12.
日曜日の朝。僕と雅春は早めに朝食を済ませてすぐに寮を飛び出した。
2時間バスに揺られて遠くの街へ出かけ、目的のホテルへ辿り着いたのが午前9時。
僕たちは念のために2人揃って深くキャップをかぶり、少し緊張気味にホテルの門をくぐった。
「あぁ…やっと着いた」
ホテルの薄暗い部屋へ入ると、雅春はそう言ってすぐにかぶり慣れないキャップを取った。
そしてそれは僕も同じだった。
そこは一応ラブホテルだったけど、部屋の中は想像よりもシンプルだった。
がっちり閉ざされた窓の横には大きなベッドがあり、その手前には大画面のテレビが置かれていた。
フローリングの床はピカピカで、壁と天井は真っ白で、オレンジ色の間接照明が床の上を柔らかく照らしていた。
その部屋はそれほど広くはなかった。ベッドとテレビを置くと余計なスペースはほとんど残っていない状態だった。
雅春は壁際に備え付けてある棚やクローゼットのドアを次々と開け、中に何が入っているのかを静かに物色していた。
僕は入口の脇にある白いドアを開け、バスルームの中をチラッと覗いてみた。
バスルームはすごく大きかった。細長いバスタブはゆったりしていて、そこには窓の外から明るい光が差し込んでいた。
「亮太、こっち来て」
その後突然雅春が僕の背後にやって来た。そして僕は彼に手を引かれてベッドの脇へ連れて行かれた。
「大好きだよ」
雅春に真剣な目をしてそう言われると、僕の目に薄っすらと涙が浮かんだ。彼の長いまつ毛や柔らかい髪が、涙の向こうに歪んで見えた。
僕はずっと彼の温もりが恋しくてたまらなかったんだ。
そして雅春は僕を抱き締めてくれた。ぎゅっと両腕に力を込めて、強く強く抱き締めてくれた。
「泣かないで、亮太」
彼のハスキーな声が耳元でそう囁いた。
僕の小さな体は彼の胸にすっぽり包まれた。
その胸に頬を寄せると、綿のティーシャツの肌触りがすごく心地よかった。僕の涙は彼のティーシャツをしっとりと濡らした。
「今日はたっぷりかわいがってあげるよ」
彼はそう言って僕を軽く抱え上げ、静かにベッドの上に寝かせてくれた。
幅の広いベッドはとても柔らかく、特に枕はふっくらしていた。
仰向けになった僕の上に雅春の体がのしかかり、彼の唇が僕の口を塞いだ。
僕たちはそれから長々と舌を絡ませ合った。彼とゆっくり触れ合うのはかなり久しぶりで…キスだけでもすごく興奮した。
「もう我慢できない。すぐにしたい」
最初のキスが済むと雅春は息を荒げながらそう言って僕の洋服を素早く脱がせていった。
僕の体はすごく敏感になっていて、彼の指が肌に触れるだけで感じてしまった。それはきっと何日間もセックスをしていないから
だと思った。
僕たちはあっという間に裸になり、肌と肌を直に合わせてもう一度短いキスをした。
見上げると、すぐそこに彼の綺麗な顔があった。長いまつ毛も、ツヤツヤな頬も、手を伸ばせばすぐ届く所にあった。
「亮太、すごく興奮してるね」
彼は僕を見下ろしながら右手の指で僕の硬いものに触れた。その時僕は、ハッと息を呑んできつく目を閉じた。
彼の指が先端に触れると、目を閉じているのに視界が真っ白になった。
僕の先端はすっかり濡れていたようで、彼が指を動かすとピチャピチャと音がしてすごく恥ずかしかった。
でも雅春だってすごく興奮していた。彼の硬いものに手を伸ばすと、やっぱりそれも濡れていた。
「亮太、気持ちいい」
彼はそうつぶやいて僕の胸に顔を埋めた。彼の髪が僕の乳首を刺激して、僕はもっと興奮した。
「亮太の中に入りたい」
雅春が僕の胸にそう囁くと、彼の吐く息を肌で感じた。僕は早く彼が欲しくてたまらなかった。
「ねぇ雅春…早く」
僕の指が雅春の髪を撫でると、彼が小さくフフッと笑う気配がした。
彼が身を起こすと、僕はシーツをぎゅっと握り締めてその時を待った。
彼に抱かれるのは久しぶりで、本当はすごく恥ずかしかった。でも僕の体はそれ以上に彼を欲していた。
やがて彼の汗ばんだ手が僕の両足を軽く開いた。この瞬間はいつも緊張する。でも、1番ワクワクする。
僕は目を閉じたままゆっくりと体の力を抜いた。するとすぐに彼が僕の中へ入ってくるのが分かった。
腰のあたりに感じる心地いい圧迫感。彼はその時、たしかに僕の中にいた。
雅春はゆっくりと腰を動かして僕の体の中に刺激を与えた。再び彼の指が僕の先端に触れると、あまりに気持ちがよくて
思わず声を上げてしまいそうになった。僕はもう体中にしっとりと汗をかいていた。
僕は奥歯を噛み締め、シーツをぎゅっと掴んで雅春が与えてくれる快感を受け止めた。
彼の激しい息遣いが耳に響くと、あっという間に限界が近づいてきた。
「亮太、声を出してもいいんだよ」
ハスキーな声でそう言われ、僕は薄っすらと目を開けた。すると見慣れない壁や見慣れない天井が僕の目にぼんやりと映し出された。
そうだ。ここは寮じゃなかったんだ。ここでは僕らは自由なんだ。僕らはほんの少しの自由をほんの少しのお金で手に入れたんだ。
ここではいつ来るか分からない先輩に怯える事もない。隣の部屋に声が聞こえたって構わない。
僕は朦朧とする意識の中でその事を理解し、きつく噛み締めていた奥歯を解放した。
するとその時、雅春が突然腰の動きを早めた。それと同時に僕の先端をまさぐる彼の指の動きも早くなった。
「あっ…あぁ…」
僕はもう何も我慢したくはなかった。僕はただありのままの自分でいたかった。
体の奥から込み上げてくる熱いもの。喉の奥から飛び出す大きな声。僕はもうそのすべてを決して堪えたくはなかった。
「いや、いや…雅春、もうダメ」
「もういきそう?」
「あっ…!」
僕はすぐにすべてを吐き出した。すごく早くて笑われてしまいそうだったけど、もうそんな事はどうでもよかった。
その時は雅春も我慢をしなかった。ほとんど同時に彼も果ててしまい、僕のお尻の下に生温かい感触が走った。
久しぶりのその瞬間は、あまりにも気持ちがよくてまるで夢の中にいるような気分だった。
この時僕の心はすごく満たされていた。
雅春が僕を導き、僕が雅春を導く。それはとっても自然な事だと思った。
大好きな人とこうして触れ合う事はすごく素敵な事だ。僕はその事を学長やS学園の皆にも教えてあげたいと思っていた。
でも少しずつ興奮が冷めてくると、現実に戻る時の事が頭に浮かんでひどくやり切れない思いが僕の胸を駆け抜けていった。