13.
俺たちは車に戻り、マサトはハンドルを握ってさっき来た道を引き返した。
一定の距離を進むごとに見えてくるオレンジ色の外灯をいくつも追い越し、車は早いスピードで走り続けていた。
俺もマサトも無言で、走行中の車内には微かな振動だけが響いていた。
俺の目の前には前を走る車のテールランプ。その光が小さくなるたびにマサトはアクセルを踏んでスピードを上げた。
俺はその時呆然としていた。
頭の中が空っぽで、キスしたいと言った彼の声が本物なのか幻なのかよく分からなくなっていた。
でも俺は、そう遠くはない未来に彼の本気を知る事となる。
湖からの帰り道。最初の赤信号で車が止まった時、マサトは助手席の俺にそっと左手を伸ばし、遠慮がちに差し出した俺の右手を見つけると、ぎゅっと強くその手を握り締めた。
信号が青に変わって車が走り出してもマサトはその手を離そうとはしなかった。
そして俺も、ずっと強い力で彼の手を握り締めていた。
片手でハンドルを握る彼。フロントガラスの向こうに見える車のテールランプ。
道の両側には雑木林。俺はそのすべてを一生忘れないようにしようと思った。
「朝まで一緒にいたい。今夜は……帰したくない」
決して俺の顔を見ようとしないマサトの声が真っ暗な車内に小さく響いた。
俺は猛スピードで走り出した車の中で指の骨が折れそうなほど強く彼の手を握り締めた。
それが俺の返事のつもりだった。
その時もう外は真っ暗で、空から細い雨が落ちてきていた。
彼と最初に会った日 2人きりで行ったホテル。
そこへ辿り着いた時、あの時と同じ502号室の部屋だけが空いていた。
彼は俺の手を引いて懐かしいその部屋へズカズカ上がり込み、ちょっと乱暴に俺をベッドへ押し倒した。
薄闇の中。あの時は使わなかったフカフカなベッドの上。彼の顔はすぐ近くにあった。
彼は俺のパーカーとティーシャツを破り捨てるように剥ぎ取り、自分ももどかしそうに夕日の匂いがするトレーナーを脱ぎ捨てた。
彼の柔らかい唇が俺の小さな口を塞ぐ。そして彼のたくましい腕が俺を抱きしめ、肌と肌がぶつかり合った。
俺は体の上に覆いかぶさる厚い胸板を抱き寄せ、きつく目を閉じて彼の舌を味わった。
口を塞がれて、息ができなくて……すごく苦しかった。でもそれ以上に嬉しくてたまらなかった。
彼の大きな右手は一瞬にして俺のジーンズを下ろし、それを床の上に投げ捨てるのが分かった。
激しいキスに酔いしれているといつの間にか彼もジーンズを脱いでいて、気が付くと俺たちは生まれたままの姿でベッドの上に重なり合っていた。
ずっと口を塞いでいた彼の唇が俺の息を解放し、今度は首筋を吸った。
「あ……あぁ……ん」
俺はこんな自分を初めて体験していた。その時俺は全身が性感帯になっていた。
火がついたかのように体が熱い。体のどこに触れられても、どうしようもなく感じてしまう。
こんなにかわいがってもらうのは生まれて初めてだった。好きな人にかわいがってもらうのがこんなにイイなんて……今まで知らなかった。ちゃんと人を好きになった事なんか一度もなかったから、何も知らなかった。
これならキスを続けていた方がまだマシだった。すごく恥ずかしいのに、声を出すのを止められない。
「あぁ……あぁ……あん!」
彼の舌先が右の乳首を転がした時、俺はもうすでにいきそうになっていた。
2人きりの部屋の中に、上ずった声が響く。背中の下のシーツはもう汗でびっしょり濡れている。
胸のあたりはマサトの唾液でやはり濡れている。
マサトは唇で俺の乳首を吸いながら、大きな右手でゆっくりと太ももの内側を愛撫してくれた。
信じられないほど気持ちが良かった。
「あぁ! マサト……」
俺が彼の名を呼ぶと彼の右手が太ももから1番敏感なものへと移動した。
その瞬間、体にブルッと震えがきた。
もう先端から体液が噴き出している。俺にはちゃんとその自覚があった。
もしかしてもう半分ぐらい漏れていたのかもしれない。
「いや……!」
本当はもう許してくれと言いたかった。
これ以上続けると頭が変になってしまいそうな気がした。
なのにマサトはそんな時 俺の先端に爪をたてた。もうどうやっても自分をコントロールする事なんかできなかった。
太ももを伝って生温かいものがスーッと流れ落ちていく。
最初から最後まで絶頂が続いたから、いつ終わりを遂げたのか全然分からない。
いつも言う事を聞かない大事なものと太ももをマサトがティッシュで処理してくれた時、最初に会った日の事を思い出してひどく気恥ずかしかった。
あの時マサトは卑猥な落書きがいっぱいのトイレで今と同じく太ももにしたたる俺の体液を処理してくれた。
今俺はあの時と同じぐらい……いや、あの時以上に恥ずかしくてたまらない。
「俺……いつもはこんなに早くないんだよ」
しわくちゃになったシーツの端をぎゅっと握り締めながら小さくつぶやいた言い訳は、精一杯の照れ隠しだった。
すべての処理が済むとマサトは汚れたティッシュをゴミ箱へ投げ入れ、それから俺の頬にキスをして穏やかに微笑んだ。彼は俺の言い訳をプラスに変えてくれた。
「いいんだよ。何度でもしてあげるから」
マサトはそう言いながら枕に頭を乗せて仰向けになり、息を整えようとしていた。
その時まで、彼の息が上がっている事にさえ気付かなかった。
胸のあたりまで引っ張り上げた薄い掛け布団の下にあるものはまだ熱い。
俺もそうだから、マサトだってそうに違いない。
俺はマサトの息が整わないうちに掛け布団を蹴って彼に覆いかぶさり、小さな口で彼の口を塞いだ。
「ん……」
マサトは息ができず、苦しそうだった。俺もそうだったから、彼の気持ちがすぐに分かる。
短いキスを終えると、今度はバランスよく筋肉のついた肩に舌を這わせた。
俺は唇で彼の性感帯を探していた。そして見つけたのが首筋だった。
「優クン……」
ハスキーな声が何度も俺に呼びかけた。首筋を二度強く吸うと、喉ぼとけの横にキスマークが2つ並んだ。
彼のたくましい両腕がひ弱な俺を抱き寄せる。でも首筋を舐めまわすと、その腕から力が抜けた。
その後右の乳首を噛むと、彼が遠慮がちに声を上げた。
「あ……」
俺は彼をメチャクチャにしてやりたくて、乳首を吸いながら彼の股間でいきり立つそれにそっと指を這わせた。
俺のより一回りサイズが大きいそれは、とても熱くなっていた。
その先端に右手をあて、早いスピードで指を動かすとその動きに合わせて彼が声を上げた。
俺の左手は、シーツの上でマサトの手と重ね合っていた。
「あ……あ……う……ん」
右手が濡れてきた。少しずつ少しずつ指の隙間から彼の愛が溢れ出す。
体をくねらせて喘いでいる彼は……恐らく少し前の俺の姿と同じだ。
「優クン……」
彼がまた俺の名を呼んだ。
マサトの目はきつく閉じられていたけど 俺はちゃんと……ここにいる。
「大好きだよ、マサト」
彼の耳元でそう囁いた時、汗ばんだマサトの手がシーツの上でぎゅっと俺の左手を握った。
俺はその瞬間、へそのあたりに彼の体液をたっぷり浴びた。
すごくすごく 幸せだった。