夏の風すぎる
風が吹いて、陸遜の帽子が飛ばされた。陸遜は目を細めて風を感じるだけ。飛ばないように押さえることも、走って追いかけることも出来ないからだ。両手にこれでもかと言うほどの竹簡。ものぐさして中庭を抜けたのがまずかった。池に落ちていないことを祈りつつ、茂みに隠された帽子は後で探すことにする。少し軽くなった頭を振って、歩き出す。声が掛かる。「軍師さん軍師さん、要らないのかい?」気配に気づかなかった。音も無かった。「鈴はどうされたのですか?」振り返ると甘寧。「帽子かぶってない軍師さんって、いつも以上に若く見えるな。」「ありがとうございました。忙しいのでさようなら。」礼だけ言って、帽子は受け取らずに陸遜はまた歩き出す。「凌統除けにはずしてんの。なぁ、今暇?」「忙しいと言いましたけど。」甘寧が陸遜の襟を掴んで引き止めた。荷物を落とさないために仕方なく陸遜は立ち止まる。振り返った。「じゃあさ、飯喰いに行こうぜ」身長差のせいだけでなく視線が合わない。甘寧が陸遜の頭に帽子を載せていたからだ。ふわりとかるく、慎重な手つきで。「いったい貴方、どこになにが詰まってるんですか?」相変わらず帽子に集中している甘寧。陸遜は竹簡を投げ落とした。派手な音と同時に、甘寧の顎を下から上へと殴る。「ちょっと確かめて差し上げますよ」
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