2.

 玄関のドアを開けると、そこにはティーシャツ姿のお兄さんがいた。
お兄さんはちょっと緊張していた。目が泳いでいたし、両手はぎゅっと拳を握り締めていた。
日に焼けて真っ黒な顔は、額に汗が光っていた。そしてお兄さんは唇をきつく噛み締めていた。
僕はしっかりと筋肉の付いた彼の二の腕にすごくドキドキしていた。
僕は彼が照れ屋である事を知っていた。彼は僕が頬にキスをするだけで耳が真っ赤になってしまう。 僕はそんなお兄さんが大好きだった。
「お帰り」
僕がそう言うと、彼はぎこちなく微笑んでこう言った。
「ただいま」
僕はその時、泣きたいぐらい嬉しかった。『お帰り』 と 『ただいま』 の挨拶を交わすのがすごく久しぶりだったからだ。
お兄さんはその後、いつも乗っている古めかしい自転車を玄関の中へ入れた。
僕はその荷台に乗って彼の背中にしがみ付くのが大好きだった。

 「来てくれてありがとう」
僕がそう言うと、お兄さんは玄関のドアを後ろ手で閉めた。内側から鍵がかかるカチャッという音が耳に響いた時、僕らは完全に2人きりになった。
僕はもう待ちきれず、彼に抱きついてお兄さんの唇を奪った。そのたくましい肩に手を回すと、彼が少し震えているのが分かった。
お兄さんと舌を絡ませ合うと、僕の体温が急激に上昇し始めた。お兄さんの汗の香りが、ますます僕を興奮させた。
僕たちはキスの後3秒ぐらい見つめ合った。お兄さんの目は何か言いたげだったけど、僕は有無を言わせず彼の手を握って寝室を目指した。
お兄さんに早く誕生日プレゼントを渡したかった。1日遅れのプレゼントを、早く受け取ってほしかった。

 寝室の中は真っ暗だった。
僕はそんな中迷わず彼をベッドに招き入れ、手探りで枕の下にある照明用のリモコンを掴み、真っ暗だった部屋の中にほのかな明かりを与えた。
するとお兄さんの顔がちゃんと見えてすごく安心した。僕はその時もう1人ぼっちに耐えられなくなっていた。
お兄さんはその時すごく優しかった。僕の頭の下にちゃんと枕を入れてくれたし、僕に笑顔をくれた。
僕はふっくらした枕に頭を乗せ、すぐ側にあるお兄さんの笑顔を見上げた。そして今度は僕がお兄さんに唇を奪われた。
彼は僕の両手首をベッドの上に押し付け、遠慮がちに僕の上にのしかかった。
お兄さんのキスがあまりにも激しすぎて、僕は彼についていくだけで精一杯だった。
彼の舌が僕の舌を吸うと、意識が飛んで頭が真っ白になった。 好きな人とキスをするのがこんなに気持ちいいなんて、今まで知らなかった。
長いキスが終わりを告げたのは、お兄さんが僕の左手首に巻いたリボンに気づいた時だった。 彼はふと顔を上げ、指先で細いリボンを二度三度ともてあそんだ。
「これ何?」
お兄さんは僕の胸に頬を乗せ、囁くようにそう言った。僕はすぐに目を閉じて体の力を抜いた。
「プレゼントには必ずリボンが巻いてあるものだよ」
僕の返事を聞いた後、お兄さんはゆっくりとそのリボンを解きはじめた。僕は手首に巻いたリボンがほどかれていく感触をしっかり受け止めていた。

 「お前、すげぇカワイイぞ」
お兄さんの囁く声がすぐ側で聞こえた。
その後すぐ彼の手が僕のティーシャツを奪い取り、ジーンズも奪い取り、最後に僕のハートまで奪い取った。
僕はあっという間に生まれたままの姿になった。そして裸のまま仰向けになり、薄目を開けて彼が洋服を脱ぐのをじっと見つめていた。
僕の心と体は明らかに彼を欲していた。大きくそり上がった彼自身を目にした時、僕は今まで以上に興奮した。
お兄さんは僕をすごくかわいがってくれた。
彼の唇が僕の首筋に触れ、僕の胸に触れ、そして僕の乳首に触れる。
僕はそれだけでもう頂点に達してしまいそうだった。
「あっ……」
全身が快感に包まれ、我慢できずに声を上げる。でもそれはまだ単なる序章にすぎなかった。
僕がもうすっかり理性を失っていた時、お兄さんの大きな手が僕自身に触れた。
その手があまりにも気持ちよくて、もう何がなんだか分からなくなってしまった。
「あっ……あぁ……」
僕はきつく目を閉じ、その快感を全身で受け止めた。
お兄さんの5本の指が僕の1番敏感な部分を何度も愛撫する。 僕はお兄さんの指が湿っているのを感じ、その時に自分のものが濡れているのを初めて知った。
息を荒げながら薄目を開けると、僕の顔のすぐ上にお兄さんの顔があった。彼はとても真剣な目で僕を見下ろしていた。
彼としっかり目が合った時、僕は腰のあたりに感じる硬いものに手を伸ばした。
お兄さんの熱いものに触れると、彼がすぐに僕の胸に顔を埋めた。
濡れた先端に爪を立てると、彼が大きく声を上げた。
お兄さんの甘い吐息が僕の胸に降り注ぎ、ますます体が熱くなった。その時すでに、クーラーは役立たずだった。

 「ねぇ……僕を抱いて」
「えっ?」
僕の言葉に反応し、彼が僕の胸から顔を上げた。
僕の発言はあまりにも率直すぎたのかもしれない。でも僕はもう待ちくたびれていた。早くお兄さんと愛し合いたかった。
「枕の向こうにローションがあるから……それを使って」
お兄さんは一瞬体の動きを全部停止させた。そしてその後ゆっくりと枕の向こうに手を伸ばし、やがて彼の手がそこにある小さなビンを掴んだ。
その頃もうベッドに敷かれたシーツは2人の汗で湿っていた。
「本当にいいのか?」
お兄さんは僕を見下ろし、そう言って念を押した。
僕はもうこれ以上じらされるのが嫌だった。だから彼にしがみ付いてもう一度その唇を奪った。
もっともっとお兄さんを興奮させてやりたかった。そして僕のすべてを彼に奪ってほしかった。

 お兄さんはそれからすぐに僕を抱いてくれた。
冷たいローションをお尻の穴にたっぷり塗られると、一瞬体がビクッとした。
お兄さんの指が僕の体の中をまさぐった時は、すごく変な感じがした。
本当は、ちょっとだけ怖かった。本当に自分が彼を受け入れられるかどうか少し心配だった。
でも……僕はどうしてもお兄さんが欲しかった。お兄さんが好きだから、初めての人は絶対に彼だと決めていた。
「痛くない?」
お兄さんが僕の中で指を動かしながら小さくそう言った。僕は少し痛かったけど、我慢して首を振った。
その後は、自分がどうなったのかよく分からなかった。
お兄さんの手が僕の腰を持ち上げたのはなんとなく分かった。その後僕の体にひどい激痛が走り、そのうち苦痛に耐えかねた僕は大声で叫んでいた。
「痛い!」
腰の下に感じる異物感と、鋭い痛み。
あれほど欲したお兄さんとの行為は、僕の想像と全然違っていた。

 「ごめん、痛かった?」
お兄さんが僕の体を離れた時、僕の頬を温かい涙が流れ落ちていった。その時はまだ全身に鈍い痛みが残されていた。
「トモ……ごめん」
お兄さんはそう言いながら大きな手で僕の涙を拭ってくれた。そしてその後、僕を強く抱きしめてくれた。 彼の腕に抱かれると、体に感じる痛みが少しずつ少しずつ和らいでいった。
「お前の肌は真っ白でスベスベで……すごく綺麗だよ」
「……」
「お前、初めてなんだろう?」
僕はお兄さんの腕の中で黙って頷いた。すると彼が泣きべそかいてる僕の顔を見つめ、少し笑いながらこんなふうに言った。
「最初は誰でもつらいのさ。でも、そのうちきっと良くなるよ」
お兄さんの声はとても優しかった。顔が日に焼けているせいか、白い歯がすごく目立っていた。
僕は彼の言葉が嬉しかった。お兄さんの言葉は、僕らの関係が今日で終わりじゃない事を示していた。 それに……彼は僕の肌を綺麗だと言ってくれた。僕はその事が何よりも嬉しかった。
彼の手はしばらく僕の髪をなでていた。そしてその手が徐々に下の方へと移動し、やがて興奮冷めやらぬ僕自身に辿り着いた。
彼の指が僕を刺激すると、また少し意識が飛んだ。僕はお兄さんの胸に顔を埋め、汗の香りに酔いしれた。
僕は今にも溢れ出しそうな快感を堪え、そっとお兄さんの硬いものを指で触った。
すると、彼が息を呑むのが分かった。
僕はその時もうさっきまでの痛みをすっかり忘れていた。 ただ体がすごく熱くて、白い肌の上を汗の雫がいくつも流れ落ちていった。肌の下にあるシーツは、汗の雨に降られてしっとりと濡れていた。
僕らはその時、ベッドが小刻みに揺れる感覚を一緒に味わっていた。

 それからすぐ後、僕の手の中に彼の温かい愛が溢れた。
お兄さんの上ずった声がすぐ側で聞こえる。僕を抱き寄せる彼の手に今まで以上の力が込められる。
彼は小さく深呼吸を繰り返し、体を何度も震わせた。
僕はその夜、たしかにお兄さんの右手になった。