「…なんだ、それ」
新聞から目を上げた隆也は、間抜けな声をあげた。
というのも、いつものごとく訪ねてきた司の首に、艶かしい赤い首輪が巻かれていたからだ。
「何って…これのこと? 」
首輪を差した司の指にはシルバーのリングがはめられていて、服は上から下まで白と黒で統一されている。
髪はワックスで軽く固められて、腰にもチェーンが二本かかっている。一言で表すならロックな服装だ。
「それだ」
「首輪」
馬鹿な会話をしている、と思いつつも、つっこまずにはいられない。
「首輪はわかってるけど、なんだってそんなモン…」
「さっきまで友達のライブ行ってたから。…似合わない? 」
確かに司のシャツは汗にまみれていて、ライブ後というのはわかるのだが、隆也がつっこみたいのはそこではなくて、というか。
「いや…似合ってる」
細い首に赤い首輪は良く映えて、首から上だけ見ているとロックとは無関係なイメージが膨らむ。
「じゃ、いいじゃん。あ、シャワー貸してね、汗で気持悪くて」
「あ、あぁ……」
明るくさっぱりと言い切った司は、隆也に近寄りもせず風呂に直行する。
取り残された隆也はさっき湧きかけたイメージを採掘する。たしかあれによく合うものがあったはずだ。
「……あぁ! 」
思い出したものをひっぱりだそうと、隆也は押入れの奥を探索し始めた。
「お風呂ありがとーございました〜」
わしゃわしゃと髪をタオルで混ぜながら出てきた司は、アクセサリーの類はつけていない。
さっきの首輪もサラシや他のアクセサリーとまとめて抱えられている。
「どーいたしまして……ほい」
いいつつソファの片端によって、司の座る場所を空けてやる。そこにすんなり腰を下ろした司の腕の中から、首輪を拾う。
「しっかしこんなもん、どこに売ってるんだ? 」
「駅の近くにね、こーゆー服ばっか売ってるお店があるんだよ。そこで買った。オーダーメイドで服も作ってくれるみたい」
司の腕が動くたび、微かな飛沫が顔にかかる。
「ほー。司がこういうの好きだとはな」
「学校じゃ私服の趣味なんてわかんないもんね。っても、流石にライブでもなきゃこれはつけられないけど」
司の手が首輪に伸びる。大人しく返してやると、慣れた手つきでそれを首に巻いた。
「ね、ほんとに似合う? 」
じっとのぞきこんでくる司には、やっぱりアレが良く似合いそうだ。こっそりと後ろに隠していたものに手を伸ばし、司に笑いかける。
「うん。良く似合う。…で、ついでにな」
前と後ろを確かめて、それを司の頭に装着させる。
「…何これ」
「猫耳」
黒くてふさふさとした、猫耳のカチューシャが司の頭に乗っている。予想通り、良く似合う。
「いや、猫耳はわかってるんだけど」
さっきとは逆の会話をしながら、隆也は司の顔を両手で包む。
「すっごい似合ってるぞ」
ちゅ、と軽く唇を重ねると、司の頬がほんのり染まる。
「……褒めてるの?」
「もちろん。食べたいほど可愛い」
言葉どおり柔らかな唇に食いついて、下唇を中心に愛撫を加える。
「んぅ…んむ……」
顔を包んでいた手を耳と首輪の周りに滑らせると、司の鼻にかかった息が漏れる。
「…ん、は……」
唇を離すと、閉じられていた目が間近でのぞきこんでくる。
二人の体の間についていた手が、隆也の肩に回る。
「…これは、先生の趣味? 」
「まさか。忘年会でもらったんだよ。未使用だ」
実際はその場でつけられ写真をとられたのが、そんなことを言ったら食いついてくるのはわかっている。
ちゅ、と首輪の下に口付けて舌を這わすと、微かなため息が漏れる。その間も手は耳の形をなぞり、鼻腔の周辺をくすぐる。
「ん、ふ……せん、せ……」
ぎゅう、と服をひっぱられる感覚に顔を上げ、司と目を合わせる。薄く開いたもの欲しげな唇が動く前に、笑って言う、
「司、Hしよう」
「……うん」