」
エシラ
「これで望めば、この世界が救えるの?」
エル
「厳密には、救う、というのとは違うかもしれない。
 君に託されたその力は、新たな世界を生むための力。
 エシラ。君が望む新たな世界の姿を描くための……

 ……いや、イーディス、と呼んだほうが良いのかな」
エシラ
「いいよ。ここにいる間、あたしはエシラのままでいい。
 うさんくさいバカ二人に辟易しながら、ただ鎌を振るうだけのエシラだ」
エス
(うさんくさいバカ二人……) 黙っている。
エル
「残念だけど……それなら、やっぱりエシラでいられる時間はもう終わりのようだね」 言いながら自分の足元を指す。光を放ちながら、うっすらと透けている。
エシラ
「……そうだね。

 これから、あたしが光あれと言えば光が生まれて
 平和な世界を望めば、その通りになる。
 それとともにあんたたち『救済措置』が消えるというなら」

鎌を持ち上げ、そして、二人に向ける。

「最後の思い出だ。あんたたちが堕落の国に殺されるより先に、
 あたしがあんたたちを壊してあげる」
エル
普段あまりしない表情。目を大きく見開いて。
エス
隣の兄弟と同じ表情。
しかしこちらは一歩早く納得、或いは、諦めを知る。
♪Music-box_GentleBGM停止
Peritune
エシラ
「あたしには、あんたたちを生かすことはできないみたいだからね。
 せめて、あたしの腕の中で息絶えるといい。
 あたしはあんたたちのすべてを覚えておいてあげるから」
エル
「ああ、エシラ! 僕たちの慈悲深き救世主よ」
エス
「魔王だ。こんなことを言うのは魔王以外にありえない」
エシラ
「……あたしは救世主でも魔王でもない。
 ただ、気に入らないものを壊すのが大好きで……
 あんたたちのことが――世界一、気に入らないだけ!」
エル
「喜んで。
 僕たちはこの夢の集う地に横たわるとしよう。
 他の何者でもない、最愛の君の手によって」
エス
「……」 頷く。

「毎度毎度、計算外もいいところだ。
 美しく消滅することを想定して100通りの辞世の句を用意したというのに。

 だが、それでいい。俺たちはそんなお前に命を捧げると決めたのだ」
エシラ
ふっと、笑う。

仕方ないな、お前たちは。
そんな慈しみの色を帯びた笑みをたたえたまま。
「大馬鹿野郎」 と吐き捨てて。

逆さまハートの鎌を一直線に薙ぎ払った。
GM
お前が横に薙いだだけで、二人はその場に静かに横たわる。
まるで眠るかのように。
エシラ
一歩踏み出し、その亡骸をかき抱こうとする。
けれど、ほんとうに少しだけ、堕落の国よりあたしのほうが速かっただけみたいだ。

横たわる二人は、触れた瞬間に世界に溶け込むように消えていった。

「…………」
エシラ
雲に覆われた空を仰ぐ。

「あーあ!」
「きつい役どころばっか押し付けやがって!」

アホ!エセポエム!嘘理系!妨害失敗!
空に向かって悪態をつく。

そして、ひとしきり叫び終わったところで……
イーディス
「……」

もう"エシラ"じゃないことを自覚する。

あーあ、終わっちゃったんだな。全部。
これからが大変だ。喪ったのに創れだなんて、ほんとうに無茶をいう。
GM
決心を固め踏み出そうとしたその時、お前は背後の小さな物音に気付く。
イーディス
はっ。振り返る。と、そこには……
忠犬セグン
「わん」
イーディス
「セグン」
なんでこの子、大罪の配下だったはずなのに未だ残ってるんだろう……。
「まあいいか。おいで、セグン」
忠犬セグン
たったった。へっへっへ。
GM
足元に駆け寄る、犬。
イーディス
あごを撫でる。
「あのさあ、セグン」
忠犬セグン
「んーむ」
イーディス
「世界を救済する力が手に入ったら、どうするかっての。
 あたし、少し前に考えてはいたんだよね。
 するとやっぱりあたし、創造するのは向いてないなって」
忠犬セグン
「くぅん」
イーディス
「だから……
 本当に救われた、幸せな世界を創り出すのは、他の誰かに託そうと思うんだ」

セグンを抱え上げ、目を伏せる。

「あたしがこれから創るのは……
 堕落の国よりずっとずっと昔。不思議の国だった頃の世界」

「いつかまた、堕落の国になる世界」

「同じものを創るよ。そしてみんなにやり直してもらう」

「また少女の目覚めが発動して世界が滅びかけるかもしれない。
 同じことを何度も繰り返すかもしれない」

「けれどその果てに……ほんとうの救世主が生まれるかもしれない」

「終わりを止めてやったんだから、それぐらい人任せにしたっていいでしょ」
忠犬セグン
「んぬ?」 わかってない。
GM
いぬにはなにも分からぬ。
イーディス
「さ! やれるだけのことをやりますか」


エル。エス。
新しく生まれた『不思議の国』の果てには、きっとあの二人もいるだろう。
けれどそれは、あたしがたった今壊した二人じゃない。

分かってる。

だから、あたしだけはずっと、二人を抱えて生きるんだ。
GM
お前はセグンを抱えたまま、一歩踏み出す。
この終末の世界を、不思議の国へと巻き戻すために。

一歩、また一歩と歩むその足元の地面が、色彩を取り戻していく。

どんよりと曇った空が割れ、その隙間から青い色が覗いた。
* * *
アリス!
子どもじみたおとぎ話をとって
やさしい手でもって子供時代の
夢のつどう地に横たえておくれ
記憶のなぞめいた輪の中
彼方の地でつみ取られた
巡礼たちのしおれた花輪のように

そう!ここは不思議の国。
お子たちに夢を与える物語さ。

白うさぎが急いで穴にとびこみ、おびえたネズミは池の水をはねちらかす。

三月うさぎとそのお友だちと、はてしない食事をともにしたと思えば、
女王さまが金切り声で、運のわるいお客たちを処刑しろとめいじる。

ぶたの赤ちゃんは、公爵夫人の膝の上。
グリフォンはわめき、トカゲは石筆を手に持ち、
モルモットは鎮圧されて、代用ウミガメは思わずすすり泣いてしまう。


そうして、そんな夢のおわりに少女は旅立ち――


世界は滅び始める。

しかしここには、大量破壊兵器はなかった。
夢と現の狭間もあの二人も、現れることはなかった。


ここは、




"お前たち"の堕落の国だ。


ワンダー検証特殊レギュレーション
The Last AliCe

- 終幕 -