2.

 「亮太、これ見て」
それは川原の部屋でアダルトビデオを見た日から10日後の事だった。
夕方僕が相変わらず寒い部屋の中で毛布に包まっていた時、しばらく部屋を離れていた雅春が 帰って来て僕に何かを差し出した。
雅春は、いつもとちょっと違っていた。いつもなら勢いよくバーンとドアを開けて部屋へ入ってくるのに、 その時だけは静かにそっとドアを開けて、しかも部屋へ入った途端すぐドアに鍵をかけた。
「何これ?」
雅春が僕に差し出した物は、小さなダンボール箱だった。 電化製品やみかんが入っているような物ではなく、手の平サイズのダンボール箱だ。
「開けてみて」
雅春は僕のすぐ隣に腰掛けて、箱が開く様子を見ていた。
僕が箱の中から取り出した物は、なんとアダルトビデオだった。しかも、2本も。
「ど、どうしたの?これ」
「シッ!静かにしろよ」
雅春が唇に人差し指を当てて僕に声のトーンを落とせと合図した。
僕はその時本当にびっくりしていた。こんな物、いったいどうやって手に入れたんだろう。
雅春は僕がその疑問を抱く事をとっくに分かっていて、何も言わなくてもすぐ小声で説明してくれた。
「ネットショップで買ったんだ」
「本当に?」
「うん」
雅春はパソコンを持っている。彼は暇な時によくネットの世界に浸っていたけど、まさかそんな事を しているとは思ってもみなかった。
アダルトビデオのパッケージに、窓の外から入り込む太陽の光が反射した。
パッケージだけでかなりドキドキする。髪の長い女の子が大きな胸をさらけ出しているからだ。
「夜2人だけで見ようよ」
雅春にそう囁かれ、僕はもっとドキドキした。 一緒に見るのはいいけど、そうしたら彼はまた今夜夢精するかもしれない。
ちゃんと知らないふりはしてあげるけど…こうして明るい時に彼の整った顔を見てしまうと、 そんな彼がパンツを汚すなんて想像がつかなくてドキドキする。
「皆で見るのは恥ずかしいからさ。2人だけで、誰にも内緒で見よう」
その意見には、僕も賛成だった。
この前皆でアダルトビデオを見た時は、気恥ずかしくてどうしようもなかった。 でもこの部屋で雅春と2人きりなら…できれば見てみたい。

 その夜の僕らは、すごく慎重だった。
僕らは普段、わりと夜更かしな方だった。勉強熱心と言えばそれまでだけど。
だけどその日は、夜友達が部屋を訪ねてこないようにちゃんと根回しをした。
北向きの102号室は寒くて、僕も雅春も少し風邪気味だ。そんな事をやんわりと友達に伝え、 だから僕らは今夜早く寝るよ。という事を必死でアピールした。

 僕と雅春が2人だけのビデオ鑑賞会を始めたのは、夜の8時頃。
その日は夕方を過ぎると急に天気が悪くなり、その時間は窓を叩きつける雨の音が部屋中に響いていた。
机の向こうの窓に厚いカーテンを引き、ドアに鍵をかけ、各部屋に備え付けられている14インチのテレビデオを 椅子に乗せて僕のベッドの横へ持ってくる。 床に座ると体が冷えそうだから、僕らはベッドの上に座って見る事に決めたんだ。
「電気消すぞ」
雅春が小さくそう言い、部屋の中は真っ暗になった。
照明のスイッチを切った後手探りで僕のベッドへ辿り着いた彼と僕は、1枚の毛布を半分ずつ分け合って腰の辺りまでを覆った。 壁に寄り掛かっている背中はとても冷たい。でもきっとビデオを見ればすぐに体が温まるだろう。
目が暗闇に慣れると、雅春がリモコンを使ってビデオの操作を始めた。
音は最小限に絞らなければならない。女の呻き声が外へ洩れたりしたら大変だ。 窓を叩きつける雨の音が、今夜はありがたかった。