13.

 S学園のある町はすごく雪深い。
校舎や寮の周りは毎年12月頃になると真っ白な雪景色に染まるようだ。
だけど今年は冬の訪れが早かった。11月の初めに突然記録的な大雪が降り、S学園はいつもの年より1ヶ月も早く雪に覆われてしまった。
僕は授業が終わって校舎を出ると、いつも同じクラスの友達と雪合戦をしながら寮へ向かった。
真っ白な外の銀世界は、とても幻想的だった。
天気のいい日は降り積もった雪の山に太陽が反射して光り、いつもその眩しさに目を細めた。
冷たい手で雪玉を作り、逃げ惑う友達めがけてそれを思い切り投げつける。それが北国で過ごす僕らの冬の遊びだった。

 僕は308号室へ戻ると、まずは厚手のダッフルコートをハンガーに掛けてクローゼットの横に吊るす。
紺色のコートには何度か友達の投げた雪玉が命中し、背中のあたりが少し白くなっている。でも白い雪は、やがて融けて水になる。 そして晴れた日には、太陽の熱がコートの雪融けを早めてくれるんだ。
先輩は高等部の学生だから、中等部の僕よりも授業が少し長い。だからいつも先に部屋へ戻ってくるのは僕と決まっていた。
僕はコートを吊るした後窓に薄いカーテンを引き、いつも先輩のベッドへ横になって1人の時間を過ごした。
僕は1日の間でこの時間が最高に好きだった。
食事の時間より、お風呂の時間より、先輩と話をしている時間より、どんな時よりも強くこの時間を愛した。
白い枕に顔をうずめると、先輩の匂いがした。
僕は先輩の匂いがする白い枕を抱え、頭の中では先輩に抱き締められる自分を想像し、いつも声を殺してマスターベーションをした。
頭から布団をかぶってゆっくりと目を閉じ、パンツをずり下ろして自分のものをこすり始めると、僕の妄想は一気に盛り上がってくる。
夢の中の先輩はいつも僕を興奮させた。
彼はクローゼットのドアを背にして立ち、僕を抱き締めながらすごく優しくキスをしてくれる。
僕の舌が遠慮がちに彼の舌に触れると、先輩は一瞬舌の動きをピタッと止める。
その後のキスは、とても情熱的だ。僕はその時先輩に舌を噛み切られるんじゃないかといつも心配になってしまう。
僕は先輩の激しいキスについていくだけで精一杯だ。
舌を吸い尽くされてだんだん意識が遠のいていくと、今度は先輩の右手が僕のワイシャツの裾をまくり上げ、彼の温かい手がゆっくりと僕の胸に触れる。
ここまで想像すると、僕はいつも我慢ができなくなってしまう。

 僕は先輩のベッドでこんな1人遊びをするのがすごく好きだった。ほんの少し前までの僕は、こうするだけで本当に満足していた。
でも最近の僕は以前の僕とは少し違っていた。
僕はこの淋しい1人遊びの後、時々布団の中で泣くようになった。 でもまだどこかに少し冷静な自分がいて、ちゃんと先輩の布団を濡らさないように器用に泣く習慣を身につけていた。
先輩と2人で1つの傘に入ったあの日。僕とマミが初めて2人きりで会ったあの日。
僕はあの日、マミの心変わりを知った。そして先輩がそんなマミの気持ちに気付いている事まで知ってしまった。
それから僕は先輩とどう接していいのか分からなくなっていた。 だけど先輩は以前と変わらず僕に優しくしてくれた。そしてその事が僕をひどく傷つけていた。
僕は最近、先輩の携帯電話の履歴を見るのをやめた。それは見る必要がなくなってしまったからだ。
最近ではもう先輩とマミはメールのやり取りをほとんどしなくなっていた。
先輩はきっとその事を淋しく感じているはずだ。そしてそうなったのは僕のせいだと思っているに違いない。
それなのに、先輩は僕に何も言わなかった。 彼は怒りもせず、嫌味の1つも言わず、今まで通り僕に接してくれていた。
僕はそんな先輩を見ているのがとてもつらかった。そしてよく考えた末に、ある1つの決意をした。
11月13日。その日はマミと会う約束をした日だった。
僕はその日先輩と一緒に彼女に会いに行き、2人の仲をなんとかして取り持とうと思っていた。
僕は先輩に幸せになってほしかった。今なら純粋にそう思えた。
柳田先輩が好きな人と結ばれる事。それが今の僕の本当の願いだった。