13.
僕と誠はそれから急接近した。
あの日誠の部屋で起こった出来事は、2人とも暗黙の了解で誰にも口外する事はなかった。
冬休みに入ると、僕と誠はほとんど毎日を一緒に過ごすようになった。
武志を交えて3人で遊ぶ事もあったけど、それは3日に一度ぐらいの事だった。
それ以外の日、僕はいつも彼と2人きりだった。でもその時の僕らは極めてプラトニックな関係だった。
2人で一緒に映画を見に行ったり、ゲームをしたり、僕らはいつもそんな健康的な遊びに明け暮れていた。
道路に大量の雪が降り積もったある日。
僕たちは眩しい雪明りに目を細めながら郊外に位置する公園へ出かけて行った。
広い公園は一面雪の色に染まっていて、そこには小高い山でソリ遊びをしている子供たちがたくさんいた。
色とりどりのスキーウェアを着た子供たちは、山のてっぺんからソリで滑り降りるとまたすぐにソリを引っ張って山を駆け上がって行った。
彼らのスキーウェアと同じようにそのソリの色もピンクや黄色とバラエティに富んでいた。その色は、真っ白な雪の上ですごく映えていた。
山のてっぺんから滑り降りる瞬間にキャーと悲鳴を上げているのはほとんどが女の子ばかりだった。
冬の太陽を浴びながら無邪気な子供たちを見つめていると、突然僕の背中に鈍い衝撃が走った。
気が付くと、隣にいたはずの誠が姿を消していた。
もう一度背中に衝撃を感じて振り返ると、黒いブルゾンを着た誠が5メートル後ろに立っていた。
彼はいたずらっ子のように微笑み、手の中で雪玉を作っている最中だった。
それから僕たちの雪合戦が始まった。
僕は素手で真っ白な雪を掴み取り、素早く雪玉を作り上げて逃げ惑う誠に投げつけてやった。
でも誠は逃げ足が早く、僕はなかなか彼にダメージを与えられずにいた。
夢中で雪玉を投げ合っていると、そのうちに僕らの衣服は雪だらけになった。
そして冷たくなった手は真っ赤な色へと変化していた。
「大丈夫か?」
僕が両手に息を吹きかけて立ち尽くしていると、だいぶ離れた所にいた誠が心配げにそう言って僕に近寄ってきた。
広い公園の中には相変わらずソリ遊びをする子供たちの声が響き渡っていた。
ザクザクと足音を立てて誠が雪の上を歩いてきた。
髪を切ったばかりの彼は、頭がやけに涼しげだった。
誠が5メートル手前までやってきた時、コートのポケットに隠し持っていた雪玉を取り出して素早く彼に投げつけた。
不意を突かれた誠は防御の姿勢を取る事もできず、僕の投げた雪玉は彼の涼しげな頭に命中した。
「やられた!」
誠は大袈裟にそう叫んで頭にへばり付く雪のかけらを急いで払い落とした。
そして僕の大きな笑い声が広い大地にこだました。
誠は最初は口を尖らせて怒ったようなそぶりを見せたけど、すぐに彼も声を上げて笑い始めた。
彼が笑うと、目尻に深い皺が刻まれた。
僕はこんなたわいのない時間がとても好きだった。
彼と2人で過ごす時は、竜二と2人で過ごす時と同じぐらい心地よくて楽しいひと時だった。