23.
コンクリートの床はとても冷たくて、そこへ腰掛けると少し体温が下がったように思えた。
この場所でチビと愛し合った事が、今ではもう遠い昔のように感じる。
屋上に吹く風は、あの時とまったく違っていた。
それは季節が秋に変わろうとしているからではなく、きっとチビがそばにいないせいだった。
正面に見えるのは、非常階段へ続くドアだ。
チビがここへ姿を見せるとしたら、あのドアの向こうからやってくる以外に方法がない。
それが分かっていたから、一時も目を放さずに正面のドアを見つめていた。
このまま彼と別れる事になったら、もう自分の意識を正常に保てなくなってしまいそうな気がした。
もうチビのいない暮らしなんか、とても考えられなかった。
1人でご飯を食べる事も、1人のベッドで眠る事も、僕にはすでに想像がつかなくなっていたのだ。
とにかく、不安で不安でたまらなかった。
来るか来ないか分からない人を待つ事は、苦しみ以外の何物でもなかった。
こんなに好きなのに、どうして彼を傷つけてしまうのだろう。
ずっと一緒にいたいのに、どうして僕たちは離れてしまったのだろう……
膝を抱えてうずくまっていると、不意にチビと初めて会った時の事を思い出した。
彼はあの日、道路の隅で体育座りをしていた。
特に何をするというわけでもなく、まったく動こうともせず、気温30度の外気に晒されてただそこにうずくまっていた。
あの時彼は、大きな不安を抱えていたに違いない。
誰かが自分を拾ってくれる保障なんて、きっとどこにもなかったから。
こんな事になって、初めてチビの気持ちが分かった。
僕は今まで、理解されようと努力する事もなかったし、理解しようと努力をした事もなかった。
僕につらい時があるように、チビにも悲しい時がある。
そんな簡単な事にも気付かなかったなんて、僕は本当にバカだった。
夜風に晒されていると、ますます体が冷えてきた。
早くチビと抱き合って、体を温めたい。
その望みが叶わぬうちに、夜は更けていった。