9.

 僕と雅春の仲は急速に深まっていった。
僕たちは毎晩愛し合ったし、少しでも2人きりになれる時間があるといつも抱き合ってキスをした。
今までは授業が終わって寮へ戻ると他の友達と集まって遊んでいたけど、僕と雅春はその遊びにも徐々に参加する事が少なくなっていった。 それはもちろん、少しでも2人きりでいる時間を増やしたかったからだ。
僕は授業や食事の時間以外はずっと彼と2人きりでいたいと思っていた。そしてきっと雅春も同じように思ってくれていたはずだ。

 6月に入ると、やっと北向きの部屋にも温かさが漂ってきた。
僕たちは今日も授業が終わるとさっさと部屋へ戻り、すぐにドアの内側で抱き合った。
ドアの外側には廊下を歩いている人たちが大勢いたはずだ。 薄いドア1枚隔てた部屋の中で彼と抱き合うのはすごくスリリングで、僕はこの時いつも興奮していた。
「外で遊ぼうよ」
「校庭で待ってるからな」
廊下で誰かが大きな声でそんな会話を交わしていた。僕たちは漠然とその声を耳にしながらドアの内側でゆっくりと唇を重ねた。
雅春がこの後どうするかを僕はちゃんと知っていた。
彼は僕の手を引いてベッドの前まで連れて行き、明るい部屋の中で少しもためらわずに僕の制服のズボンを剥ぎ取るんだ。
それはまさしく剥ぎ取るという言葉に相応しい行為だった。
雅春は黙って立っている僕の前にしゃがみ込み、ちょっと乱暴にズボンのベルトを外してジッパーを下ろす。
彼はこの時いつもすごく急いでいた。そして僕はただ目の前の雅春を見下ろし、たまに彼の柔らかい髪に触れてみる事もあった。
制服のズボンが床の上に落下すると、時々ベルトがガタン、と床に接触して大きな音をたてた。 僕はいつもその音に一瞬驚いたけど、驚きよりも興奮の方がずっと大きかった。
6月になって部屋の中はだいぶ温かくなっていたけど、ズボンを下ろされると足元がひんやりとした。 でも僕は雅春がすぐに体を温めてくれる事をちゃんと知っていた。
その後雅春は僕のパンツを足首まで下ろし、それから僕をベッドの上に座らせた。
この時僕はワイシャツとブレザーしか身につけておらず、辛うじて足首に引っかかっているズボンは雅春の手によって 今にも剥ぎ取られようとしていた。そしてそれが済むと、パンツも同じように剥ぎ取られてしまうんだ。
静かな部屋の中には明るい光が入り込み、僕の細い足が彼の目の前に晒されていた。 この時僕の大事な物はワイシャツの裾に隠されてまだおとなしくしていた。

 雅春はすべての準備が整うと床の上に座って僕の両手をぎゅっと握り締めた。 この時彼は優しい目で僕を見つめてくれていた。冷たい床の上には、僕のズボンとパンツが転がっていた。
やがて彼は僕の両手を解放し、今度はゆっくりと僕のワイシャツの裾をまくり上げた。 すると、ワイシャツの下で精一杯自己主張していた僕の物が彼の目にはっきりと映し出された。
彼の目に晒された僕の物は、すっかり大きくなって上を向いていた。
最初は自分のこんな姿を見せる事にすごく抵抗があった。 なにしろ夕方はまだ部屋の中が明るくて、その中で自分をさらけ出すのは本当に恥ずかしかったんだ。
でも今の僕にとってこの時間は至福の時だった。
雅春の指が、ゆっくりと僕の先端に触れる。すると僕はそれだけでもう気持ちがよくなってしまい、一瞬体がビクッとする。
僕の先端にはもう透明な液体が光っていて、それは雅春の指から糸を引いていた。僕たちはこの時すでに1本の細い糸で繋がっていたんだ。
興奮した雅春が目を閉じて僕の先端にかじりつく。僕はこの時両手の指を彼の髪に絡ませて必死に快感に耐えるしかない。
僕はいつも雅春の舌の動きを全身で受け止めていた。彼の長いまつ毛は舌の動きに合わせて小刻みに揺れていた。
彼の温かい舌はどうすれば僕が喜ぶかをよく知っていた。 時にはゆっくり、時には早く。雅春はうまく強弱を付けて僕を導いてくれた。
我慢の限界が近づいてくると、僕の膝が急にガタガタと震え出した。 彼はその合図に気付くと、僕をじらすようにわざと舌の動きを止めた。
僕はこの頃もう声を殺すテクニックを身に着けていた。雅春がどんなにじらしても、僕はやがて静かに頂点を迎えるのだった。


 夜になって夕食を取るために食堂へ向かう時、僕らはいつもお腹がいっぱいだった。 雅春は食事の前に僕を食べていたし、僕もその後彼を食べていたからだ。
それでも僕たちは毎晩食堂へ顔を出してちゃんとご飯を食べる事にしていた。 そうしないと、最近疎遠になりつつある川原が心配してわざわざ部屋へお見舞いに来るからだ。
食堂へ行くと、いつもの席に川原と横山がいた。
その時広い食堂の中にはカレーの匂いが充満していた。僕らが席に着くと、案の定白い皿に乗ったカレーライスが目の前にドン、と置かれた。
外はもう暗かったから、食堂の中は白い蛍光灯の光で明るく照らされていた。 皿の上に乗った炊き立てのご飯も、その光の下で眩しく輝いていた。
食事の後は自由時間と決まっていたから、夕食時は誰もが浮かれて楽しそうにお喋りをしていた。
「なぁ、後から俺の部屋で映画を見ないか?」
川原はご飯をスプーンに乗せながらそう言って僕と雅春を誘った。
この時、僕たちは黙って頷いた。
1日中2人きりで居るのはよくない。友達と適当に付き合っておかないと、後で変な噂が流れるかもしれない。
僕たちの心にはそういう漠然とした不安みたいな物が常に付きまとっていた。 僕も雅春もそんな事は口にしなかったけど、僕らにそういう思いがあった事は間違いなかった。
男女交際禁止。そして、生徒同士の恋愛も禁止。これはS学園の校則には載っていない秘密の掟だった。
その事は先生や先輩が教えてくれるというわけではなかったけど、ここでは周知の事実だった。
僕らは朝になると起き上がり、人に言われなくても当然のように制服を着て校舎へ向かう。 この掟はそれと同じぐらいにここでは当たり前の事として扱われていた。
もしも僕と雅春の仲が疑われたら、その噂はあっという間に学園中を駆け巡るだろう。 その後どうなるかという事は、ここにいる者なら誰でも容易に想像がつく事だった。


 川原の部屋で映画を見た後、僕と雅春は102号室へ戻った。その時はもう消灯の15分ぐらい前だった。
夜になると、北向きの部屋は少し寒かった。
僕は窓を厚いカーテンで覆い、それからすぐパジャマに着替える用意を始めた。
でも雅春はしばらく机に向かってぼんやりしていた。僕は彼の横でブレザーを脱ぎながらその長いまつ毛にしばらく見とれていた。
彼の横顔は本当に綺麗だった。頬杖を着いて膨らんだ頬や、少し乱れた髪。僕は彼のすべてが大好きだった。
「ねぇ、着替えないの?」
彼がなかなか立ち上がらないので、僕はそっと声を掛けてみた。すると雅春はチラッと横目で僕を見つめ、すごく真剣な口調でこう言った。
「どうせ裸になるんだから、パジャマに着替える必要なんかないよ」
そう言われると、僕は赤面した。そして彼は穏やかに微笑んで僕の手を引っ張り、そのまま自分の目の前に僕を立たせた。
「今夜は、亮太が上になって」
変声期特有のハスキーな声が僕に小さくそう囁いた。雅春に上目遣いで見つめられると、すぐに彼が欲しくなってしまった。
もうパジャマなんかいらない。僕はすぐに部屋の電気を消し、彼をベッドへ押し倒した。
僕たちが安心して愛し合う事ができたのは、この夜が最後だった。