5.
その後の僕たちは静かな関係が続いていた。竜二とは学校でいつも行動を共にしていたし、相変わらず登下校の時も一緒だった。
2学期が始まって3週間が過ぎた頃、僕たちの仲間は増えていた。
同じクラスの武志と誠。彼らとは体育の時間にバレーボールで同じチームになり、それ以来僕たちは4人で一緒に過ごす事が多くなった。
竜二に彼女ができた事を知って以来、僕は彼に対して少なからずわだかまりを持ち続けていた。
僕は自分に隠し事をしていた彼を心のどこかで許せずにいたんだ。
本当はそんなに単純な事ではなかったけど、その頃の僕は自分の感情をそんなふうに理解していた。
彼がぼんやりしている時、僕は竜二が彼女の事を考えているんだと思うようになった。
彼がおもしろい映画を僕に教えてくれる時、それはきっと彼女と一緒に見に行った映画に違いないと思うようになった。
とにかく僕にはもう竜二の言葉が真っ直ぐに伝わってこなくなっていた。
僕はそんなふうに考える自分がとても嫌な奴に思えたし、そう思うたびに竜二と一緒にいる事が苦しくなった。
だけど他に仲間が増えた時、僕のそんな気分は緩和された。
僕は自分が嫌いになってしまいそうな時、いつも何のわだかまりもない武志や誠と話すように心がけていた。
竜二と僕の関係が明らかに変わったのは、秋風が吹いて日に焼けた肌が元の色に戻った頃の事だった。
制服が冬服に変わったあの頃 竜二の学ランは袖丈がちょうどいい長さに整っていた。
そんなある日の放課後。小柄な武志が僕たちを例のアイスクリーム屋へ誘った。
いつもなら僕たち4人は放課後一緒に校舎を出て真っ直ぐに地下鉄駅へ向かい、1番最初にホームに入ってくる地下鉄に必ず乗っていた。
竜二以外の3人は時々街へ出て寄り道する事もあったけど、彼だけはいつも真っ直ぐ家に帰ると言ってそれには付き合わなかった。
それはもちろん彼が毎日彼女に会いに行っていた証だった。
そしてその時も竜二だけは武志の誘いに乗らず、僕らに背を向けて1人でさっさと帰ってしまった。
僕は遠ざかっていく竜二の背中を見送った時、なんだか彼を失ってしまったような気分になっていた。
僕はその日から毎日武志や誠とアイスクリーム屋へ立ち寄るようになり、竜二と一緒に下校する事がなくなった。
あれから僕は彼と2人きりで深刻な話をする事もなくなった。
アイスクリームを頬張りながら竜二のいない緑のトンネルを歩く時、僕はすごく心が重かった。
隣に武志や誠がいても、決して気は晴れなかった。
竜二がいつも彼女の事を考えていたように、僕もいつも竜二の事を考えていたんだ。
今頃彼は彼女と会って楽しくお喋りしているんだろうか。
もしかして、たまには人目を忍んでキスをしたりもするんだろうか。
そんな事を考える時、僕の視界はいつも灰色に染まった。
遥か頭上を行く小鳥のさえずりはもう雑音にしか聞こえず、口の中に広がるアイスクリームの味がとても苦く感じた。
愛する人の隣で微笑む竜二の姿が頭に浮かぶと、何故だか時々無性に泣きたくなった。