17.
二宮の白い手が、突然僕の手を強く握った。その時はあまりにも驚いて、体が硬直してしまった。
重なり合った手が、2人の熱で少しずつ温められていく。彼は相変わらず正面を見据えて、淡々と言葉を続けた。
「トシくんと同じ中学にいたのは、多分半年ぐらい。
あそこではひどいイジメに遭って、いい思い出なんかほとんどないんだ」
僕の手はしだいに汗ばんでいき、心臓の動きも激しくなっていった。
二宮は一瞬だけ俯いた後、すぐに顔を上げて僕を見つめた。
その表情は柔らかくて、彼の目には独特の艶っぽさが感じられた。
「トシくんの手は温かいね。昔と全然変わらない。あの頃俺に優しくしてくれたのは、トシくんだけだったよ」
僕たちの接点はとても薄いもので、2人の間には本当にちっぽけな思い出しかなかった。
なのに彼は、その思い出を大事に大事に手の中で温め続けていたようだった。
外からくる強い風が、彼の前髪を大きく乱した。すると、右の眉の上の傷跡がはっきりと僕の目に映った。
その時僕は、やっと気付いたのだった。
彼は恐らく、その傷を見るたびに僕を思い出してくれたのだ。
深く刻まれた2センチの傷は、それ自体が僕との淡い思い出だったのだ。
それが分かると、小さな傷跡がすごく愛しく感じた。僕はゆっくりと手を伸ばし、くっきりと残る眉の上の傷を指でなぞった。
僕が彼の腕にしっかりと抱きしめられたのは、ちょうどその時の事だった。
彼の腕に力が入ると、胸が圧迫されて息が苦しくなった。
それから後の事は、体が全部覚えている。
僕もドキドキしていたけれど、彼もすごくドキドキしていた。二宮の胸の高鳴りは、直接僕の体に伝わってきたのだった。
気が付くとふくよかな唇が僕の口を塞いでいて、その感触にすごく興奮した。
体が異常に熱かった。外の風はちゃんと頬に感じるのに、決してその熱が冷める事はなかった。
やがて下腹部に、5本の指の感触が広がった。その指がわずかに動くと、突然体が斜めに傾いた。
背中の下に、硬い床があった。頭の下には、折りたたまれた衣類の山があった。
目の前が真っ暗だったのは、自分がこの不可思議な現実を見ないようにしていたからだ。
ふくよかな唇が口許から離れると、大きく息を吸って風を飲み込んだ。
でも5本の指はいつまでたっても下腹部を離れなかった。そこを少しでも刺激されると、僕は震えるほどに感じてしまった。
「よかった。トシくん、こういうの嫌いじゃないんだね」
僕は瞼を閉じて、ずっと現実から目を背けていた。
でも熱い吐息が耳に触れた時、目には見えなくても二宮がそばにいる事を実感した。
足元の方で、ゴソゴソと音がする。ジーンズのジッパーが下ろされ、彼の指が直に肌に触れる。
僕はこのギリギリの状態の時に、初めてチビの事を考えた。
頬のエクボが、目の前にチラつく。「好き」 と囁く彼の声が、耳の奥に蘇る。
そして淋しそうに俯く姿が、僕の心にグサッと突き刺さる。
僕はその瞬間に目を開けるべきだった。そして自ら起き上がるべきだった。
でもそれができないうちに、二宮が次の行動を起こしたのだった。
ジーンズを剥ぎ取られた両足が、彼の手によって左右に大きく開かれた。
そして僕は、目を開けるタイミングを完全に失った。
そんな淫らな姿の自分なんか、恥ずかしくてとても見られなかったのだ。
「すぐにいい思いをさせてあげるよ」
今度は下腹部に彼の吐息を感じた。風に揺れる二宮の髪が、僕の太ももを微かにくすぐる。
彼はすぐそばで僕の局部を見つめている。大きくそり上がった硬いものを、2つの目でじっくりと眺めている。
そんな事を想像すると、ますます羞恥心が増大した。
「あーっ!」
厚い唇に先端を吸われた時、僕は思わず叫んでいた。
5本の指は、休む事なく根元を揺さぶっていた。
小刻みに動く舌が、更に先端を刺激する。体が痺れて、首筋に汗が浮かび、徐々に快感の波に引きずり込まれていく……
その頃僕は、チビの事などもうすっかり忘れていた。
ただすごく気持ちがよくて、あっという間に果ててしまいそうな気がしていた。