7.

 「優二!」
次の日。学校の放課後。校舎を出て友達と5人でバス停へ向かっている時、綾子が後ろから駆け寄って来て俺の肩を叩いた。
俺の周りには同じようにバス停へ向かっている生徒が大勢いた。
俺と一緒にいた4人の友達はニヤニヤしながらわざとゆっくり歩いて俺と距離を置いた。 綾子が俺に気がある事を知っていて、変に気を利かせているんだ。
「ねぇ、見たい映画があるの。今日じゃなくてもいいから一緒に行こうよ」
小柄な綾子は俺の隣を歩き、探るような目で俺を見上げていた。
彼女の長い髪は風に揺れていた。ほんのり甘いシャンプーの香りが風に乗って俺の鼻をくすぐる。 綾子の胸は大きくて、ブレザーのボタンがはち切れそうになっていた。 ハラハラするほど短い制服のスカートの下からは細くて真っ直ぐな足が露になっている。
「今週の土曜日はだめ?」
彼女のすがるような目が俺を見上げている。濡れた唇が太陽の光でキラキラと輝いている。
ちょっと前までの俺ならこんな時あっさりと映画の約束を交わし、その帰りにホテルへ寄ってやっちまおうと考えた。
綾子は俺の好みではないが1回ぐらいやってもいい程度の美人だ。なのに……今は彼女の胸を見ても足を見ても濡れた唇を見ても何も感じない。
俺は隣であれこれ話しかけてくる彼女の声を聞き流し、ただ周りの景色を漠然と見つめていた。
もう通い慣れた道なのに、全部知り尽くしている景色なのに、目に映るものすべてがいつもより色鮮やかに見える。 左右に並ぶアパートの壁はいつもより光っているし、綺麗にガーデニングされた他人の家の庭もすごく素敵に見える。
目の前に見えてきた信号の青が眩しい。その色と同じぐらい真っ青な空はもっと眩しい。
この世はなんて素晴らしいんだろう……
俺がこんなふうに思うのは……きっと恋をしているからだ。