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ワシズ、あと零について

 ひさびさに福本の話題。
 怪作と名高い「ワシズ」、とうとう単行本になる。……2巻出るのかな、と早くも心配に。だって竹書房だもの。
 あらためて頭から通して読むと、最初こそまだ普通…じゃないよなコレ。ともかく普通ではないがまだしもスピンアウトっぽい雰囲気を残していたのに、話が進むごとに描く方もなにかが乗り移ってきたのであろうか。加速度的にイカれっぷりも増していく。なんつーか、読んでると脳からヤバい物質がズビズバ出てくる気がする。
 鷲巣様が指を詰めさせたり麻雀牌を詰めたりトカゲ食うたりマッチョになったり地下鉄作ったりやりたい放題。もはや福本ワールドがかけらも残っていない。さすが原恵一郎である。素晴らしい中毒性だ。
 そういえば隼は鈴木の若き日の姿、ということになっているが、最初からいるあの部下も吉岡なのだろうか?あの忠節ぶりは吉岡を髣髴とさせるのだけれど、いずれは言及されるといいなあ。

 「零」が休載の間に思いつきを書きつらね。
 打ち切り(……)になってしまった「涯」の轍を踏まないようにか、「零」は意識的に現代的な風潮に合わせて描かれている。展開を早めにしているところをみると、おそらく打ち合わせの段階からかなりきっちりとプロットを詰めているのではないだろうか。
 あと賭博覇王伝、と銘打っているわりにギャンブルがあまり絡んでいないのは、福本伸行=ギャンブル漫画のイメージから題名がつけられたんだろうな。もちろんこの「選抜」が終われば、タイトルに合致するような、世界の富豪を相手取るギャンブルが始まるのかもしれない。でもいまのところは、何かを賭けるというより何かを乗り越える方が主題だと思われ。
 まあこれは何回か書いていることである。
 最近気になっているのは、この漫画の主人公、零のことだ。福本漫画は、あまりキャラクターの背景を重視しない。もちろんそれは主人公についてもいえることであって、漫画を読んでいてもキャラクターの前歴はそこから読み取ることができないし、そうしたことは福本漫画にとってさほどの意味を持たない要素だと感じられる。
 それが、「零」ではこれまでの作品とはやや趣が異なる。たとえば登場人物の名前が特徴的なものであったり、各自の行動に「目的」が設定されている点が私に「今までと違う」という印象を与えるのだ。
 もちろん以前の作品でも各キャラクターは目的を持って行動している。これまではキャラクターの目的=話の展開だったのが、「零」は必ずしもそうではない。様々な「目的」が物語の中でうごめいているように見える。以前と比較して群像劇的、と言えばいいのだろうか。
 ……ちと表現に困るな。私自身、なんとなくそう感じているという程度の話なので、まだ明確に考えが固まっていない。ご容赦の程を。
 さて、主人公の零について。かれはいったい何者なんだろう、というのが最近の私の疑問だ。秀才であり、少年漫画の主人公にふさわしい(やや前時代的すぎるほど)まっとうな正義感と純粋さを持つ零だが、なぜ自殺サイトに投稿していた少年たちを集めたのか、なぜ振り込め詐欺被害者を救おうとしたのか、という動機はまだ語られていない。
 むろん零の真正直さを表すために、わかりよい時事問題を持ってきたと考えることもできる。しかし、それにしてはやっていることが大仰と言おうか、行動に出るための内的動機、零自身がそれらの時事問題をどう考えているのか、が描かれなさ過ぎているように見える。
 ひとことで言えば、ちょいと前段階をすっ飛ばしている気がするのだな。
 まあ私はたいてい考えすぎるので、あまり重要でない要素を深刻にとらえているのかもしれない。この先作中で零の来歴が描かれる保障もないしなあ。

 今日もまたまとまらずに終わる。

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