13.

 一方通行なセックスで、ひとまず僕の性欲は満たされた。彼の中で射精をすると、全身に溢れるほどの快感が広がったのだ。
チビはその時まで身動き一つしなかった。僕が彼を押さえ付けていたので、恐らく物理的に動けなかったのだ。
きつく目を閉じて、苦痛に耐えるように唇を噛み締める彼。
僕はその様子を見ながらチビの中でたっぷりと性欲を吐き出していた。でも僕が快感を得たのは、ほんの一瞬だけに過ぎなかった。
膝のあたりがザラザラするのは、シーツの上に砂が散らばっているせいだった。
そっと彼から離れると、チビの両肩に僕の手の跡がはっきり残っているのが分かった。
僕の精液は彼の肉体には吸収されず、穴の奥から大量に溢れ出てきた。そしてそれは、ザラつくシーツの上に小さなシミを作り上げた。
薄っすらと目を開けたチビが、零れ落ちそうな涙を手の甲でサッと拭う。その仕草を見た瞬間に、僕は彼から逃げ出した。


 それからすぐに、熱いシャワーを浴びた。僕はとにかく心と体の汚れを早く洗い落としたかったのだ。
熱いお湯が全身に降り注がれると、日に焼けた肌が少しだけ痛んだ。
せっけんの泡がお湯と混ざり合って、どんどん排水口に流れていく。 単調なシャワーの音をしばらく聞いていると、なんだかすごく空しくなってきた。
僕は自分を恥じていた。
チビの意思をまったく無視してあんなふうに彼を抱くなんて、本当にどうかしていた。
僕は茶色の子猫に嫉妬したのだ。
チビはあの猫と、一瞬にして分かり合えたようだった。
彼と過ごした時間は僕の方がずっとずっと長いのに、僕は時々チビの事が分からなくなる。
近くて遠い、2人の距離。僕たちの間に存在する見えない壁。
その存在に気付いた時、僕は不意に心が乱れてしまった。そして気が付くと、力で彼をねじ伏せようとしていたのだった。
僕は嫉妬に狂い、チビを思いのままにする事で、2人の距離を埋めようとしていたのかもしれない。
だとしたらそれはあまりに愚かで、子供っぽい行為だったと言わざるを得ない……
体がとても熱いのは、シャワーのせいでもなければ日に焼けたせいでもなかった。 行き所のない羞恥心が、僕の体をひどく火照らせていたのだ。
バスルームを囲むガラスの壁が、いつの間にか湯気で白く曇っていた。
それを知った時は、すごくほっとした。 ガラスを曇らせる湯気が、ダメな自分を覆い隠してくれているように思えたからだ。

 壁に手をついてうなだれていると、ある時バスルームのドアが静かに開いた。
その時、背中に微かな冷たい風を感じた。でもそれは一時だけで、僕の背中はまたすぐに人肌で温められた。
「1人にしないで」
掠れたその声が、ガラスの壁に大きく反射した。チビは僕の背中に抱きついて、更に言葉を続けた。
「夏休みの間はずっと一緒にいてくれるって言ったよね?」
単調なシャワーの音は、まだあたりに響いているはずだった。でもその時は、不思議と彼の声しか聞こえてこなかった。
チビは決して僕を責めようとはしなかった。 彼はただ、僕と一緒にいたいという意思表示をしただけだった。
チビの両手が、僕の肩をがっちりと掴む。やがて2人が離れても、そこにはしばらく彼の手の跡が残るだろう。
1人でいるのが淋しくなって僕を追いかけ、背中に抱きついてこんな事を言うなんて……
そんな彼があまりにいじらしくて、僕は思わず涙が出そうになった。