「ん……んっ……」
お互いの激しすぎる心臓の音が聞こえる。健の指が耳をくすぐると、ぴくんと司の体が跳ねる。
その反応に手ごたえを感じた健は、強弱をつけて耳を弄ってゆく。
「んは……司……」
顔中にキスをして、唇を首筋に落とす。
「は……ふ、あ……んっ……」
漏れる声を恥ずかしがって飲み込む司の首筋に吸い付いて、痕を舐める。
同時に耳たぶや耳の穴の周辺を丁寧に愛撫すると、体が小刻みに震え、高い声が漏れる。
「ひゃ…や、あっ……あっ……」
司の腕が健の頭を抱く。
「……可愛い声だぜ……司……」
健の声に、手に、下半身が疼く。耳や首筋に与えられる快感はぞくぞくと全身に波及してゆく。
「かわ、いいとかっ……やぁっ…だめっ……」
「ほんとのことだから……しょうがないだろ……な、もっと聞かせてくれよ……」
首筋を責め続け、手をそっと体の間に差し込み、小さな胸を揉み始める。
柔らかく弾力のある胸をなで回し、持ち上げるように揉むうちに、乳首がその存在を主張し始める。
「でもっ…恥ずかしい、からっ……あっ……んんっ」
さっきまで悪口をたれていた男、いや女の声とは思えない。息を乱し始めた司の腕から抜け出し、耳元で囁く。
「……恥ずかしがるなよ……今の司の声、すごくエッチなんだからよ……だからもっと…な」
「バカ……っん……や、だめ、だってばっ……」
耳たぶを甘噛みし、舌を伸ばして耳を舐める。手は硬くとがった乳首をこね、つまむ。
「やっぱ女だな……こんな固くして……」
「や……言う、なよぉっ……そんな、あっ……」
拒絶の言葉が弱弱しい。
本気で嫌がっているのなら手も止まるのだが、かえって色っぽい声を出されるとそうもいかない。
「やだよ……言われて感じてるんだろ?乳首さっきより硬くなってるぞ」
「そんな、ことっ……あ、やぁっ……」
ひどく弱弱しく受け身だった司の目が、きっと健の目を捉える。
怒らせたかと身構える健の首に、やわらかな感触が。
「うぁっ!?」
押し当てられた唇はそのままにきつく吸い付かれ、思わず声をあげる。
「…は……お前も出るじゃん……可愛い声」
しまった。いくら可愛い声で喘ごうが無抵抗だろうが司は司だった。にやりと笑う顔に返す言葉が見つからない。
耳まで真っ赤にした健の口からようやく出てきた言葉は、反撃の予告。
「うっせ…首筋は弱いんだよ……証拠見せてやる」
言うなり司の首筋に吸い付いて、痕を舐める。
「ひゃ、あっ……あっ!」
ついでに悪戯半分に乳首を抓ると、びくり、と背が跳ねる。
「…ぁっ……健……」
「ん?何だ?」
すがるような声に満足げな表情を浮べて、司を抱きしめる。
「その……もう、いいよ……」
健が固まる。もういいよ、という言葉の意味が否定的に取れてしまったのだ。
「……へ?……それって……気持ちよくなかったってことか?」
顔を覗き込んで、落胆の色をにじませた声で問いかけると、司の赤い顔がそっぽを向く。
「じゃなくて……その……気持ちよかった、から……もう……」
「……もう?何だ……え、まさか」
ようやく健もわかりかけたのだが、それより先に司が動いた。ふいに健の手を取って、自分の股間に触らせる。
「え?いきなり……あ……」
下着の上からでも、そこが濡れていることはわかった。指を動かすと、ぬるりとした感触。柔らかな花弁。
確かめるようにそっと手を動かすと漏れる、ため息。
「…司……お前……」
「………」
答えられない司を見つめていると、素直ではないこの反応も可愛く思える。
そして生まれて初めて女の秘部に触れた興奮が、体を熱くする。
「なぁ…直接触っていいか?その…司の……」
それでも、相手が相手だからなのか、若いせいか、恥ずかしさを隠すように耳元で卑猥な単語を囁く。
その空気の振動に首をすくませて、司は首を縦に振る。
「ん…うん……」
ごくりと唾を飲み込んで、下着の中に手を伸ばす。頭の中では善良な自分が優しくしろよと言っている。
しとどに濡れた秘所に指を這わせると、愛液が指に絡んでもっと、と誘う。
「うわ……」
思わず声に出して、ゆっくりと愛撫を続ける。強張った司の体からも力が抜ける。
「ん、は、う……んんっ」
鼻にかかった高い息が漏れる。
視線は健の表情と室内の間をさまよっていたが、ふと下を向くと下着を押し上げている健の股間が見えた。
その視線に気付いた健が、少し言いよどむ。
「……あ、いや……」
それを羞恥と受け取った司は慌てて視線を戻したのだが、健は司の手を取って自分の股間を触らせる。
「……司……」
「……う……あ……」
さきほど自分がした行為をそのまま返されたら、このあとすることももちろん決まっている。
戸惑いを隠しきれない司の表情を見ると健は少し不安になったが、すぐに期待通りの快感が走った。
司の手がぎこちなく動いて、先走りを生む。
「……う……ぁ……」
同じ手なのに、自分でするのとはあまりにも違う快感に、声が漏れる。
自分の手を動かすことを忘れていた健に、司の声がかかる。
「…な、気持ちいい?」
「…き、聞くなよ……んなこと……」
そっぽを向いた健の口から、また小さなうめき声が上がる。気を良くした司の手は止まらない。
このままではまずい、と感じた健は司の下着に手をかける。
「…脱がすぞ……」
「…うん」
ようやく司の手が離れ、体を支えて腰を浮かす。
下着を脱がすと恥毛と濡れた秘部が露になって、思わずじっと見入ってしまう。
「……あんま……見るなって……」
閉じようとする司の脚の間に体を挟み、耳元で囁く。
「隠すなよ……見せてくれよ、司の……」
「やっ…やだ、ってばっ……」
くすぐったさと羞恥に首をすくめた司が、また健の股間を責め始め、首筋に舌を這わせる。
「おい、や、やめろって……」
体を離しそうになった健が、司の背を抱いて押し倒す。
「わっ!?」
ぎゅ、と強く竿を握られて一瞬震えた健の手が、司の秘部を探る。
「止めないなら…こうだ!」
くちゅ、という水音とともに、指が押し込まれる。予想以上の狭さに驚き、少し不安になりながらも指を進める。
「…っあ……は、あっ……」
司の表情を確かめる。苦しげに眉を寄せてはいるが、声は甘い。ほっとして指を曲げて動かしてみる。
「熱くて…すごいぜ……」
「や、そんなんっ…言う、なよっ……」
痛い、という言葉が聞こえないからきっと大丈夫だ。
「恥ずかしがるなよ……さっきから濡れてるじゃんか……」
耳元で囁き舌を差し入れると、びくびくと震える。
「やぁ…ひゃっ……でも……やだぁ……」
やだぁ、とか言われると、そろそろ自制が利かなくなってくる。
「…司、その……いいか?」
じっと目を見つめて言うと、一瞬司の体が強張った。それでもしっかりと見つめ返して、頷く。
「うん……いいよ……」
ゆっくりと指を引き抜いて下着を脱ぎ捨てると、完全に勃起したペニスが震えている。
緊張と興奮で、頭の中が真っ白になりそうだ。
「……あのよ、できるだけ優しくするように、するからな……」
「ん、うん……」
抱きしめると、改めて頼りない体をしているなと感じる。その細い体が強張っている。
「だから、力抜いて、楽にしてくれよ……」
「……努力する……」
普段は見せないような優しい笑顔を浮べて、健は唇を重ね、膣口に先端を押し当てる。
「……っ……!」
びく、と司の体が緊張したのがわかる。そもそもあの狭いところに本当に入るものなのか。
「っく……」
思わず息を飲んだが、このままではいけない。少しでも力を抜こうと、口付けをしながら耳や首筋を責める。
「ちゅ…ん…んむ……」
「ん、んっ……」
ぴくぴくと身じろぐ司の中に、自分を押し込む。せまい膣口を押し広げねじこむと、背に回された腕に力が入る。
「っ…!」
お互いに、止まったらダメだ、と思う。夢中で口付けて、舌を吸い、唾液を交換する。
「ちゅ、むぅっ…んっ…」
「んんっ…んはっ…」
必死で口付けに答えながら、司は力を抜こうと努めていた。少しでも入りやすいようにと、脚を開く。
それでもカリが膣口を押し開く痛みには耐え切れず、健の背に爪を立ててしまう。
「っく……」
何とか頭を押し込めて、唇を離して息をつく。司の目に浮かんだ涙を見ると、よほど痛いのだろう。
「は…あと少し…だからな……」
「は、うん……うんっ……」
深く息をして力を抜こうとする司の奥へと、すこしずつ腰を進める。
奥まったところにある障害に気付き、思わず呟く。
「……悪い……」
苦しげな息を漏らしていた司の首が横に振られる。
そのまま強く腰を押し付け、障害をつきやぶる。
「ひ、―――――っ!!」
声にならない悲鳴が喉の奥から漏れ、まなじりから涙がこぼれる。
しっかりとしがみついた腕の力を緩めて、息をつく。
「はぁっ、は、はっ………」
痛みを逃がすように息をしながら、ぼんやりと実感する。
―あぁ、俺、女になったんだ……
長かった気がする。あれから半年しか経っているのに。いや、この日は来ないかもしれないと思っていたのに。
一度女を捨てようとさえしたのに…今ようやく女になれた。
司の感慨に気付かぬ健が、恐る恐る声をかける。
「……つ、司、平気か……?その、めちゃくちゃ痛いって聞くからよ……」
少し余裕の生まれた司は、笑ってみせる。
「平気じゃねーよ、めちゃくちゃ痛い」
「そ、そうか…その、悪いっていうか…」
すまなそうな健の気遣いは嬉しい。
「でもまぁ、わりとへーき……でもちょっと、このままだと嬉しい」
最後の甘えが本心なんじゃないだろうか。そう思うと、健気さが愛しく感じられる。
「……あのよ……我慢すんじゃねーぞ……ま、まぁ、このままでも気持ちよかったりするからよ」
健が頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
「…俺が言い出したことだからいいんだよ。……その、お前も我慢すんなよ」
「バーカ、俺は男だからな、これくらいは我慢しねーとよ」
お互い強がって言いはしたが、正直これで動いたらどうなるのかと思うと不安にもなる。
「……でも俺は……抱いてくれって、言ったんだから……」
動けよ、と言外に言う司は、どう考えても無理をしているのだろう。
それでも確かに、動かないわけには行かない。
「…じゃあ、ゆっくり動くから……痛かったら言えよな。加減なんてわからねぇんだからよ」
「うん、まぁ…期待してないし?」
いつもの口調に、思わず呟く。
「…鳴かすぞ、コイツ」
言って腰を引くと、ぬるりと膣壁が絡みつく。
「くっ!はっ…すげ…司の中……キツイけど、気持いい……」
「…ゃっ、あっ…はっ…ぅ……」
結合部に目をやると、愛液と鮮血の混じったものが見える。
罪悪感に似たものが健を襲うが、それ以上に快感が強い。
「くぅっ……ぅ…はぁ……」
前後運動をしながら、司を抱きしめて、背や腰を撫でる。
「くぅ、んっ…は、はぁっ……んんっ……」
苦しげな吐息を漏らす口に唇を重ねて、舌を絡ませる。
「司…ちゅっ……んっ……」
痛い。痛くて痛くて、逃げ出したい。それでも逃げたくはない。苦しげな声を出すよりは、と口付けに答える。
「んっ……んは……」
健の動きが変る。前後運動だけをくりかえしていたが、僅かに腰を回転させるようにして膣内をえぐる。
熱く絡み付く膣内は今までに感じたことのない快感を与えてくれるが、司はどうだろう。
「んむっ…ふあ……んんっ……」
口付けを交わし赤く色付いた司の耳を弄びながら、ふと不安になって顔を上げる。
「んは…司……お前、気持ちよくないか……?」
「…よく、わかんないっ…けど」
涙で潤んだ目が健を見つめる。苦しげに喘ぐ口からは、せつない声があがる。
「やめ、ないでっ……」
意を決したように、健は腰を打ち付ける。
「……わかった……それだけで充分だ……」
それでも少しでも司の快感を高めようと、耳を弄り、首筋をなぞり、口付けを繰り返す。
「ひゃ…あぅっ……は……」
漏れる声が可愛らしくて、その声も飲み込もうと何度も口をつける。
「んっ…は、はぁ……んっ……」
なんとか自分の気持だけでも伝えようと、健は耳に顔を寄せる。
「…司……んっ…き、気持いいからな、俺は……お前の…が、俺の…をすごく締め付けて……」
「んぅ、やぁ、そんなんっ…言わないでっ……」
恥ずかしがっていやいやと首を振る姿が、そそる。奥まで突きたてようとする腰の動きは止まらない。
「…お前も……気持ちよく、なってくれよ……」
「ん……うんっ……」
司も、痛みの中に快感がないわけではない。それを拾おうと必死になって、腰が揺れ始める。
「うっ……司…悪い…そろそろ……」
健の表情が歪む。
「だ、だから…思いっきりいってもいいか……?」
「ふ、はぁ…うん……」
こくりと首が縦に動くのを確かめて、つばを飲む。
「じゃ、じゃあ……いくぞ……!」
思い切り腰を突きたて、激しく抜き差しして膣内を犯す。
快感があっという間に限界に達し、凄まじい射精間に襲われる。
「司…司っ……!」
「ひあ、あっ…あぁっ……!」
鋭い痛みが走る。それでも司はそれを口にはせずに、僅かな快感だけをたよりに健にしがみつく。
「健っ……健っ……!」
「うおぉっ……!」
臨海に達した肉棒が最奥に突き立てられ、熱く滾った精液が勢いよく放たれる。
「っ、ひあ―――!」
びくびくと体を震わせた司の最奥には、どくどくと精液が注がれ続けている。
「は、はぁっ、はぁっ、はぁ……」
肩で息をしながら、健はしっかりと司を抱きしめる。
真っ白になった頭の中に、少しずつ現実が戻ってくる。
「はぁ…司……その……良かったぞ……お前を抱けて、すげー嬉しい……」
腕の中で同じように息をしていた司の肩が震える。
しばらくそのまま息を整えていたが、ふと司が健の目を見据えて口を開いた。
「健…話、聞いてくれるか?」
健は、声の調子からそれがとても重いものだと気付いた。
繋がったままだった肉棒を引き抜いて、じっと司の言葉を待つ。
「…………」
その口から出てきたのは、司にとってはとても辛い思い出だった。
一年前、司は男の格好をしていなかったこと。付き合っていた男がいたこと。
その男と―セックスをしようとして、できなかったこと。
「…でもよ、それは…相手も緊張してたからだろ?お前のせいじゃ…」
司は首を振る。
「わかってる。きっとそうなんだろうって思ってたし…でも、それでも俺は…」
自分に女としての魅力がないからだと、心のどこかで思っていた。
自分を抱いてくれる男はいないんじゃないだろうか。一生誰からも愛されずに終るんじゃないだろうか。
暗い水の底に沈んでいくようだった自分を、男として生活することで繋ぎとめようとした。
「…男らしく生きたいだけじゃない。女として生きる自信がなかったんだ…」
けれど真実は、弱い自分が楽な方に逃げただけだった。これ以上傷つかないように。
健は言葉が出ない。男友達だと思っていた司を抱いて、その口からこんな話を聞いて。
「…怖かったんだ…俺、ずっとセックスできないかもって……誰かと愛し合ったり、できないかもって…
だから、誰でも良かったのかもしれない。俺を抱いてくれる人なら」
健にこのことを伝えるのも怖かった。客観的に見て、自分はただ彼を利用したに過ぎないのだから。
けれど健を―友人として―好きだからこそ、黙っていたくはなかった。これで切れるなら、それはそれでいい。
そこまで覚悟して司は言ったのだ。
「……でも、俺を選んでくれたんだろ?」
健の声は怒ってはいなかった。ほっとして、司は言葉を続ける。
「……健だったら、少なくとも俺を傷つけたりしないだろうし……ダメでも、男同士の友達でいられるかなって」
その理由は、健には嬉しい。と同時に、少し寂しい。
司は自分のトラウマを乗り越える相手として自分を選んでくれたのだ。
今思うと、ものすごい荒療治というか、危険な賭けだったような気もするが。
「なんつーか…いや、俺も勢いでってとこはあったけどよ……その、ほんとに俺でよかったのか?」
思わず顔を覗き込むと、辛そうだった司の表情が僅かに緩む。
「うん……それは、間違ってなかったと思う」
視線が逃げる。ただし頬は、赤い。
「…だって今…すごく、嬉しいし……」
嬉しい。その気持に間違いはない。
こんな告白をしても、その腕に自分を抱き続けてくれているのが健だということが、嬉しい。
ただしそれを口にするのは恥ずかしい。いつも悪ふざけばかりしている相手だから―
「……お前……そういうの、すげー可愛い……」
思わず顔を上げようとて、頬に口付けられる。
「っ、か、かわいいとか言うな、馬鹿っ…!」
にらんでも、裸で抱き合ったままではすごみがない。
「いや、可愛いぞー、司ちゃん」
「ちゃんって…いい加減にしろ!」
+++++
健とはそのまま、友人でいられた。
体を重ねることも合ったし、ドキドキと胸が高鳴ることもあった。
ただ、それが恋だったかと聞かれると、首を傾げてしまう。
恋人同士というにはあまりにもふざけた友人の関係が心地よすぎて、結局それ以上には進まなかった。
お互いを好きだと思う気持が、愛しいという感情にまで発展しなかったのだろう。
健が好きだったのは"男友達としての司"と"女としての司"で、その二つは別々のものだった。
「……ごめんね、ありがとう」
口に出してみる。健と、男と女の関係はやめようと言ったときの言葉。
最後まで、自分は健に甘えて、利用していたのかもしれない。
居心地の良かった数ヶ月に別れを言って、自分は次に行くことが出来た。
健はどうなんだろう、とときどき思う。
それでも二人は何も言わずに、男友達を続けている。
『8月××日 健、マサ、カズやんと宿題、のちカラオケ』
最近、また健の名前が手帳に増えた。
隆也の名前は、最初から最後まで一度も出てこない。