10.
俺はその後約2週間 マサトに会う事はなかった。
その間彼は1日に何度も電話をくれたけど……俺は決して電話に出ようとはしなかった。
行く当てのない思いを抱えて生きたって惨めなだけだ。
俺はそう考え、彼と離れる事で彼への思いを断ち切ろうとしていた。
俺はその後約2週間マサトに会わなかった。
すなわちそれは……約2週間後に彼に会ってしまったという意味でもある。
「優二、ゲームしに行かないか?」
「おう、いいぞ」
それはいつもの事だった。
放課後。同じクラスの友達と寄り道して帰る約束をし、もう通い慣れた道を何の感情も持たずにただ歩く。
空は青い。道沿いには見慣れたアパートが並んでいる。
綺麗にガーデニングされた他人の家の庭は、いつも通り花盛りだった。
そして俺の周りにはお揃いの制服を着たかわいい女たちが大勢いる。
もう必要以上に周りの景色が色鮮やかに目に映る事もない。それはきっと、俺の恋が終わってしまったからだ。
なのに、それなのに……バス亭へ向かう道の途中で、俺は輝く一点の物に目が留まった。
この辺りで1番古い2階建てアパートの前に止まっている車。
紺色の、ピカピカに光るスポーツカー。
俺は運転席に乗っているその人からどうしても目が離せなかった。
短く刈り上げた黒い髪。茶色の目。白い肌。
俺の周りにはお揃いの制服を着た生徒たちがたくさんいた。
恐らくその時、彼はまだ俺の姿を見つけていなかったと思う。
俺の前を行くブレザーの群れが彼の姿を見え隠れさせる。
その時俺には選択肢があった。その車の横を無視して通り過ぎる事もできた。でも俺は……そうしなかった。
その車の前に着いた途端、彼と目が合ってしまったからだ。
マサトの優しい目……それは俺が1番大好きな人の目。
2週間もの間努力してがんばって彼の事を忘れようとしたのに、俺はその後彼の車に乗った。
空が真っ青だった。最初に見えてきた赤信号は真っ赤だった。
無言で車を出した彼の隣で過ぎ行く外の風景を見つめていると……今までにないほど景色が色鮮やかに見えた。