12.
僕は彼に口をふさがれて言葉を失い、考える力も失い、頭の中が空っぽになった。
田辺さんが僕をどう思ってくれているとか、横山さんがどうだとか、そんな事はもうどうでもよくなってしまった。
最初のキスは、それほどまでに愛情たっぷりなものだった。
彼と舌を絡ませ合うと、体が火照ってすごく興奮した。
その時間は皆が食堂に集っている時だったから、廊下は静まり返っていて、田辺さんの手が1枚ずつ僕の衣服を剥ぎ取るたびに布の擦れ合う音が微かに聞こえた。
そして僕の抜け殻が床の上へ落とされるたびに、バサッという音がはっきりと聞こえた。
僕らは同室だから、お互いの裸ぐらい見慣れていた。
でもクローゼットの前で裸になるのとベッドで裸になるのとでは全然意識が違っていた。
最初のキスが済んだ時、僕も田辺さんも息が上がっていた。
その時すでに僕は何も身に着けていなかった。そして田辺さんは息を整えながらTシャツを脱ぎ捨て、僕の上になった。
彼は器用に片手でベルトを外そうとしていた。
僕の耳に、ベルトのバックルが鳴るガチャガチャという音が飛び込んでくる。
田辺さんがズボンを蹴って、僕と同じく裸になった。肌を寄せて抱き合うと、この上ない幸せを感じた。
もう月明かりは若干弱まっていたけど、すぐ近くで僕を見下ろす彼の顔ははっきりと見えた。
田辺さんは、すごく真剣な目をしていた。
田辺さんの手が、僕の硬い物に触れた。僕は、この手の感触をよく知っていた。
「あぁん……」
彼の手があまりにも気持ちよくて、思わず声を出してしまった。僕はずっと、この手が欲しかったんだ。
「お前、こういうの初めてだよな?」
田辺さんはそう言ったけど、僕は頷けなかった。だって、田辺さんは夢の中で僕をいかせてくれたから。
そう思った瞬間、今度は下腹部の方にするどい痛みが走った。それは彼の指が僕の中に入ったせいだった。
僕がきつく目を閉じて痛みを堪えると、彼の指はすぐに体の中から去った。
「痛かったか?」
「はい」
「ごめんな」
田辺さんは申し訳なさそうにそう言って、僕の頭をなでてくれた。僕は小さく首を振って、彼に笑顔を返した。
すると彼は1つ溜息をついて、僕に驚くべき事を言った。彼との最初の夜は、本当に驚きがいっぱいだった。
「お前、俺の上になる自信あるか?」
僕はその時、首を振ろうとした。僕にはその言葉の意味が、ちゃんと理解できたからだ。
でも、諦めたくはなかった。どうしても、月明かりの下で田辺さんと愛し合いたかった。
「どうすればいいんですか?」
「教えてあげるよ」
僕を見下ろす彼が、穏やかに微笑んで2度目のキスをしてくれた。その後彼は隣で仰向けになり、僕を導いてくれた。
「おいで」
彼が両手を広げて僕に言った。そして僕は、彼に言われるままにその手の中へ飛び込んだ。
気がつくと、僕の小さな体は彼の上に乗っかっていた。
立場が逆転して彼を見下ろすと、田辺さんが少し緊張しているのが分かった。
いつも堂々としている彼の意外な一面を見て、すごく嬉しくなった。
緊張して唇を噛み締めている彼はとてもかわいくて、普段の怖そうなイメージは払拭されていた。
彼が毛布を蹴ると、裸の僕たちを覆い隠す物は何もなくなった。
彼はベッドの上で両足を開き、両手で僕のお尻を引き寄せた。
僕の小さなお尻には、彼の10本の指の感触がはっきりと存在していた。
「早く入っておいで。何も心配しなくていいから」
彼は僕を見上げ、静かな口調でそう言った。田辺さんの目は、すごく綺麗だった。
本当は少し怖かった。でもその時は、田辺さんと愛し合いたいという気持ちの方が勝っていた。
だから僕は、彼の言う通りにした。
彼の中に入った瞬間、僕の脳に今まで味わった事のない快感が襲い掛かってきた。
そしてその快感は、あっという間に全身に広がった。
田辺さんはちょっと苦しそうに顔をしかめたけど、それでも更に僕に要求をした。
「腰を動かして。早く」
本当は、もうそんな余裕なんかなかった。でも僕は彼の言う通りにしてあげたかった。
彼を見つめながら恐る恐る腰を振ると、田辺さんが上ずった声を上げて喘いだ。
彼は僕から顔を背け、快感と同時に襲い掛かる痛みに耐えているようだった。
「痛い?」
「いや。気持ちいい……」
囁くようなその声を聞くと、興奮して更に腰を振った。
僕が田辺さんにいい思いをさせてあげられるなんて、夢にも思わなかった。
1人じゃ何もできないけど、田辺さんと2人ならこんな事ができるんだ。
「触って」
彼は僕の右手を掴んで自分自身を触らせた。もうその時、その先端から少し粘りのある体液が漏れ出していた。
僕が指を動かすと、田辺さんがまた大きく声を上げた。
廊下は静まり返っていたけど、それはすごくスリリングな体験だった。
田辺さんの胸には汗が光っていた。そして僕も全身汗まみれだった。
僕が腰を振るたびにベッドが揺れた。そして、シーツの上に汗が飛び散った。
彼の息がだんだん早くなって体がピクピクと痙攣を始めた時、クライマックスが近い事を悟った。
出し惜しみせずに喜びを表現する彼はすごく素敵だった。眉間の皺も、上ずった声も、全部素敵だった。
僕は、彼のすべてを愛していた。