18.

 「夢の中では、何度も君に抱かれた」
二宮は、ベッドの上でそう言った。
彼の体は綺麗だった。肌が真っ白で、手足は長くて、すごく均整がとれていたのだ。
僕は真っ白な胸に吸い付いて、そこにピンク色のキスマークを刻んだ。
彼はきっと、それを目にするたびに僕の事を思い出してくれるだろう。

 僕が彼の中へ入った時、二宮は右手の薬指をそっと噛んだ。 彼はそうやって、必死に声を押し殺そうとしていたのだ。
小さな穴はすごく窮屈で、僕はずっときつく締め付けられていた。
彼を見下ろして、ゆっくりと腰を振る。それを何度か続けると、二宮は更に強く自分の指を噛んだ。
薄目を開けて僕を見つめる彼が、不意に小さく笑みを浮かべた。
その時彼は、夢の続きを見ていたのかもしれない。


 今日は空が曇っているせいか、いつもより暗くなるのが早く感じた。
今は午後6時を少し過ぎたところだ。
ちょうど帰宅ラッシュの時間だというのに、僕はまた乗客の少ない電車に乗っていた。
今日は人の波に逆らってばかりいる。そんな自分は、やはり人の道から外れてしまったのかもしれない。
硬い椅子に座って目を閉じても、まだ興奮が冷めやらない。
節操のない下腹部には、未だにセックスの余韻が残っている。 肉体はもうとっくに彼を離れたはずなのに、まだなんとなく締め付けられているような気がするのだ。
僕はそんな状況の中で、チビの事を考えた。
アパートへ帰るのは、恐らく7時頃になる。
チビは今頃お腹を空かしているかもしれない。 部屋には食料が備蓄してあるけれど、彼は何も食べずに僕の帰りを待っているような気がする。

 早く帰らなければという思いと、このままずっと電車に揺られていたいという思いが心の中で交錯した。
僕はとうとうチビを裏切ってしまった。いくらがんばっても、もう昨日の自分には戻れない。
これから僕は、二宮の感触を体に残したまま、チビの元へ帰る事になる。
それはあまりにも心苦しい。どんな顔をしてチビと会えばいいのか、正直言って分からない。 それでも僕の帰る場所は、たったの1つしかないのだ。
二宮のマンションに誘われた時から、こうなる事は薄々分かっていた。
彼が僕に好意を寄せているのは明らかだったし、その誘いに乗る事は彼を受け入れる事と同じだった。 僕はすべてを分かった上で、二宮という男に歩み寄ったのだ。
でも、誓って言う。
僕は決してセックスが目的で彼に近づいたのではない。僕はただ、何でも話せる身近な友達がほしかったのだ。
将来への不安とか、日々の暮らしの中で思う事とか。 二宮とは同世代の仲間として、いろんな話をしてみたかった。僕が彼と会う目的は、本来はそういう純粋なものだったのだ。
本音を言うと、チビは話し相手としては物足りない。世の中の仕組みが分からない彼に、将来の不安を語っても仕方がない。
僕はチビと分かり合えない部分で、彼と心を通わせたかった。最初は本当に、ただそれだけだった。
でも話をするだけでは満足せず、結局は二宮と体を重ねてしまった。 その理由は単純で、彼の愛撫がすごくよかったからだ。