6.
仕事を終えた後クタクタになって家へ帰り、愛車のママチャリに乗って『竹の湯』へ向かう。
そして汗を洗い流した後再び家へ戻り、仕事帰りに買ってきたコンビニ弁当を食らう。
メシを食った後は部屋でゴロゴロしながらテレビを見たり本を読んだりして、その後だいたい夜中の12時頃には眠ってしまう。
これがいつもの俺の生活パターンだった。
いつも朝が早いし、仕事で疲れているから布団に潜ればすぐに熟睡体制に入れる。
たまには寝付けない時もあってモゾモゾと布団の中で性欲を発散させる事もあるけど、それは男のサガというやつだ。
でも……例のキス以来、俺は毎晩布団の中でモゾモゾやるようになってしまった。
おかげで最近いつも寝不足だし、なんとなく腰が重い。1週間も連続で毎晩マスかいてれば、こうなるのは当然だ。
仕事中は少年の事なんかほとんど忘れているし、家へ帰ってからも彼の事は極力考えないように努力してきた。
でも……部屋の中を真っ暗にして布団に潜ると、少年の事以外に何も考えられなくなる。
そして彼の事を考えると体がどんどん熱くなって寝付く事ができず、何度も寝返りを繰り返す。
布団の上に寝転がって右を向いたり左を向いたり、上を向いたり下を向いたり、布団をかぶったりもう一度蹴ったり。
そんな事を繰り返しているうちにどんどん時間が過ぎていってしまう。
中古品を買って取り付けたクーラーは最近調子が悪く、生温い風が部屋中を舞っている。
おかげでますます体が温まってくる。そして俺のシンボルは……火傷しそうなほど熱くなっている。
やっぱり我慢できない。今日も夜のお勤めをしないと、落ち着いて眠れやしない。
俺は観念して思い切りよく布団を蹴った。
部屋に1つしかない窓の外からはアパートの前を通りかかったバイクのエンジン音が聞こえてきた。
しかしバイクが通り過ぎると辺りは静まり返り、布団の上でモゾモゾとパンツを脱ぐ音が部屋の中に響き渡った。
俺の部屋は暑いから、寝る時はいつもパンツ1枚しか身に着けていない。
そのたったの1枚を右手で膝まで下ろし、不精な俺は両足をバタバタさせて足首までそいつをずり下げる。
するとすべてから解放されたシンボルが露になるけれど、部屋の中が真っ暗だから恥ずかしくもない。
俺の右手は熱いシンボルに触れた瞬間から彼の右手に変わってしまう。
頬にキスしてくれた時肩に触れた少年の小さな手の感触。俺はその記憶を頭の中に呼び起こし、自分をいい気持ちにさせてくれてるのは彼の手なんだと心に言い聞かせる。
彼の右手は、最初は遠慮がちにほんのちょっとだけ先の方に触れる。
そして俺の体がビクッとするのを感じた後は……まったく手を止めずにそれをゴシゴシと擦り続ける。
「ん……あぁ……」
俺は口から声を出し、体から汗を出し、シンボルの先からはそのどちらでもない別な物を放出する。
「あぁ……あぁ……」
カラカラに渇いているのは喉だけだ。そこ以外は額も胸も足も……とにかく何もかもが濡れている。
だがそのうち全身の感覚が麻痺して自分の声すら聞こえなくなり、体が熱い事さえ意識しなくなる。
その瞬間彼が側にいる気配を感じ、俺は静かに最後の時を待つ。
『お兄さん』
やがて恋しい彼の透き通る声が短く俺を呼んだ。その後はおきまりの……頬へのキスが待っている。
でもチュッと耳元にその音が聞こえた瞬間 俺は夢から醒めてしまうんだ。
そしてその後にはただ冷たい現実だけが待っている。
腹や胸やシーツの上に飛び散った少年の肌よりも白い精液。それが俺の現実だ。
そしてもうその時、少年の右手はすっかり自分の右手に戻ってしまっている。それも……俺の現実だ。
暗闇の中 枕の上あたりに手を伸ばし、手探りでティッシュの箱を探し当て、その中から数枚の薄い紙を取り出す音が部屋の中に空しく響く。
最初から体中が汗だくだから、腹や胸の上にある湿った物をティッシュで拭き取ってもそれが汗なのか精液なのかよく分からない。でも、その方がありがたい。
シーツはどうせ一晩使えば汗で汚れてしまうから、何が飛び散ろうと構いはしない。
快楽の後始末をした後 やっと俺は目を閉じて眠る体制に入る。
トラックが側を通ればユラユラ揺れるようなボロアパートの一室で、たった1人でマスをかく。
以前はそれが淋しいと思った事もあるけど、今はそんなふうには思わない。
思いを寄せる少年に近づいて間違いを犯し、彼を傷つけてしまうより……こうする方がずっと気が楽だ。
時々彼の上に馬乗りになって無理矢理やっちまうのを想像しながらマスをかく事もあるけど、想像するだけなら犯罪にはならない。
中学生の頃好きになった女の事を思いながらマスかいてたのと何も変わらない。
俺は決して誰にも迷惑をかけていない。
きっともう彼に会う事はないから、ずっとこうしてやっていければいい。