「ピンポーン」
さあ来た、晃が来た。
「おう、母さんも親父もまだ会社だからよ。遊んでまつべ」
そういって二人で俺の部屋に向かう。やばい。ちょっと気まずい。
「ああ…っと、ジュース飲むだろ?取ってくるからエロ本でもなんでも読んでてくれ」
いや、エロ本はまずいか。ああしょうがない。
冷蔵庫から出したジュースをコップに注ぎながら、覚悟を決めた。
「まあ、アイツいい奴だしなあ。振ったら凄い凹みそうだし」
心臓の音が喧しいと思ったのは初めてだ。
階段を一歩一歩踏みしめながら部屋に近づく。またシコってたりして。
「おかえりー」
「…まさかな」
「ん?どした?」
「いいや、なんでも。ほれジュース。おごりだ」
「サンキュ」
この微妙な空気、辛いかもなあ。
「あのさ」
晃が、コップを両手で持ちながらこっちを見ている。頬が赤い。
来たか…?
「誕生日プレゼントなんだけどさ」
「なんだ?」
「えと」
赤くなるなよ俯くなよ指グルグルするなよかわいいとか思ったらどうしてくれる。
あ、指で机小突き始めた。そんなにいいづらいのか?まあそうだろうな。
「なに」
ちょっと追い詰めてみる。これから掘られるかもしんないんだから、これくらい許せな。
机に頬杖をついて晃を見る。笑ってるかもなあ、俺。
「ゎたし…」
…よく聞こえなかったが、もしかして「私」って言ったのか?
「私、伸介が欲しいっ!」
言ってた。
「ん…わかった」
おもいきり眼を瞑っている晃の表情が曇る。何故?そこは拒否するのが普通だったか、やっぱ。
「そう…だよね。いいんだ、それが普通―ぅえっ!?」
今度は眼を大きく見開いてこっちを見てきた。口あきっぱなしだと間抜けに見えるな。
「なんだよ、断って欲しかったのか?」
「そ、そんなことないよっ!」
ぶんぶんと頭を振って、必死に否定する仕草が少しでもかわいいと思った俺は危ないかもしれない。
いや、あんな願いを聞き届けて心中笑っているのだから、危ない上に変だ。
ああ、そうだこれだけは言っておかないとな。
「ああそれから、あんま痛いのは簡便な」
「へ?」
何故そこで間抜けな顔をする?ああ、もしかしてあれか
「な、ちょっ、違う!伸介が私に、っていうこと以外ないじゃんっ!!」
俺が晃にinするってかー!そっちか。ちょっと助かった。掘られてるとこ想像して吐きそうだったからな。
それにしても赤くなりすぎだろ。胸の前で拳つくってこっち見つめる、とか。
喋り方も女っぽくなってきたのはそのせいなのか。
「痛いとおもうけど大丈夫か?」
頬杖をやめて真面目な顔をしてみる。これは聞いておかないとな。
晃は拳を膝の上に移して、それを凝視しているようだ。俯いているせいで髪の毛が邪魔をしている。
2〜3分たったかもしれない。晃はやっと顔を上げた。
「うん。ちょっとぐらい痛くたって、平気へっちゃら」
「ならよし」
にかっと笑って答えた晃に、俺も笑顔を返す。
机を退けて膝立ちで晃に近づいて、学ランごと片腕を掴む。
…なんでこいつ制服着てるんだ?