4.

 「あぁ…」
またいつものやつが始まった。
僕はその時机に向かってはいなかった。
夏休み最後の日の午後7:00。
少し前までの僕ならこの時間は間違いなく机に向かって勉強していた。 でももう僕は勉強なんかとっくに手に付かなくなっていたんだ。
僕はやっちゃんと目が合って以来、一度も机に向かう事はなかった。

 僕は今、仰向けになってベッドに寝ている。ちらっと窓の外へ目を向けると、 薄いカーテンの向こうに小さな空が見えた。
最近は日が長いけど、7時を過ぎると少しずつ空は暗くなっていく。ついさっきまで水色だった空が、 今は群青色になりつつある。
すでに部屋の中も薄暗い。でも僕は決して電気をつけたりはしない。
「う…ぅ」
今のは、やっちゃんの声だ。
僕は目を閉じて、ジーパンとトランクスをゆっくり膝の辺りまで下ろした。
やっちゃんがどんな人か知ってしまった今、頭の中で彼と愛し合うのを想像する事はたやすかった。

 やっちゃんはいつも少し強引に僕をベッドへ押し倒す。
それから僕はやっちゃんと長い長いキスをする。彼の薄い唇の感触は…とても柔らかい。
彼は最後までキスをやめない。 僕の唇を塞いだままで、やっちゃんの細い指が僕の体を愛撫する。
彼の指は僕の胸を触り、へそを触り、ヘアーを触り…そして1番熱い部分に触れる。
その時やっと彼は僕の唇を解放してくれる。僕は思い切り息を吸って酸素を体内へ送り込む。
僕にはいつも余裕がない。余裕たっぷりなのは、やっちゃんの方だけだ。
彼が僕を見下ろしてクスッと笑うのは、僕の先端がすでにびっしょり濡れているからだ。
『もう濡れてるの?』
彼は僕の耳にそう囁いて、今度は耳たぶに舌を這わせる。 その間もやっちゃんの指はずっと僕の先端に触れていて…僕はそろそろ自分の限界が近い事を悟っていた。

 「あぁ…もう出ちゃう」
窓の向こうからその声が聞こえてくると、必ず漏れてしまう僕の分身。
それまではすごく幸せですごくいい気持ちなのに、太ももにぬるっとした感触が走ると突然現実に引き戻されて 目から涙が溢れてしまう。
彼にヒトメボレしてしまったあの日から、ずっとこんな事の繰り返しだ。
どうしてやっちゃんの相手は僕じゃないんだろう。 僕の相手はいつもやっちゃんなのに、彼の相手はいつだって僕以外の誰かだ。
毎日窓の向こうの声を聞く事は今や僕にとって地獄だった。

 僕はその後夕食も食べず、起き上がる事もせず、朝まで泣き明かした。
泣き疲れて時々ウトウトした記憶はあるけど、ほとんど寝ずに翌朝を迎えてしまった。 夜が明ける頃、もう枕カバーは涙でびしょ濡れになっていた。
それでも…こんな日でも、ちゃんと学校へ行かなければならない。
新学期が始まる日の午前7:00。
やっと起き上がってふとお気に入りの机の上を見ると、そこには埃がたまっていた。