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偽りの城 2

名無しのアヒル氏

夫婦の部屋で二人っきりになった和海と頼子。緊張し、顔を合わせようとはしない。
二人は襦袢と羽織姿に着替え、布団の上に座っている状態だった。しかし、布団は二組ある。
これから夫婦の営みをしなければならないのに不自然である。
「え、えっと・・、頼子さんだったよな?おれ達・・夫婦の営みはできないけど・・
せっかく婚姻を結んだんだから・・・もっと打ち解けないのだけど・・。」
和海が重い口を開き、頼子と仲良くしたいと話をし出した。実は政略の都合上結婚をしたはいいが
二人共「子供が出来ない体質なので夫婦の営みがなくてもいい」という条件付きだった。
「・・・そ、そうですね・・・。」
頼子は緊張が解けない声で受け答えた。
「えっと・・・、何話そうか?うーん、趣味とか家族とか、かな・・。」
「趣味は、絵をたしなむのと、後、本を読むのが好きですね。」
「奇遇だね。おれも、絵と本を見るのは好きだな。」
「碁とか将棋はできますか?」
「結構好きだよ。よかった、おれ達気が合いそうだね。」
「は、はい・・。私も一時はどうなるかと思いましたが、優しい殿方でよかったです。」
二人は思っていたより簡単に打ち解けることができていた。
「一応、家族のこととかも聞こうかな。妹さんが付いてきたんだよな。」
「はい、い、妹以外には実家の両親と兄がいます。母は優しいです。父と兄は尊敬してますが・・。」
父と兄を語る際、頼子の声が少しだけ暗くなった。
「あ、聞いちゃいけないことだった?」
和海は頼子の声が暗くなったのに気付き、心配気に言った。
「いえ、ちょっと複雑なことがあって・・。でも、家族のことは大好きですから・・。」
頼子はすぐ弁解した。その言葉に偽りはない様だ。
「そっか・・。自分でふっといてなんだけどさ、おれの家族はあんまさ・・いいとは言えないんだ・・。」
和海はこれまでとは違う暗い面持ちで話した。
「・・・なにかあったんですか?私もこれからこの城で暮らさなければなりませんから、
松浦家の状況はなるべく知りたいです。」
頼子は和海の今までとは明らかに違う暗い様子が気になった。
「うーんと、一言で言うと内部争いかな。」
「内部争いですか・・・。」
頼子は和海の言葉に静かに受け答えた。松浦家の状況は思っていた以上に悪い様だと悟ったからだった。
「ほら、式の席に中年の女の人と隣におれら位の男の子がいただろ。あの女の人が
おれの父上の正妻の定子の方で、隣の男の子が腹違いの兄上の正澄。おれは側室の子なんだ。
母上はもう亡くなっちゃたけどね。」
和海の顔が少し寂しげになった。母のことを思い出したのだろう。
「複雑、なんですね・・。」
頼子は祝いの席での定子の様子はよく覚えていた。自分達に向けられた憎悪の目。少々複雑な事情はあるが
窪田家は父が朗らかな人柄な為か明るい人が多く、大名家としては親しみやすい家だった為
頼子はあの様な狂気に満ちた視線を浴びせられたことは初めてだった。
また、父は一途な人で母以外側室や妾は一切いない。その為正室側室という概念も頼子にとっては未知のものだった。
しかし、正室に男の子がいて、それが和海より年上ということは・・。
「家督争い、ですか・・・。」


「そう、察しがいいね。」
和海は頼子に答えた。
「窪田家は家督争いには深い縁がありまして・・。今は何も問題はない・・ですけど・・。」
頼子は複雑そうに言った。
「何かあったの?」
複雑そうな頼子に和海は問い掛けた。
「いえっ!別に・・・私や兄のことでは何も・・。む、昔の代のことなんです!」
頼子はやけに必死な弁解した。その様子が気になったが
深追いするのは悪いと思い、話題を自分の家のことに戻す。
「えっと、ウチの場合・・、父上がさ、おれのことを気に入っててさ・・。
でも、兄上には冷たいんだ・・。定子の方とも冷え切ってて・・。うーんと、あんまりいい言い方じゃないんだけど
定子の方は野心家で・・兄上にどうしても家督を継いでもらいたがってるんだ。おかげでさ、結構いやな目に合わされることも・・。」
和海は苦笑いの表情を浮かべながら話した。
「竹彦と千里が来てからは結構助けてもらえてるけどね。」
「竹彦?千里?どなたですか?」
頼子は聞き覚えのない名前を問い掛けた。
「ほら、式に刀をもった二人がいただろ。その内丸っこい目をしてて背が低めで髪をまげで結ってるのが竹彦。
凛々しい目で睫毛が長くて、髪を上の方で一本に縛ってるのが千里。」
「ああ、いましたね。二人共綺麗な顔立ちでしたからよく覚えてます。」
頼子は特徴を聞いて二人の姿をはっきり思い出した。二人が定子の方を見て険しい顔をしていたことも。
その隣にいた正澄のことも思い出した。彼に対しては定子によく似た顔をしていると思った以外印象がなかった。
母親は強すぎる邪気を放っていたのに息子の方は妙に無感情な感じだったからだ。
「お兄さんとはどうなんですか?仲とか・・・。」
「兄上と?正直疎遠かな。定子の方みたいに直接いやがらせみたいなことはしてこないんだけど、話とかもほとんどしないし。」
和海は淡々と正澄のことを話す。その様子から兄との関係の少なさが伺える。
「そっちの妹さんは?背が高くて凛々しい感じだったね。頼子さんとはあんまり似てないよね。」
和海は真子を思い出しながら言った。真子も定子を警戒の目で見ていたのを思い出した。
「は、はい、私達見た目も性格も似てないけど、だからなのか昔から仲はいいんです。あの子は頼りない私と違って
活動的で、昔からよく助けられました。」
真子のことを語る頼子は正澄を語ったときの和海とは対照的に生き生きしていた。
「仲がいいんだね・・。」
和海は頼子の様子を見てうらやましげに言った。
「でも、これからは助けられるのではなく、あ、姉として、そして和海様の妻として・・頑張っていきたいです・・。」
どこともなくぎこちない言い回しだがその言葉には強い意思があった。
「ありがとね・・。夫婦としては普通じゃないけどさ、仲良くしようね。」
「はい・・。」
二人は手を取り合った。


真子は姉とは別の一室を与えられ、そこで布団を敷き、寝ていた。しかし寝付けないでいた。
真子は枕や布団が違うから寝れないなんて繊細な性質ではない。別の理由からだった。
「思いのほか、大変な生活になりそうだ・・。」
真子は小さくひとり言を言った。その脳裏から定子の姿が離れないでいた。
顔は悪くない。むしろ、美女の部類であった。若い娘にはない色香のある熟女。しかし、その定子が放っていた邪気は
その美貌には相応しくないものだった。むしろ美しいからこそ余計恐ろしかった。その隣にいた正澄のことも
真子は気になっていた。頼子とは違い、真子は正澄に強い印象を抱いた。容姿こそ母にそっくりだったが
あまりにも雰囲気が違っていたからだ。どこか感情を押し殺した様な冷めた表情。母親の様な危険は感じなかったが
とにかく正澄のことが気になっていた。考え込み身体を襖のある方に向けた。すると襖の向こうに二つの人影があるのに気付いた。
「誰かいるの?」
真子は人影に向かって声を上げた。人影は襖の前で座り、真子を待っている様だったからだ。
たまたま通りかかっただけなら座るはずはない。
「はい。頼子様の妹君の真子様ですよね。失礼します。」
丁寧だが快活そうな声がして襖が開かれた。そこには見覚えのある二人の少年がいた。
「あ、式で見た二人組か。どうしたの。」
真子はこの二人の少年は式で見た人間の中では定子や正澄と同じ位よく覚えていた。二人とも美少年なのと
何よりこの二人も定子を強く警戒した顔で見ていたからだ。二人は立ち上がり真子のそばまで来て座る。
「我々は和海様の従者でおれ・・じゃなくて私は竹彦。こっちは千里といいます。」
「以後お見知りおきを。」
竹彦に紹介され千里は頭を下げた。それに合わせて竹彦も頭を下げる。
「こちらこそ。」
真子は二人の丁寧な態度に答えた。
「ところでこんな夜中に何の用かな?寝れなかったから暇つぶしになって返っていいけど。」
とりあえず真子は話の本題に進めた。
「用といいますか・・、真子様は式のとき、定子様をよく見ていましたよね。」
竹彦が話に乗った。さっきの紹介といい、話役は彼の役割な様だ。二人の雰囲気を見れば納得がいく。
竹彦は陽気ではきはきしてそうだが、千里は無愛想とまではいかないが真面目で寡黙そうな印象だからだ。
「あ、ああ・・。なんか・・気になって・・・。」
「どういう意味でですか?」
歯に衣を着せない竹彦の聞き方に真子は少し戸惑う。
「どういう意味でと聞かれてもな・・・。」
困っている真子の様子に気付いた千里が口を開く。
「竹彦、いきなりは失礼だ。順を追って話そう。真子様は我々が定子様を見つめていたのには気付いておりましたよね。
我々が定子様にいい感情を抱いていないのも。」
千里は自分達を引き合いにした言い方で自分達の感情を教え、話し易い様にしていた。
「やっぱりそうだったのか・・。」
真子は確認の声を上げた。
「真子様も私達と同じ気持ちで定子様を見ていたのですよね。」
千里のその言葉に真子は二人の思惑にうすうす感づいてきた。
「ああ。そうだよ。で、二人は私に協力してほしいのか?」


「はい。」
千里が返事をした。
「その通りです。千里、よかったな。思った通り察しのいい人みたいだ。」「ああ。」
竹彦も真子へ返事をした後、千里に話しかけた。
「姉とその結婚相手を危険に晒すわけにはいかないから。とりあえず事情を話してくれないかな。」
真子の頼みに竹彦が口を開いた。
「はい、まず、あの定子様は和海様の御父上の兵部様の正妻ですが、和海様は側室子でして。
定子様には息子の正澄様がいて、普通なら正澄様が跡継ぎなはずですけど、
兵部様は和海様を気に入っておりまして和海様を跡継ぎにしたがってるのですが、定子様の手前、
正澄様をないがしろにもできなくて。」
「成程、家督争いってやつか。」
「はい、それで正澄様に家督を継がせたいが余り、定子様は和海様に辛く当たることが多くて・・。
私達はそれを助けようといつも必死になってて。」
真子の言葉に今度は千里が返事をした。千里は思ったより無口ではない様だと真子は思った。
「つまり、その定子とやらから和海さんを守ってほしいってわけか。」
「は、はい!」「その通りです。」
二人は返事をした。
「当然のことさ。元々姉のことが気になってここに来たのだから。」
真子は臆面なくそう言った。
「そういや、なんで真子様が来たのか気になってたんですよ。真子様だって結婚の問題とかあるのではって。」
竹彦が聞き出した。
「あっ、いや・・。それは・・・。父上からちゃんと許可をもらってついてきたんだ。」
真子はこれまでと比べて戸惑った様子で答えた。
「よく許可してもらいましたね。」
竹彦が言った。
「と、言うより半分父上から言われて来た様なもんで・・。あ、姉上について行きたいって言ったら
父上もそうしてもらうつもりだったって言われたから・・。」
「竹彦、これ以上の詮索は失礼だ。」
千里が竹彦に耳打ちしながら言った。どうやら竹彦は聞きたがりなところがあって、
千里は他人の感情を読み取るのが上手い為それをなだめる役になってる様だ。
「あっ、ごめんなさい・・。気を悪くしないでください。」
竹彦はすぐ謝ってきた。うなだれる様子が容姿とあいまって可愛らしい。この裏表のなさが聞きたがりでも
悪い印象を与えないのだろう。
「あ、大丈夫、気にしてないから。」
真子はすぐ返事をした。竹彦の裏表のない雰囲気に好感が持てたのと、実は隠し事をしているので
後ろめたいからだった。
「遅くなってきましたね。では、この辺で。明日から協力お願いします、真子様。」
千里はそう言いながら立ち上がる。
「うん、よろしく。後、様付けや敬語は別に要らないな。君達は私の配下じゃないんだし、年も対して変わんないんだし。」
真子は外見や雰囲気で二人が自分の十七歳と同年代だと悟った。実際竹彦は十六、千里も十六なのでその読みは当たっていた。
「わかったよ、真子、でいいのかな。」
竹彦が少し笑いながら言った。やはりというか打ち解けるのが早い性質の様だ。
「そうだな、そんな感じ。竹彦、千里。」
真子は竹彦に合わせて明るい調子で二人を呼び捨てにした。
「私は呼び捨ては少し抵抗が・・。さん付けでいいだろうか・・。」
敬語は解けたが竹彦ほど打ち解けるのが早い性質ではない千里はそう言ってきた。
「別に構わないよ。」
千里の言い方に隔たりは感じられず、ただ真面目な性格ゆえのことと悟った真子は明るく返事をした。
「ではおやすみなさい、真子さん。」
「明日からよろしくね!真子。」
二人は真子にあいさつをして部屋を後にする。
「ほっ、よかった。心強い味方が早くも出来て。」
そう言って再び布団に入った真子は安心したせいか、すぐに寝ついた。


「よかったね、千里。協力してもらえて。」
竹彦が千里に話しかける。竹彦は千里よりわずかに背が低い為、少しだけ見上げている。
千里は深刻そうな表情をしている。長い睫毛が物憂げな表情を引き立てていた。
竹彦の言葉を聞いてようやくはっとなり返事をする。
「そ、そうだな。でも、この話は部屋に戻ってからにしよう。夜遅いし、
定子様や正澄様の耳に入ったら困るし・・。」
「そうだね、でも、千里どうしたの?ぼんやりしてさ、らしくないな。」

竹彦と千里は部屋に戻った。これまでは和海の部屋で一人が布団で普通に寝て、もう一人が見張りの為
着のみ着ままで刀を持った状態で眠るという方針だったが、和海は頼子と夫婦として
二人っきりの部屋で寝ることになったので今日からは竹彦と千里も二人の部屋で普通に寝ることになった。

二人は布団をひいている。
「今日から二人っきりだね。なんてね。」
竹彦がおどけた調子で言った。
「あ、ああ・・。」
それに千里が戸惑った様に答えた。
「やだな、冗談だよ。おれ、そっちの趣味は・・ないから、さ・・。」
最初こそ明るかったが段々声が小さくなっていき、表情も普段の明るい姿とは違う悲しげで物憂げなものになっていた。
竹彦は普段本当に明るい性格なのだが、時々この様な辛そうな表情をすることがある。特に女性にもてたときなど
その傾向が強い様だった。女性に対応しているときはおどけてて明るいのだがそれが終わると決まって悲しい顔をした。
竹彦は先程の真子との話を見ての通り、社交的ゆえに聞きたがりなところがあるが、意外と自分のことはほとんど語らない。
「早く寝ようか、明日から今まで以上に大変になりそうだし。」
千里は竹彦を気遣う様に言った。竹彦が悲しげな表情をすると決まって話を逸らす様にしていた。
千里にはなんとなく竹彦の気持ちが理解できた。千里も過去のことは語らない性質であった。
竹彦と違い、元々おしゃべりな性格ではないが、過去を話さないことには深い訳があった。きっと竹彦も同じなのだろう。
「そうだね、でもいまから風呂に入ってくるよ。身も心もキレイサッパリ洗い流そうってね。」
竹彦の声にはいつもの明るさが戻っていた。それを聞いて千里はほっと息を吐く。
「そうだ、千里も一緒に行かない、なんてね。」
「えっ!!!」
おどけた竹彦の言葉に千里は驚いた様な声を上げた。心なしか顔も少し赤い。
「じょ、冗談だってば。そ、そんな反応しないでよ。」
千里の大げさな反応に少し戸惑い、照れた様子で竹彦は言った。困り顔ではあるがさっきの様な悲しい顔ではない。
「じゃ、行ってくるね。キレイになったおれに期待してね、なーんてね!」
竹彦はおどけた様子を再び取り戻しながら、着替えや拭き物を持って風呂場へと向かった。
千里はその様子を見送ると真子の部屋からの帰り道のときの様な物憂げな顔になる。
千里は竹彦が自分同様言いたくない、言えない過去があるのであろうことに気付いている。
しかし、彼と千里の過去の事情には決定的な違いがある。明るい竹彦の様子を見るとそれが思い知らされる。
そして、千里が思い悩む理由はその竹彦とは違う過去の事情ゆえだった。
――私はこれから・・・どうしたらいいんだろう・・。とりあえず、竹彦が戻ってくる前に着替えよう。
千里は悩みながらも急いだ手つきで着替えを始めた。


「ええいっ!!!」
定子が怒声を上げ、いつも持ち歩いている扇を畳に投げつける。バシッと大きな音がした。
「は、母上、真夜中です、お静かに・・・。」
「この様なときに静かになどできるか!!!」
定子は諌めようとした正澄に怒声を浴びせる。
「よいか!!これはあの男の妾らへの宣戦布告の様なものじゃ!!!」
あの男とは定子の夫である兵部のことだ。夫をあの男などという呼び方をすることは普通理解しがたい。
それでももはや愛情などかけらもない兵部と縁を切らないのはこの家を己のものにする為であった。
「よりによって妾が目を付けていたが断られた窪田家とあの和海を縁付けるとはなんと忌々しい!!!」
定子は松浦家や窪田家に匹敵するほど格の高い黒河家の出身だったが実家から嫌われ
窪田家に婚姻話を持ちかけたときも実家の働きかけが弱かったゆえに兵部に先越されてしまっていた。
頼子以外にもその妹の真子がいたのでそっちにも話を持ちかけたが元々窪田家側は松浦家との婚姻に
乗り気でなかったのを兵部の強引な要求に仕方なく応じたという経緯だったので
これ以上松浦家と縁を持ちたくなかったゆえに完全に断られてしまった。
定子はここ最近そのことでとにかく怒り狂っていた。
「よいか!!お前は自分の立場をわきまえておるのか!!?」
定子は怒り半分で正澄に問い掛けた。
「・・・わたくしは、この松浦家の当主、兵部とその正妻で黒河家の娘、定子の長子で
この家の正統な後継者、です・・。」
正澄はうつむきながら感情のこもっていない声で言った。
「そうじゃ!!お前こそ、この家の後継者なのじゃ!!それなのに、あんな下賤な生まれの女から生まれた
脇腹子に入れ込むなど・・・どいつもこいつも妾を愚弄しおって!!!」
「・・・・・・。」
正澄は怒り狂う母を黙って見つめている。と言うより何も言う気になれないでいた。
「こうなったら・・・妾の恐ろしさを思い知らせてやる!!!あの思い上がった卑しい小僧と
妾を愚弄した家の小娘に目をくれるものを見せてやる!!」
定子は和海、頼子夫婦を徹底的に追い詰める考えに行き着いていた。
「お前!!!ちゃんとやるのじゃぞ!!!」
「わ、わたくしがですか・・・・。」
定子は正澄を自分の計画の実行者にするつもりだった。自分は直接動かず、他人を手駒にする。
それが定子のやり方であった。正澄もそれはよく理解していた。
「はい・・・・。わかりました・・・・。でも、和海には従者の竹彦と千里がいますから一筋縄ではいかないと思います。
それに頼子の妹君の真子も手強そうに見えます。」
正澄は定子の命に暗い声で答えた。正澄は真子と竹彦と千里が定子の邪念に気付き、
こちらを強く警戒していたのをよく覚えていた。
「そのへんはよく考えておく。あの餓鬼共は妾を生意気な目で見ておったからただでは済まさぬ。特にあの従者二人は
前々から妾の邪魔をしてきて本当に忌々しい。絶対に思い知らせてやるのじゃ!!」
自分の子と同年代の年端もいかぬ少年少女に激しい憎悪の念を燃やし、恐ろしい計画を遂行しようとしている
定子の姿は羅刹の様であった。


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