2.

 やっとアパートへ辿り着いた時、部屋の中はサウナのように暑くなっていた。 留守にしている間は窓を閉め切っているから、それは仕方のない事なのだ。
僕は急いで部屋の奥へ行き、すぐにエアコンのスイッチを入れた。これで5分ぐらい我慢すれば、恐らく部屋全体が涼しくなるはずだった。
「はぁ、暑いな」
僕はエアコンを作動させた後、そうつぶやいて後ろを振り返った。しかしそこに子猫の姿は見当たらなかった。
「あれ?」
もしかして子猫を逃がしてしまったのかもしれない。僕はそう思って慌てて玄関へ走った。
すると彼はまだ靴も脱がずにそこに立っていた。狭苦しい玄関のスペースに、ただ黙ってぼんやりと突っ立っていたのだ。
「何してる? 早く入って」
僕が声を掛けると、子猫はやっと靴を脱ぐ仕草を始めた。彼は僕の許しを得るまで決して部屋へ上がろうとはしなかったのだ。
彼は意外に几帳面だった。 脱いだ靴はちゃんと両足揃えて玄関の隅にそっと置き、適当に投げ飛ばした僕の靴をその隣に並べていた。

 「ほら、ここへ座って」
子猫がやっと部屋へ入ると、テーブルの手前に紺色の座布団を敷いてそこへ座るよう促した。 すると子猫は出会った時と同じように座布団の上で体育座りをした。
僕はひとまず簡単な掃除を始めた。
床の上にはいろいろな物が散乱していた。 洗濯し忘れた靴下とか、よく分からない派手なチラシとか。
そういった物を集めてベッドの下へ押し込むと、一応は部屋の中が片付いたように見えた。 8畳ほどのその部屋は、子猫と2人で住むにはちょうどいい広さに思えた。
「あとで掃除機をかけなきゃ」
僕は床を見つめて独り言をつぶやいた。 エアコンの送り出す風が床の上の埃を舞い上がらせ、その塊が隅の方にたまり始めていたからだ。
窓から強い日差しが入り込み、フローリングの床はその熱を帯びて生温かくなっていた。

 キッチンの横にある冷蔵庫を開けると、その冷気が手に降りかかってすごく気持ちがよかった。
僕は牛乳パックと冷えたグラスを中から取り出し、それからすぐに子猫の隣へ座った。
「ミルクを飲むだろ? 冷えてておいしいぞ」
僕は青いグラスをテーブルの上に置き、そこになみなみと白いミルクを注いだ。
その頃すでに部屋の中を涼しい風が支配しようとしていた。
子猫はグラスにたっぷり入ったミルクをしばらく嬉しそうに見つめていた。それは彼の大好物に違いないのだ。
やがて小さな両手が青のグラスを持ち上げ、子猫がゴクゴクと喉を鳴らして一気にそれを飲み干した。 その飲みっぷりはとても豪快だった。彼は随分汗をかいていたから、きっとすごく喉が渇いていたのだろう。
あっという間にミルクを飲み干すと、子猫は空になったグラスをトン、とテーブルの上へ置いた。
その時小さな口の淵にはミルクが作り出したヒゲがたくわえられていた。 彼は長い舌を使ってペロッと口の周りを舐め、すぐに白いヒゲを葬り去ってしまった。
「いい飲みっぷりだね。もう1杯どう?」
僕は彼の豪快な飲みっぷりに感服し、2杯目を勧めた。 しかし子猫はすでにお腹が満たされたらしく、それをやんわりと断るように小さく首を振った。

 彼は大きく口を開けてあくびをした。どうやらお腹が膨れた途端に眠くなってしまったようだ。
僕は立ち上がって窓際のベッドへ向かった。そっと布団をめくり上げると、夏の日差しの中をたくさんの埃が舞った。
「ここで寝たら? お日様が当たって気持ちがいいよ」
そう言ってシーツの上をポンポン、と叩くと、子猫がおもむろに立ち上がった。そして彼は突然洋服を脱ぎ始めたのだった。
僕はその様子をじっと見ていた。
子猫は短めのティーシャツを首から抜き取って床の上に投げ捨て、2度目のあくびをしながらズボンのジッパーを下ろした。 そして戸惑いもなくズボンと黒っぽいトランクスを脱いだ後、それを足で蹴ってベッドの下へ押し込んだ。 こうして彼はすっ裸になってしまったのだった。
僕はこの行動を理解した。
いくら人間の姿をしていても、彼はやっぱり猫なのだ。 普通の猫は洋服など身に着けてはいない。本来は裸でいる事が自然なのだ。
子猫は体の線が細かった。 あばら骨が浮き出ていたし、手足は棒のようで、きゅっと上がったお尻はすごく小さかった。

 裸の彼が近づいてきた時、僕は何故かドキドキしてしまった。
子猫の真っ白な肌は夏の日差しに照らされていた。 彼はベッドの横に立ち止まると、トロンとした目で僕の顔を見つめた。子猫の目は少しだけ潤んでいた。それはきっと、2度もあくびをしたせいだった。
その時彼は何か言いたげな目をしていた。しかし睡魔には勝てなかったらしく、それからすぐベッドへ横になって目を閉じた。
子猫が枕に頭を沈めると、また日差しの中を埃が舞った。
彼の両手は軽く拳を握って胸の上に置かれていた。そして膝を折り曲げた両足は大きく開かれていた。 エアコンの撒き散らす涼しい風は、薄茶色の前髪をユラユラと揺らしていた。
それはなんとも無防備な寝姿だった。 まだ恥じらいを知らない赤ん坊が1番楽な体勢で寝そべっているといった格好だ。
僕はめくり上げた布団の端をぎゅっと掴んでその姿をしげしげと眺めた。
午後の日差しは白っぽい乳首を照らし、同時に彼の大事なものを照らしていた。
子猫がオスである事を示すものは、下腹部にしっかりとぶら下がっていた。 普通の猫は毛むくじゃらなはずなのに、その付近には産毛さえ見当たらなかった。
それを見た時、不意にある好奇心に襲われた。
赤ん坊子猫は、それを刺激するとやっぱり感じるものなのだろうか?

 彼はすでに眠りに堕ちようとしていた。 仰向けになったまま微動だにせず、薄っぺらい胸が定期的に小さく上下していたのだ。
僕は布団を掛けてやろうと思っていたけれど、それは後にして彼の足元にそっと座った。
僕の目の前には大きく開かれた両足があり、その間に豆粒のようなそれが存在していた。
昼間からこういう事をするのには多少の抵抗があった。でも相手が猫だからまぁいいか、と変な理屈をつけて白い豆粒に手を伸ばしてみた。
先の方を指で突くと、子猫はすぐに反応を見せた。棒のような2本の足が、瞬間的にブルッと震えたのだ。
僕は親指と人差し指でそれを挟み、ゆっくりと2〜3回擦ってみた。するとまた子猫の両足が震えた。
彼は感じている。
それを確信した時、僕は更に小さな豆粒に刺激を与えた。するとそれは2本の指の間で確実に膨らんでいった。 最初は豆粒ほどの大きさだったものが、30秒ぐらい擦り続けると鉛筆の半分ぐらいの長さにまで成長した。
子猫はブルブルと足を震わせ、両手の拳を力強く握っていた。
「あーっ、あーっ」
子猫は鳴いた。大きな声で何度も鳴いた。小さな口を精一杯開いて、高らかに鳴き続けた。
彼の頬にエクボは見当たらず、そのかわり眉間に深いシワが刻まれていた。
鉛筆の先が太陽に煌いた時、僕はすごくドキドキしてきた。
もしかして子猫はもうすぐ射精するかもしれない……

 そしてその時はすぐに訪れた。
子猫は濡れた鉛筆の先から勢いよく真っ白なミルクを吐き出したのだ。
それは噴水のように宙に舞い上がり、やがてそのほとんどがシーツの上に落下した。
その様子を見た時は、ドキドキしすぎて身動きができなくなった。
鉛筆の半分の長さにまで大きくなったものは、指の隙間であっという間にしぼんでいった。
子猫の胸はさっきよりも大きく上下していた。心なしかその速度が少し早まったように思えた。
彼は目を閉じたまま唇を横に広げてわずかに微笑んだ。 子猫は微笑みながら今度こそスースーと寝息をたてて眠ってしまったのだった。