8.

 約束の土曜日はよく晴れていた。
僕は午後1時には、すでに待ち合わせ場所の公園にいた。
1人でベンチに腰掛けて、幸也を待つのは楽しかった。たとえ彼が来てくれなかったとしても、ちっとも構わないと思えるほどに。

 芝生の上を駆け回る子供を見ながら、そこでいろんな事を考えた。
最初にここで待ち合わせをした日、幸也は何を思って僕を待っていたんだろう。
どんな目で僕を睨み、いかなる方法で僕を支配するか。彼ならきっと、そのぐらいの事は考えていたはずだ。
幸也の行動は、まったく理解に苦しむ。
だけど僕は、彼が好きだった。それを認めるには多少の抵抗があったけれど、事実だから仕方がない。
こんなに誰かに夢中になるのは、生まれて初めての経験だった。
これまでにもそれなりに恋をした事はある。でもそんなものは、もうおままごとのようなものとしか思えなくなっていた。
最近幸也は、常に僕の心の中にいた。
僕は多分、見事に彼の戦略に乗ってしまったんだ。
幸也の事を考えると、いつでもどこでも下半身が熱くなる。つまりは心身ともに、彼に支配されているというわけだ。


 彼は1時間遅れで待ち合わせ場所へやってきた。
だからといって、もちろん反省するそぶりなど見せたりはしない。ただゆっくりと僕に近付いて、呆れたようにこう言うだけだった。
「まだいたの?」
幸也はいつものようにだらしなく学ランを着こなしていた。普段通りのその姿を見ると、僕は無性に嬉しくなった。
「どこへ行きたい? 今日は車で来てるから、遠出もできるよ」
喜び勇んで立ち上がった時、彼は少し戸惑っているような表情を見せた。
こんなに遅れてやってきたのに、僕が嬉しそうにしているのが不思議でたまらなかったのかもしれない。