5.

 そのままの状態でいったいどのぐらい時間が過ぎていっただろう。
僕は暗闇の中で布団をかぶり、しばらくじっとしていた。背中の後ろに寝ているはずの雅春も、その間ずっと身動きする事がなかった。
彼がピクリとも動かないので、僕は雅春が眠ってしまったのかと思っていた。僕もこのまま眠ってしまいたかったけど、 自分の心臓があまりにもやかましくてすぐに眠れそうにはなかった。
パンツの中の大事な物は硬くなったままだった。そしてそれが外部からの刺激を待っている事はよく分かっていた。
その時僕の頭の中ではついさっき見たビデオの映像が再生されていた。 でもそう思っていたのは錯覚で、僕の頭に広がっていたのは自分と雅春が触れ合う想像だった。
ベッドの上で腰を振っていたのは僕で、雅春を射精に導いたのもこの僕だった。
耳に残る上ずった声は、ちゃんと雅春の声に変換されていた。 僕の想像の中では変声期特有のハスキーな声が何度も僕の名前を叫んでいた。

 「亮太…」
突然背中の後ろから彼に呼ばれ、僕は飛び上がりそうなほど驚いた。
この時、恐らく消灯から30分ぐらいは時間が経過していた。
「亮太、まだ起きてる?」
それは本物の雅春の声だった。その声はとても小さく掠れていたけど、僕の耳に届くには十分鮮明な声だった。
この時僕が彼の呼びかけに答えなかったら…僕たちはずっと友達のままだった。
「うん。起きてるよ」
僕は暗闇の中で小さくそう返事をした。僕には彼の呼びかけを無視する事なんかできなかったからだ。
その後、雅春はやっと少しだけ体を動かした。背中の後ろにいる彼はその時体を僕の方に向けた。 彼の声が急に近くなったから、その事はすぐに分かった。
「さっきの、最後まで見てたよね?」
「…うん」
背中のすぐ後ろで雅春の声がした。
僕は彼がその後何を言い出すつもりなのか想像できず、ただドキドキして次の言葉を待っていた。
「ねぇ、本当に男同士でもあんなふうに楽しめるのかな?」
消灯時間はとっくに過ぎていて、目の前は真っ暗なはずだった。 でもその時僕の目にはチカチカと光る白い星のような物が見えた。
それからしばらく、狭い部屋の中に静寂が走った。今度は雅春の方が僕の返事を待っていた。
僕はその時布団の下で震えていた。体はすごく熱いのに、何故だかひどく震えていた。
彼がどういうつもりでそんな事を言ったのかはよく分からなかったけど、僕はもうこれ以上湧き上がる性欲を抑える事ができなかった。
僕はベッドの上で初めて寝返りを打ち、雅春の方へ体を向けた。その時、ベッドが微かにギシッと音をたてた。
ほとんど光のない部屋の中では、彼が目の前にいるという事をシルエットで確認するのが精一杯だった。
「…試してみようか?」
僕は自分で決断するのが怖くて、そんなふうに彼に問いかけた。でも雅春はその問いかけに答える事はなかった。

 雅春は何も言わずに細い腕で僕を抱き寄せた。 ぼんやりしたシルエットがリアルな彼に変わったのはその瞬間だった。
僕はこれから自分の身に起こる事を想像してまた体が震えた。
雅春が毛布の下でモゾモゾ動くと、静かな部屋の中に布の擦れ合うような音が響き渡った。
僕たちはこの夜以降 どっちが先に誘ったのかという問題を何度も何度も論議する事となった。