8.
まるで銃を向けられているような気分になると、僕は本当に1ミリも動けなくなった。
それはきっと少しでも動くと心を撃たれてしまいそうな気がしたからだ。
パパの目には、たしかにそれほどの力があったのだ。
それにしても、パパはいつからそこにいたのだろう。
僕は彼が近づく気配をまったく感じなかった。恐らくそれはしっかりと目を閉じてマスターベーションに興じていたせいだった。
その事が分かると、頭の後ろがズキズキと痛んだ。
本当に、彼はいったいいつからそこにいたのだろう。
もしかしてずっと前からそこにいて、僕の性的行為を黙って観察していたのだろうか。
こうして数々の事に思いをめぐらせていると、パパの冷たい目が急に怪しく微笑んだ。
僕はその目の奥にある物がいったい何なのか検討もつかなかった。ただその目はとても不気味で、ゾクゾクするほど魅力的だった。
僕は少しも動けなかったのに、心臓だけはやけに激しく脈打っていた。
パパはやっぱり見ていたんだ。
僕が1人で気持ちいい事をしているのを、あの冷たい目で見ていたんだ。
再びそんな思いが頭をかすめた時、パパが静かに布団の下へもぐりこんだ。
その時小さくギシッとベッドの軋む音がした。
それと同時に部屋の中を僅かに照らしていたテレビの電源が切られた。すると当然のように目の前が真っ暗になった。
この時テレビのリモコンは枕の近くに置いてあったはずだ。
電源が切られたのはパパが布団にもぐった時偶然リモコンのボタンに触れたのか、それとも彼が意図的にそうしたのか。
それは僕には分からなかった。
新しいベッドはすごく大きかったのに、パパの気配をすぐそばに感じた。
体を覆う布団がモソモソ動いている事ははっきりと分かった。
何も見えない暗闇の下で金縛り遭っていた僕は、気づくと両腕を強い力で押さえつけられていた。
パパの髪が僅かに頬に触れた時、僕はきつく目を閉じた。僕にできる事はそれぐらいしかなかったからだ。
僕は本当に少しも抵抗する事ができなかった。
しかし抵抗する間もなく両腕は解放され、今度はパパの細い指がパジャマの奥に入り込んできた。
胸の上までパジャマをめくり上げられると、へそのあたりが少し涼しくなった。でもそれはほんの束の間の事に過ぎなかった。
パパの唇が僕の胸にキスをして温かい舌が乳首を舐め回すと、炎に包まれたかのように体が熱く燃え上がったのだ。
「あっ!」
身動きできない僕にできる事がもう1つだけあった。それはかん高い声で叫ぶ事だった。
「あ…あぁ!」
ツンと立ち上がった乳首がパパの舌でもてあそばれると、かん高い叫び声が何度も大きく耳に響いた。
それは今までに聞いた事がないほど乱れた自分の声だった。
時々乳首を噛まれると、体に一筋の電流が流れた。
その瞬間はすごく気持ちがよかった。本当に、信じられないほど気持ちがよかった。
そして遂にパパの細い指が僕の硬いものに触れた。
パジャマのズボンが膝の下まで下ろされていたのは、少し前に自分の手でそうしていたからだった。
一時萎えていた熱いものが、パパの指に触れられて敏感な反応を示した。
ゆっくりと動く彼の指が濡れていたのは、僕の先端から体液が溢れ出したせいだった。
パパは温かい舌で僕の乳首を舐め、細い指で硬いものをゆっくりと擦っていた。
彼の髪は時々僕の胸に触れた。そして熱い吐息が僕の体を更に熱くした。
大粒の汗が次々と首筋を流れ落ちていった。枕もシーツもすでにしっとりと濡れていた。
胸に覆いかぶさるパパのティーシャツは、少しずつ少しずつ僕の汗を吸い取っているようだった。
「あぁ…!」
またかん高い声が喉の奥から飛び出した。
パパは突然舌と指をものすごい早さで動かし始めたのだ。
すると体に幾度も鋭い電流が流れた。そして僕はそのたびに叫び声を上げてしまった。
どんどん息が荒くなり、喉がカラカラに渇いた。
すごく気持ちがよくなって、やがて全身に痺れのようなものを感じた。
パパの指は僕を確実に頂点へと導いていた。
徐々に気持ちが高ぶって、体の奥からこみ上げてくるものをたしかに感じた。
パパの指は休む事なく動き続けていた。時々爪が先端に触れると、体がブルブルと小刻みに震えた。
僕はできる事なら一生こうしてパパに触れられていたいと思った。
このまま時間が止まってくれたらいいのに。僕はこの時本気でそう思っていた。
でも、何事にも必ず終わりはやってくるものだ。
「もうダメ…!」
最後の声が叫ばれると、パパの指がピタッと止まった。彼はそれと同時に舌の動きもすぐに止めた。
その瞬間に僕の中から溢れ出した熱いものが彼の手を温めた事は間違いなかった。
太ももに飛び散った体液が皮膚を伝ってゆっくりとシーツの上に流れ落ちていくのが分かった。
体が大きく震えて、心臓が突然不規則な動きを始めた。
パパは最後に僕の乳首をもう一度強く噛んだ。すると胸に心地よい痛みを感じた。
酸素を欲して大きく息を吸う僕の口は、やがて彼の唇によって塞がれてしまった。
とても息が苦しかった。パパが濡れた指で僕のお腹を撫でると、言い知れぬ恥ずかしさがこみ上げてきた。
この夜僕はパパのものになった。
パパが僕のものになったのではなく、僕がパパのものになったのだ。
でもそんな事はどっちでもよかった。
とにかく僕はこの夜からもう1人きりではなくなった。僕にとってはその事実が何よりも重要だった。