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R.m.G.-リディ失踪事件- 2

◆.Xo1qLEnC.氏

* * *
で、だ。
往生際悪く、居間で茶ぁしばいてたりする。

ソファにリディは所在無げに座る。
茶を運んできた俺は、その隣に腰掛けた。
一息付いて、吐き出す。
「あんな近くにいたのなら、会いにきてくれれば良かったのに。
…まあ、俺は留守だったけど…」
膝に頬杖をついて、リディを覗き込むと、ばつが悪そうに茶を啜る。
「迷惑…だと思って…」
「迷惑なんかじゃないよ。…会いたかった」
やがて、覚悟を決めるように深呼吸し、カップを置く。

彼女は、カップの中で揺れる波紋を見詰めながら、話し始めた。
「あ、あのね、もっとホークの事知りたくって、ずっと考えてた。
何を思って、どんな景色を見てるか、とか…でも、解るわけなかった。
オレ、村の外の事、ほとんど知らないんだから。だから…」
リディは俯き、膝の上で拳をギュッと握る。
「関係無い。また会えて嬉しい」
束ねきれず、耳元にこぼれるほつれ毛をそっと掻き上げてやると、
顔を上げる。
「貴方に近い場所で、貴方に近い生活をして…もっと貴方に近付きたかった。
そうしたら、自信が持てると思ったんだ。そうしたら…」
震えた声が途切れ、再び顔が伏せられる。
…脳が溶けそうだ。

肩を抱き寄せ、片方の手で彼女の膝上の拳を包み込む。
「俺も同じだよ。もっとリディの事、知りたかった。だからこそ
俺は、もう一度会いたかったんだ」
重ねた手をギュッと握る。
「知りたい…解りたいから、これからいっぱい一緒に過ごして、
沢山話そう。それが一番早い」
「うん…」
緊張で震えるのを誤魔化すように、握った手に力を籠めた。

「好きだ…リディ」
やっと言えた。しかし、流れる沈黙。
それでも、腕の中から逃げようとはしない。
短いような長いような時間の後、消えそうな声が聞こえる。
「ホーク、ありがとう…オレも…」
小さな体がこちらに預けられた。

「ところで。なんで、まだ男言葉なん?」
ピク、とリディの肩が動く。
「…ダメ…?」
ごまかし笑いを浮かべ、上目でチラリと視線を投げてくる。
…なんか可愛いけど、う、うやむやにはさせないぞー。
「な・ん・で・?」
こっちも笑ったまま問い詰める。
「だって、なんか、今更…恥ずかしいし…」
「どっちが今更だよ」
「んむっ…」
問答無用でリディの唇を奪う。
舌を這わすと僅かな戸惑いの後、奥へと迎え入れられる。
鼻から漏れる息がくすぐったい。
舌を存分に絡ませながら、髪を解くと甘い香りが強くなる。

翌日には、互いにそ知らぬフリで別れた、幻のような一夜だった。
でも、それは確かな現実。俺は、リディが『女』だと知っている。


手を胸に這わすと、サラシの固い感触。
緊張したように、力の入った肩を抱き締め、指に少し力を入れてまさぐる。
みつけた小さなしこりを、爪を立てて引っ掻けば彼女は逃げ出そうと
体を捩る。
「っ…あ、やっ…」
キスは中断。目の前で、細い糸が光って切れた。
頬を染め、恥ずかしげに目を逸らす仕草が可愛い。
「ほら、普通の女の子だ」
その長い髪を弄びながら言うと、耳まで赤くなった顔を胸に埋めてくる。

額に、目蓋に、頬に。顔中に口付けを落とす。
「…っ」
くすぐったいのか、恥ずかしいのか、声にならない声をあげて、
身を退こうとするリディを追う。
口元に辿り着く頃には、ほぼ押し倒した形になっていた。
そのまま力いっぱい抱き締め、耳元で聞く。
「いい?」
「こ、ここで…?」
「ここじゃなきゃ良い?」
弱々しい問い返しに、更に返すと少しためらい、そして頷く。
「じゃ、移動すっか」

床に降りてリディを抱き上げると、慌ててしがみついてくる。
「きゃっ…あ、あとっ」
「ん?」
「朝まで一緒…だよね?」
縋るように見上げられる。
「もちろん」
速答すると、リディが首に抱きついてきた。
「なら、いいよ…。あの時、部屋に戻れって言われる度、すっごい
淋しかったんだから…」
「りょーかい」

あーもー可愛いなぁ…
* * *
正直言ってね、今夜は手ぇ出すつもりは無かったんだよ。
最初に襲っちまったもんだから、告白も体目当てとか思われんの
嫌だしさ。
何よりも疲れきってて早く寝たかった。
なのに何故か、息子さんはお元気な様で…まったく…

* * *
「ちょっと、しっかり掴まってて」
リディを首に掴まらせ、背中を支える手でドアノブを捻る。
隙間に足を突っ込んで蹴り開け、そのままベッドでリディを脱がしにかかる。

「ちょ、ちょっと、やっぱ待ってっ」
「どしましたー?」
向かい合うように座り、ボタンを勝手に外されてく彼女は、やたら
焦って襟元を押さえる。
「ごめん…。お風呂入らせて。汗掻いてるし」
「どうせ、汗なんてこれから掻くんだから」
手は止めないまま、返事をする。
「〜〜〜ッ。せめて自分で脱がせてっ」
「明かり点けたままヤるのと、俺に脱がされるの、どっちが良い?」
だから、真っ赤な顔で抵抗しても煽るだけだっつーの。
理不尽な選択肢に絶句してる隙に、シャツを抜き取る。


「…もう…」
「怒った?」
動きを止め、むくれた横顔をみつめる。
「ホークのばか」
そう言う口の端が笑ってるのが見えて、俺は少し安心する。

月明かりに浮かび上がるのは、サラシの冷たい白と、肌の暖かな白。
肩の傷はもう、跡形無く消えていた。
「傷跡、残らなくて良かったな」
「うん、クリスのお陰で…そういえば!」
「な、何?」
いきなり真っ赤な顔で、胸倉を掴んでくる。
「あ、貴方が、あんな事す、するからっ…怪我、誰にも見せられ
なくて大変だったんだから!…服着たまま、治療の術かけてもらってっ…」
あんな事…?あ、キスマークか。
「わりぃ、わりぃ。少しでも長く、リディが俺を忘れないよう、おまじない」
苦笑混じりに、言い訳する。反省はしてない。
「クリスは何も聞かなかったけど、は、恥ずかしかったんだからっ
…ばかっ!」
たっ、愉しい…。
彼女は必死に睨み付けてくる。真っ赤な顔で。
てかリディ、クリスの前では普通に脱げるって事か?
羨ましいぞ、あのクソガキ…
「怪我も治ったし、今日は大丈夫だよな?これは、独占の印」
「んんっ…」
言いながらワザと音を発て、首筋に痕を付ける。
「……もう、ほんっとーにばか!」
バカと連呼されながらも、リディの照れた顔が物凄く好きなので、
ついニヤけてしまう。
油断してたら首に腕が巻き付き、鎖骨の辺りにチクリとする感触。
「ホークは私だけの、だからね」
真剣な目で言われる。
あー、顔が緩みっぱなしだ、俺。

抱きつかせたままサラシを巻き取る。
途中何度も、伏せ目がちな少女と唇を重ねた。
唇を吸う、微かな音と静かな息の音が空間を埋める。
下を覗き込むと、緩んだサラシから白い双丘が飛び出て、微かに震えた。
うわ、ぷるん、とか音でそー…
そんな光景に思わず見入っていると、顔の向きを無理矢理直され、
迫力無く睨まれる。
「見ないでっ」
「綺麗だよ」
もう一度口付けし、ゆっくり押し倒す。

またむくれてる彼女の、首筋から胸の谷間を通り、下腹までを指でなぞる。
「…んっ…」
ビクリと震えるが、息を止めて声を堪えているようだ。
「こっちも早く脱がないと、使い物にならなくなるな」
「あっ」
脚の間を擦れば、厚い生地の上からでも反応する。

「はい、腰浮かせて〜」
留め具を外していうと、おずおずと言うことを聞く。
ジーンズを引き抜き、露になった白い下着には、既にシミが浮き出ていた。

「遅かったな。もう、濡れてる」
「やぁっ…」
シミを撫でると脚を閉じて、そこを隠そうとする。


脚が閉じきる前に滑りこませた指を、秘裂に押し込むように擦りつけると、
じわりと水気が滲み出す。
「脱がせただけで、こんなになっちまうの?」
「や、ちがっ…あ、やぁっ…」
否定の言葉も最後まで紡げず、泣くような声に変わる。
腰の浮いた所から手を入れ、足ごと持ち上げ下着をゆっくり引き抜くと
透明な糸が伸び、全てが晒された。

リディが、ゆっくり起き上がってくる。
「ホークは私が脱がせるっ」
全てが赤く染まる中で、変わらず涼しげな色の瞳に見据えられる。
「どうぞ」
意地悪く言ったまま動かないでいると、一糸纏わぬ体は、俺の視線から
逃げるように脇に移動し、上着を剥ごうとする。
この上着、ボタンなどは無く、前を一ヶ所紐で止めただけの簡素な物。
結びっぱなしのその紐を解くため、半分抱きつかれる形で腕が伸びてくる。
腕に胸の先端が掠ると、触りたい欲求が膨らみ始めた。

ちらりと視界に入る白い脚を撫でると、悲鳴が聞こえる。
「どした?」
「い、いきなり触るから!」
「暇だったから、つい」
笑って受け流すと、釈然としない顔のまま、剥いだ俺の上着を羽織る。
折角脱がせたのに、とも思ったが、その恥じらいと、開いた上着の
合わせから覗く、細い体がツボだったので一先ず見過ごす。

シャツを脱がされる間にも、どさくさに紛れて体を触っては怒られた。
上半身は裸にされる。

さて、次は…と。
リディさん、俺の前に座り込み、躊躇してるご様子です。
やがて、そろそろとズボンに手が伸び、震える手がボタンを外し、
ジッパーを下ろす。
そこから覗く俺の下着は勿論、膨れ上がってる様が如実に見えて…
あーあ、固まっちゃった。
なんかこっちまで、恥ずかしくなってきたよ。


「よく頑張りマシタ。後は自分で脱ぐよ」
「駄目!」
腰に手をやると、真っ赤なままで叫ぶ。
意地っぱりだなぁ…
でもやっぱ可愛くて、頭を撫でてやる。

「そ、そのままね…」
立たされた俺の腰から、ズボンと下着が同時に下ろされる。
モノは元気良く飛び出て、リディの視線に晒された。
彼女は反射的に目を逸らすが、また恐る恐るこっちを向く。
「こ、こんなのが…?」
「そ、こんなのが…ぅッ!」
ニヤリと笑うと、無言のままいきなり裏筋をツーッとなぞられる。

…出るかと思った。お嬢さん、それ反則…
「気持ち…いい?」
不思議そうに見上げる青い目。
もう駄目だ。犯る。


「ひゃっ!あ、んっ…」
中途半端に下ろされた服を脱ぎ捨て、そのまま押し倒した。
抗議しようとする口は、口で塞ぐ。
手を秘部へ伸ばすと、クチュ、と卑猥な音を発て、俺の指は飲み込まれた。
「ん…ふっ…ぅ」
指を動かすと、押しつけるように重ねた唇から、苦しげな息が漏れる。
ひたすら逃げようと捩れる痩身を、掻き抱いて捕らえた。

「ふはぁっ!ん…あっ、あ、やぁっ……ああぁっ」
唇を解放すると、空気を求めて開かれた唇から、嬌声が溢れ出る。

指を二本に増やし、中を押し広げながら、親指で蕾を押し潰す。
「はぁっ、あぁっっ…うぁ、やぁっ…」
嫌、といいながらも、擦り付けるように腰は動く。
顔を隠すようにかざされた腕は力が無く、今にも崩れ落ちそうだ。
反らされた身体の上で、妖しく揺れる双丘。その先端を口に含み、
舌で転がす。
肌は熱を増し、隘路が指を締め付ける。
強く歯をたてると、全身を震わせ、高い嬌声があがった。

羽織ったままの上着は乱れ、もはやその用途を為していない。
「イッた?」
荒い息のまま、身体を投げ出す彼女に声をかけても、僅かに顔を背けるだけ。
強く噛んでしまった先端を舐めていると、細い腕が俺の背中に回される。
「っ…ホーク…さっきの…んっ、恐い…」
「いきなり押し倒して、ごめんな」
「……すごく、ドキドキして、頭の、中…真っ白に、なって…何も
わから、なく…なる」
それって、つまり…
笑いを堪えられないまま、頭を撫でてやる。
「……大丈夫だよ。俺は、リディがそうなってくれた方が嬉しい。
恐いなら、俺に掴まって」
「うん…」
リディは目を閉じ、背中の腕が俺を抱き締めた。


蜜の溢れるそこに、自身をあてがう。
下から見上げる濡れた瞳は、いつかと同じ光景。でも…
「好きだよ」
あの時は飲み込んだ言葉が、素直に出てくる。
少女は笑って応えた。
「…大好きよ」
その声を聞き、一気に貫く。
俺からは感歎の、リディからは苦悶の息が漏れる。
「…痛い?」
尋ねても、首は横にしか振られない。
「無理するなよ」
前よりは余裕のありそうな微笑みに口付けし、動き始めた。

暖かい肉はまだ固く、痛いぐらい絡み付く中を往復する度、
抱きつく腕に、力が入る。

「んっ…くっ…すき…ーク…あっ」
嬌声の合間に、繰り返し混じる掠れた声。
腕の中の少女が、気が狂いそうなくらい愛しい。
「好きだよ、リディ…」
顔を近付け囁くと、キスをねだるように、頬へと手が滑ってくる。
誘われるままに、唇を貪る。

―気持ちが良い。
瞳が、肌が、吐息が、言葉が…
俺はリディに満たされていく。
もっと。
もっと深く抉り、犯し、汚したい。
頬の手を取り、指と指を絡めベッドへと張りつける。
熱に揺れる、青い双眸には俺が映る。
腰の動きを大きくし、より強く打ち付ける。
「ふ、はぁっ、…ああんっ、ぅああっ!」
隙間なく自身が埋まる隘路は、逃がすまいと絡み付く。
しかし、その奥から沸く蜜が動きを助け、肉と肉は激しく擦れ合い
、粘り気のある液が泡だつ音が響く。

どちらからともなく握り合う指の力に、限界を悟る。
「ホォ…クッ…!」
このままで居たいけど…

ギリギリまで引いて、奥まで一気に突き上げる。

高い嬌声を上げ、跳ねるように震える少女の顔をみつめていた。
未練を振り切って自身を引き抜き、彼女の腹を白濁に染める。

「っ…はぁーっ」
眩暈に近い感覚に深く息を付き、少女の首元に顔を埋める。
甘い女の匂い。汗や、あの店の匂いの混じるそれを吸い込む。
小さな体を抱き締めると、細い腕が抱き返してくる。
こうしているだけで、気持ち良い。
息が修まるまで、そうして抱き合っていた。


* * *
目が覚めたのは、太陽が南天に差し掛かる頃。

あのまま、寝ちまったか…
ぼやけた視界には穏やかなリディの寝顔。
彼女も慣れない仕事で疲れてたんだろう。
髪に手を差し入れても、気付かず眠り続けている。
梳くと少し乱れた黒髪が指に絡み付いてはスルスルと抜けていく。
…猫っ毛だ。

今日は何をしよう。
リディはどのくらい、こっちに滞在するのだろうか。
時間は限られている…

そういや、部屋のドアが開けっ放しだ。
…どーでもいいや。もう少しこうしてたい。

居間も片付けて…

町に…


あ、庭…



微睡みは、再び意識を飲み込んだ。

-end-


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リディ失踪事件・ちょっぴりオマケ

最初の事件の時、突然の事で僕達はいっぱいいっぱいになってた。
でも、リディが僕の前で弱音を吐こうとはしなかったのは、彼女が
僕の保護者である事を自認し、それによって自分を保ってたからだと思う。
だから、僕がリディのためにできたのは、被保護者として
振る舞う事だけだった。

リディは本気で嫌がってたのに、それを押し切ってホークに
協力してもらったのは、そのため。
彼女のリスクを減らす為にも、前線向きの頼れる協力者が欲しかったんだ。
この際『頼れる』ってとこは妥協したけどね。

だって、父様の友人を探してたのだから、経験積んでそうなオジサマを
期待してたワケで…。
トビーさんの代わり、と紹介された彼は、少々若すぎた。
まあ、結果から言えば頼りにはなったのかな。
帰り道でのリディは、すごく落ち着いてたから。
(別の意味では、落ち着きなかったけどね)


もう狙われなくなった、ってのもあったんだろうけど、僕が寝込んでる間に
何かが変わっただろう事は、想像ついた。
そして、リディがホークを好きだって事も。

* * *
「あー、焦れったいねぇっ。ホークも男なんだからハッキリ言えば
良いのに!」
厨房から出てきたメイさんは、包丁を握り締めたままで、少し恐い…。

カウンター席に移動した僕達はメイさんも混じえ、リディとホークの
観察をしていた。
どっちも赤面して、固まってるのが見える。
あーあ、何歳だよ。あのヒト達…
「上手くまとまったとしても、ホークはリディちゃんを置いて
帰りそうなのよね。甲斐性無いから」
「あぁ、やっぱり?リディはなー…どうだろ。たまに脊椎反射で動くから」
好き勝手言う僕らを、ママが諫める。
「アンタ達、いい加減にしときなさいよ。後は本人達の問題なんだから」
…存在は非常識なのに、考えは常識的なんだ、この人。
「だって僕、実の父に踊らされてここまで来たんだよ?少しは楽しんで
帰らないと、割りに合わないよ」
「アンタ…」

ママが何か言い掛けるけど、無視。僕はある計画を提案した。
「ね、こんな人の多いトコじゃ進展しなさそうだからさ、無理矢理
二人っきりにしちゃおうよ」
「…アンタ達がほっといてあげれば自然」
「悪くないね」
乗り気のメイさんに遮られ、撃沈するママ。
この夫婦の力関係は解りやすいな。
「で、なんか手段は?」
興味深々といった感じに、ローズが身を乗り出す。
「転送魔法でホークとローズを帰すフリして、リディ達だけどっか
飛ばしちゃおうかと」
その後の二人を観察できないのは、残念だけどさ。


「そんな事出来るのかい?」
「よゆーよゆー」
「じゃあ、ローズはうちに泊まるか!ホークんちまで飛ばしちゃえば、
戻ってくる気力も無くなるだろうさ」
「うん!そうする〜」
女性二人の賛成意見が出れば、決まったも同然だな。
しかし、今度のママの制止はちょっと強気だった。
「ちょっと、待ちなさいって!リディちゃんは、嫁入り前の女の子なのヨ?
ホークちゃんが、いつケダモノになるか…」
『そんな今更』
三人の声が重なる。
「あら、あんた達気付いてたのかい?」
「推測の域は出てなかったけどね。まあ、なんとなく」
「私もなんとなーく。でも、メイさん達まで気付いてんだね」
「ホークは酔うと、よく喋るからねぇ…」
メイさん、勘がいいからなぁ。
口滑らせなくても感付きそうだよ…

余談。このヒト、初対面の時に『リド』の性別見抜いてた。

「で、でもっ!一回くらい過ちがあっても、やっぱりお嫁さんに
なるまでは…」
「スネイル、あたしたちは?」
「そ、それはアナタがっ…!」
メイさんが横目で睨むと、ママは赤面して言い淀む。
この夫婦って…
バランスは取れてるんだろーな。

「ママって少女趣味なのねぇ」
「アンタ達がおかしいのよ〜っ!」
うーん。常識的で純情なオカマか。
「まあまあ。僕達の村もさ、表向きはそんな事言ってるけど、
時間はあっても娯楽施設は無し。ホントのところ、婚前交渉も
当たり前なんだよ」
「そーじゃなくってぇっ、リディちゃんの意思は!?」
諦め悪いなー。
「大丈夫、リディには奥の手があるから。逃げたかったら簡単に逃げれるよ。
ああ、それでショックに打ち拉がれるホークも面白そう」
「人でなしぃっ」
見た目ごっついおっさんに、潤んだ上目で睨まれるのは、ちょっと
背筋が寒い。
「…解ったよ。リディが、自分の意思でホークと二人きりになれば
いいんだね?」

* * *
それが、ホークとローズを置いて僕が帰る、という作戦なのだ。
僕の保護者を自認してるリディなら、僕の不始末を片付けようとする。
帰り際に、ホークの疲労を強調しておいたから、彼が歩いて帰ると
言っても、リディは聞かないだろう。
レッドムーンに泊まると言っても、部屋割りはメイさんが握ってる。
ローズと僕の退場は、わざと不自然に演出しといたから、ホークも
何か企まれてるのに、気付くはず。
うっすい壁のあの宿で、二人で隔離されるぐらいなら、おとなしく
家に帰るだろうさ。
まあ、それでもまだ非道だ、と泣き崩れるオカマがいたけど。
ホークを送ってった後、帰るも帰らないもリディが選択すれば
いいんだもんね。


* * *
「よっ…と」
空間の歪みを越え、自分の家に辿り着く。
夜の農村は暗くて静かだ。
さて、後は…

門扉をくぐり、真直ぐに父様の部屋に向かう。
「父様の◆※★§!!」
部屋に踏み込むなり、熱い想いを吐いてみる。
「おお。クリス、帰ったか!」
ベッドの上には、僕と同じ金髪のおっさん。
僕の悪口雑言を無視した、陽気な出迎えに余計腹が立つ。
「こんの嘘つき親父がっ」
「冷たいな、息子よ…。で、リディはどうだった?ホーク君とは?」
こーゆー話になると、目ぇ輝くんだから…
「さぁね。今頃仲良くやってんじゃないの」
「そうか…」
父様の顔が哀しげに歪む。
この人でも、自分が育てた娘が余所の男に取られるのは心が痛むのだろうか。
どっちかってゆーと、余所様の娘さんの父親(と、旦那さん)を泣かせる方が
多い、この人が。
「協力してあげたのか?」
「なかなか煮え切らないからさ、無理矢理二人きりにしてきたけど?」
この人でも、自分の娘の貞操は、気にするのかな。
様子を伺ってると、肩を落として何か呟いた。
「……賭けが…」
「賭け?」
「あ?ああっ、いや、なんでも無いんだ。うん。リディ、幸せに
なるといーなー」
額に汗を光らせながら、やたら明るい笑顔が怪しい。
「正直に言わないと、僕が握ってる浮気の証拠…」
「うっ…待て、落ち着けっ!話すからっ!!」

「何?」
僕が父様に詰め寄ると、目を泳がせながら話を始めた。
「いや、昔なー…リディが生まれた時に、ペルジオの溺愛っぷりが
面白くて、トビーと冗談で話してたんだ。娘が嫁に行く時、どんだけ
ペルジオが泣くかってな」
「それで」
「当時、ホーク君は産まれてたから、もし私に男の子が産まれたら、
どっちの息子がリディを射落とすか、賭けようって…」
「で?僕、男だよねぇ」
「まあ…お前が産まれた時に、ちょっと話題に出たりはしたが、
トビーがホーク君を、こっちに連れてくる事も無かったから、
すっかり忘れてたんだ。トビーも、忘れてたはずだったんだ」
「ほぉー」
「だが、あの事件の後、トビーが見舞いに来たんだ」
「何時の間に!?」
「ああ、あいつはいつも、こっそり来るんだ。
で、その時にその話を蒸し返されてなぁ。何を今更、と思ってたが
リディの様子はおかしいし、探りをいれようと…」
「それでリデイを泳がせてたんだね?でも、何で僕まで騙すのさ!」
「いや、その…賭けに負けるのは癪だし。この機会にお前が目覚めて、
リディとホーク君の間を、裂いてきてくれないかと…」
「……馬っ鹿じゃないの?」
もう、これしか出て来ない。この人、馬鹿だ!絶対そうだ!!


僕とリディはずっと一緒に暮らしてきた。家族のように。いや、家族だ。
不本意ではあるが、村でリディは、僕の第二の母と言われている。
そんな彼女に、今更そんな感情を持てるものか!
「に、睨むなって。…昔はリディが家出する度に、お前もくっついて
行方不明になってたよなぁ…」
「急に何さ…。覚えてないねっ」
実は覚えてる。

村の皆は、リディは小さい頃から活発だったと言う。
けど、僕の一番古い記憶では、彼女は部屋に閉じ籠もりっきりだった。
僕はリディが大好きで、いつもまとわり付いてた。
いつしか、家を抜け出すようになったリディを追いかけて、
付いて行けずに迷子になった事がある。
一回迷子になってからリディは、後を追う僕の手を引き、一緒に
連れていってくれたっけ。

「お前が一人で帰って来たという事は」
僕の回想は、父様の声で打ち切られる。
「ちゃんと親離れも、子離れも出来たようだな」
そのニヤリと笑う顔に、思い出に和んでた気分がガラガラと崩された。
「もう寝るっ」
部屋を飛び出す間際に、声が聞こえる。
「おーい、たまには実の両親にも甘えてくれよ」
「ふんっ」
勢い良く扉を閉めて、廊下を走る。

淋しくない訳じゃない。
リディの吐けない弱音を引き出して、支えてあげられるのは、僕じゃない。
それは少し淋しくって、凄く悔しい。
でも、それは役目が違うだけの事。
僕は、僕しか出来ない事でリディを手伝って、支えてあげるしかないんだ。

いいさ、賭けの事で父様の弱みをまた一つ握った。
それに、僕はリディの事を誰よりも知ってる。それは変わらない。
そうだ。しばらくは、ホークをからかって遊んでやろうか。

…今頃、上手くやってるかな。
僕が『身を呈して』チャンス作ってあげたんだから、これで何にも
変わって無かったら怒るぞ!




…あーあ、今度リディに会ったら、説教だろうなぁ…

ー本当に、終ー


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