6.

 僕は退屈な日曜日が大嫌いだった。
日曜日はママの仕事が休みで、パパはずっとずっと彼女のそばにいた。
ママは朝のんびりと起き上がり、軽くシャワーを浴びた後白いバスローブを羽織ってリビングへやってくる。
それは日曜日の朝のいつもの光景だった。
でも以前と大きく違うのは、ママが日曜日になっても外へ出かけなくなった事だ。 そして目覚めた彼女が最初に声をかける相手が僕ではなくパパになったという事だった。
「おはよう」
ママは濡れた髪を両手で束ねながらソファーに座っているパパへと近づく。
午前10時。もう日は高い。
朝の日差しが同じソファーに座る2人を明るく照らす。
この時パパはいつも細い腕でママの肩を抱き、彼女に軽いキスをプレゼントした。 パパは日曜日の朝このためだけに早起きしてママを待っていたのかもしれない。
「疲れてる?」
遠いところでパパの掠れた声がそう言った。
ベランダの向こうから入り込む風がパパの茶色い髪を揺らす。そして春の日差しがママの濡れた髪にツヤを与える。
この時2人がどんな顔をして見つめ合っているのか僕は知らない。
彼らの間に入れず、居場所のない僕はリビングのドアの隙間から2人の後ろ姿を見ているだけで精一杯だったから。
2人が2度目のキスを交わす頃、僕は彼らに背を向けて音もなく玄関へ向かい、いつもそっと家を出た。
行くあてなんかなくても、僕は結局そうせざるを得なかった。

 空は青かった。
近所の公園では小さい子供たちが10人ぐらい集まってボール遊びをしていた。
僕は無邪気な子供たちの声に導かれるようにそこへ近づいた。
鉄棒の横にある崩れ落ちそうなベンチに腰掛けて、今日1日何をして過ごすか考えたいと思った。
まだ5月だというのに、太陽の日差しは初夏を思わせるほど熱く感じた。
僕はぼんやりとボール遊びをする子供たちを眺めた。
5〜6歳ぐらいの幼い彼らは、オレンジ色の柔らかそうなボールをぶつけ合ってはしゃいでいた。
楽しそうな笑い声があたりに響き、そばにいるはずの子供たちの姿が遠く感じた。

 結局そこにも僕の居場所はなかったのだ。
ママと2人で暮らしていた時から、僕はずっと1人だった。
いつもママと顔を合わせるのは朝の短い時間だけだったし、学校から帰るともう彼女は出かけていた。
学校であまり親しい友達ができないのは、小さい頃から人とのコミュニケーションの仕方を学んでこなかったからだという気がした。
楽しそうに遊んでいるクラスメイトがすぐそばにいても、彼らが遠く感じて仲間に入れてほしいとは決して言えなかった。
そして今は目の前にいる両親にさえ声をかける事ができなくなった。
小さい頃から僕はずっと1人だった。
でもパパと暮らすようになってからはその事をしばらく忘れていた。
若くて綺麗で兄さんみたいな彼がいつも僕の話し相手になってくれたからだ。
なのに、幾度も繰り返される日曜日の朝が自分は1人きりだという事実を僕に突きつけた。
パパは僕のものではなくママのものだった。そしてもちろんママはパパだけのものだった。
パパもママも1人きりではない。1人きりなのはこの僕だけだった。

 さぁ、今日は1日何をして過ごそうか。
遠いところにいる子供たちの声を聞きながら、青い空を見つめてそう思った。
でもどこへ行っても自分の居場所が見つからないような気がして、自然と深いため息が出た。